お姉ちゃんのヒミツ(妹目線の話)

「この『あたし専用目薬』、よく効くねぇ。ドライアイで目がちょっと霞むのが一発で治ったよ」

「良かったね、お姉ちゃん……」

「ねぇアネット、なんか目が引きつってない?」

「べべべべべべ、別に……」

「変なアネット……」

私はお姉ちゃんをなんとか煙に巻きました。こんなたわいない内容でもお姉ちゃんと彼女自身の体に関する話をするときは神経を使うし、結構ひやひやものだったりする。なんでって? それはこれから話します。


 あの日、お姉ちゃんが事故にあって「緊急手術」を受けたときは私も生きた心地がしなかった。その時見た保険会社と電機メーカー連名のパンフレットに「機械の体アンドロイド、それは親御さんからの『未来』という貴重な贈り物」と書いてあったのをはっきりと覚えているけど、本当にそうだよねえ。お姉ちゃんのいない世界や未来なんて考えられない。


 「あの日」の数日後、ママは私を呼び出して、こう言った。「お姉ちゃんはね、事故でね、もう、ダメだったのよ。でも、この方法なら助けられると、わらにもすがったのよ……」って。このとき言われた「機械の体アンドロイド」という単語を聞いて、私はホッとはしたけど、お姉ちゃんが機械だということを本人には絶対に言っちゃだめだよってパパやママから固く口止めされてる。期間は一応彼女が十八歳になるまで。きっとお姉ちゃんには、普通の人間として生きてほしいというパパやママの思いがあってのことだし、彼女の精神的なものとか色々考えてのことだと思う。


 ある日、お姉ちゃんの日記を見て、あの日の日記に「部屋の奥に連れて行かれて本当の『あたし』を見させられた。『あたし』はきれいに復元されてまるでお人形さんみたいだった」と書いてあって一瞬、もうバレたかと思って心臓が止まりそうだったよ。だって、それ、今のお姉ちゃんのことじゃんって思ったから。あそこに埋められたそれまでの「お姉ちゃん」だけじゃなくて。


 でも、今見てもまだ自分が機械だと思っているような行動は一切見せていないんだよね。例えば付け根にリボンが付いているようなかわいいUSBケーブルとかを買ってきて自分の体から直接コンセントに繋いで充電したりとかするようなこともないし。まだエネルギー補給は枕型ワイヤレス充電器クレイドルで間に合っているみたいだね。それと家には普通の人間が同じように使うとかなりやばいことになる「お姉ちゃん専用目薬」とか「お姉ちゃん専用ファンデーション」とかあって、彼女は毎日当たり前のように使っているけど、それらの使い心地エクスペリエンスを変だと一ミリも思っていない表情。本当に鈍感でそこまで全く考えないお姉ちゃんで良かった。「お姉ちゃん専用目薬」って実は私が定期的に台所用洗剤を薄めて作っているものだからね。それを定期的に目に差して両目脇の涙タンクに十分な量を補充しないと角膜レンズに静電気でホコリが溜まったときに洗い流すことができなくなったり、悲しくなったときにちゃんと涙が出たりしなくなるから。そして、お姉ちゃんの見た目を守ってきれいになるための専用ファンデーション。具体的に言うとシリコンでできた彼女の皮膚の傷やひび割れを埋めるためのもの。私たちがたまにこっそり電気屋さんに行って買ってきてうちの洗面所に置いておくあれ。中身は香料と色素と溶剤入りの液体シリコン。 私が日常使う香水のようないい匂いがするけど溶剤のきつい臭いを覆い隠すという役目もあるので普通の人間はそれを嗅いではいけない性格のもの。これを毎朝塗って学校に行ってる。


 それと、お姉ちゃんの体はきちんと作ってあって初期不良とか故障とかは今のところはないけどもしものときは夜に寝ている時にこっそり検査や修理をするつもりみたい。


 そして、「何も知らない妹」のフリをする毎日が続いた。私はお姉ちゃんがいつも笑ってる日常を過ごしてくれるなら、それでいい。

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