母の手紙
康介へ
この手紙を読んでいるということは私は死んだのね。あーあ、もっと生きたかった。康介の成人姿見たかったし、孫の姿も見たかった。行ってらっしゃいは言えたけどおかえりが言えなかったのが心残りだよ。
なんで病気なっちゃったんだろうね。不思議でしょうがないよ。きっと神様が私に一目惚れしたのかしらね。それしかないわね。
冗談はこのぐらいにして、私が病気にかかっていっぱい迷惑かけたね。本当にごめんなさい。
康介は良い子だから、来なくてもいいって言ったのにいつも来てたよね。おかげでお母さん病気治っちゃったと思ったよ。そんなに愛されて私は幸せ者だね。そういえば友達も連れてきてくれたわね。裕太くんは良い子だねぇ。一生大切にするのよ。
昔話を少しするけど、康介は覚えてるかしら。入院して初めの頃、私はショックで笑顔なんて作れなかった。
でもね、康介が作ってくれたお守りのおかげで立ち直れたのよ。糸は絡まってるし、穴は開きすぎだし、玉留めは出来てないしで、びっくりした。
でも、そんな不器用な康介が頑張って作ってくれた物。それが凄く嬉しかったのよ。それを貰ってから生命力が上がったのか分からないけど、言われてた余命より長く生きちゃったの。
本当に神様が居るんじゃないかなって思ったわ。でも、私がいなくなって捨てる訳にもいかないでしょ? だから、お母さんが綺麗に仕上げしたわよ。封筒の中に入ってるから使ってね。
本当に嬉しかった。こんな幸せな瞬間は味わえないだろうなって思うぐらいね。
私はずっと思ってる。康介を産んでよかったって。
本当に自慢の息子だよ。
どこに出しても恥ずかしくない。
かっこ良くて、力持ちで、努力家で、サッカーが好きで、負けず嫌いで、意地っ張りで、時にはビビりで、そんなあなたが可愛くて可愛くて、愛おしかった。
いつまで経っても、ずっと、ずっと、赤ちゃんみたいに可愛くて、愛しかったわよ。
あなたにお父さんの面白いところ教えてあげれなかったから、特別に教えてあげる。
お父さんは康介よりすんごく弱いの。びっくりでしょ。あんな無口で強がってるけど、実際は泣き虫で、私との口喧嘩はいつも負けてたのよ。
でもね、人一倍人を愛せる人なの。私の悪い所がいっぱいあっても結婚して20年も経ったのよ。すごいでしょ。
本当にいい人なのよ。私の大切な人だから、康介はお父さんを裏切らないでね。もし裏切ったら天国から雷落とすからね。
あー、いっぱい書いたね。
飽きずに読んでくれたかな?
まだまだ書き足りないくらい。赤ちゃんの頃の思い出から全部振り返りたい気分よ。でも、飽きないようにこのぐらいにしとくわね。
私は二人が居てくれたからこの世で幸せを感じれたと思う。同じこと書いてると思うけど、本当に私は幸せ者だよ。
ごめんね、水が上から降ってきてインクが滲んでるね。書き直す時間が無いからこれで我慢してね。
私みたいに弱々しくなったらダメよ。
私の子供になってくれてありがとう。
嫌いにならないでくれてありがとう。
お父さんと結婚できてよかった。
あなたの母であれたことを誇りに思う。
神様、どうか二人を幸せにしてください。
これが私の最後の願い事です。
ありがとね、バイバイ。
――――――――――――――坂本 綾子より
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