第11話 休息
「第二ステージ『白百合大博打』のクリアおめでとうございまーす」
次にやってきたのは何やら豪邸のようだった。金持ちが別荘として使っていそうな館で、先ほどのカジノのような空間よりは少し広かった。
「ですが、もう残りは7人しか残っていません……。そこまで難しくした覚えはないんだけどなぁ」
「うるせーぞ! いいからさっさと次のステージの説明をしやがれ! このステージはどうやったら突破できるんだよッ!」
作業着の女性はイライラしたように怒鳴った。確かに、このデスゲームは明確に終着点が明かされていないため、精神的な負担はとてつもないだろう。ましてやもう3人も死んでいると言われれば、冷静でいられなくて当然だ。
「まあまあ落ち着いて。いやね、デスゲームって別に1日で終わるわけじゃないんだよね。何日かに渡って色んなステージをクリアしてってもらおう! ってのがこのデスゲーム番組のコンセプトなわけ」
「それは……デスゲームが終わるまで帰れないということですの? でしたら食事などはどうすれば……」
「よくぞ聞いてくれました! そのための場所がココでーす!」
ココ……百合子が言うココとは、今ノーナ達がいるこの空間のことを指しているに違いない。
「この館にはたくさんの食料が運び込まれており、水ガス電気も完備! インターネットは使えないけど、録画映像なら見れちゃうよ!」
「なるほど。つまりここは第三ステージではなく、休息を取るためのエリアということか」
豪邸は1階と2階に別れているようで、2階には10つの空き部屋があるようだ。その中は一般的な個室。寝泊まりすることもできるようになっている。
「ま、まあ確かにオレ様も疲れてきてたしな……。いったん休憩するのも悪かねぇか」
第一ステージで体力を、第二ステージで精神力を削られた参加者達は、わりと疲れが溜まっていた。そもデスゲームの開始から、既に4時間か5時間ほど経過しているのだ。心身の疲労は当然である。
「そういうわけで、次のステージに行けるようになるまで休んでてくださーい。次のステージに行けるようになったらまたアナウンスするから、それまでに体調を整えておくように!」
百合子はそれだけ言ってプツリと放送を切ってしまった。
「……どうやらしばらく休みを取れるみたいだね」
白衣を着た女性は身を翻すと、我先にと2階の個室へと向かった。よっぽど疲れていたのだろうか。作業着の女性も彼女に続き2階へ向かう。
「なら私は食事を……」
お嬢様風の女性はいそいそと、1階にある食堂へ歩みを進めた。そして白羽と黒野は顔を見合わせて……。
「お風呂いこっか!」
「うん!」
と仲良く風呂場に直行。その場に残ったのはノーナとサロメだけになった。
「休憩……か。まあ主催者側はあんまり殺意ないみたいだし、参加者を休ませるって言葉に嘘はないのかな」
「う~ん、私はな~んか怪しいと思うけどな~。ど~にも主催者の言葉が引っ掛かるっていうか~」
サロメは首を大きく傾げて悩む。彼女は何かに違和感を抱いたようだ。
「……へぇ。主催者が嘘をついてる可能性があるってこと?」
「いや、嘘はついてないと思う。でも、嘘をついてないってだけだね。警戒しとくに越したことはないと思うよ」
しかし、ノーナは知っている。サロメのこういった直感は嫌に当たるのだ。以前、ノーナが激ヤバメンヘラストーカー女にカチコミを受けたときも、サロメは事前にそれを予知していた。サロメの優れた人間観察能力は、人間の思考や行動までもを読み取ることで、一種の未来予知のレベルにまで到達している。
「じゃあ、ちょっと調べてみる? この館のこと」
そしてノーナはサロメを信じている。だから彼女の直感も信じている。サロメが違和感を抱いたなら、それ相応の理由があるはずだ。
「い~ね。何をするにもまず情報からだもんね」
サロメは辺りをズイと見渡す。館は2階建ての合成材建築。屋内でも靴で移動する、アメリカンなスタイルのようだ。2階には10つの空き部屋があり、それが参加者達の個室になるようだ。現に空き部屋は既に2つ減って8つになってしまっている。
「私達も後で部屋決めよっか。あ、もしかして久しぶりに一緒に寝たい?」
「普通に嫌だけど」
1階は右手に風呂場があり、その奥にも2つほど何かの施設があるようだ。逆に左手には食堂があり、その奥にまた何か分からない部屋が2つある。そして館の中心……今ノーナ達が立っているここは、天井から吊らされたシャンデリア以外には2階に続く階段しかない。そしてノーナ達の背後には巨大な2枚扉が鎮座している。扉は金属光沢を放ち、武骨な装飾が施されていた。妙な威圧感すら感じさせるソレは、扉本来の役目……開閉して出入り口になるというその役目を放棄しているようにも見える。つまりどう考えても開きそうにないのだ。
「まずは……人がいない場所から調べたいね」
「なら風呂場の奥の方にある部屋達から調べよっか。多分何かしらの施設だろうと思うけど~」
サロメはトコトコ走りながら、右側の一番奥にある扉に向かった。そこを開け放てば、中には大量の本棚と書物。
「図書室みたいだね」
「時間は潰せそうだね~」
図書室には本以外にも、いわゆるDVDというやつも置いていた。DVDとは映像を記録したメモリーのことである。正式名称はもっと長ったらしいのだが、昔流行っていた映像記録媒体と本質的に同じ役割なため、その映像記録媒体の名を借りてDVDと呼ばれている。
「あ~、これ名作映画じゃん。ミストだよ、ミスト。私これ好きなんだよね~、ラストが感動的でさ~」
「相変わらず変わった感性してるね。あ、ドリアン・グレイの肖像だ。孤児院の本棚にもあったよね、これ」
2人は各々好きな本やらDVDを物色。しかしそんな悠長なことをしている場合ではない。
「ハッ! 夢中になってたけど今こんなことしてる場合じゃなくない?」
「それはそうだね。次の部屋、行こっか」
図書室を後にした2人は、そのすぐ隣の部屋に入った。そこにはさまざまな、体を鍛えるための機具が置いてある……。どうやらジム室のようだ。
「ランニングマシンにバーベル……古典的なものばかりだね」
「そういうのがいいんじゃない。そういやノーナって昔ジム通ってなかったっけ?」
「うん、一時期ね……。自衛の手段を手に入れなきゃって思ってさ。その頃1回メンヘラに殺されかけたからね」
「あ~、その時期だっけ!」
話に花を咲かせていくが、ここは特に長居せず出ていく。ノーナはともかく、サロメはフィジカル弱者なので、ジムなんかいてもつまらないだけだ。ノーナもそれを分かっているから、足早に次の目的地へ向かった。
「倉庫みたいね」
2人が次に向かったのは左側にある一番奥の部屋だった。そこは少し広めの倉庫になっていて、日用品や機械類を主とした雑多なものが積み上げれていた。
「なんか埃臭いね」
「そう? そんなことなくない?」
「サロメはいっつも甘ったるい香水つけてるから鼻がイカれてるんだね。可哀想」
倉庫でも特に何かすることもなく、2人はそのまま隣の部屋に直行。中に入ると、そこは見慣れない機械が立ち並ぶコンピュータールームだった。普通のパソコンも何台か置いてあるが、それ以外の機械類はノーナにもサロメにも見覚えのないもので、2人して首を傾げてその場を後にするしかなかった。
「インターネットは使えないって言ってたし、パソコンにも用はないよね」
「それはそうね。でも他の機械達はなんなのかしら。誰か分かる人いるかな」
とりあえず一通り見てみたものの、特段怪しいという点はない。強いて言えば、単なる休憩エリアにしては物資が潤沢に用意されすぎているというところだろうか。
「ま~何でもいいけど、あんまり長引くのだけは勘弁してもらいたいよね~」
「そうだね。キープしてる女とも連絡取れないから仕事にも影響出ちゃうよね」
それから2人は食堂へ向かった。ノーナもサロメもちょっぴりばかしお腹が空いていたからだ。食堂に入ると、真っ先に飛び込んできたのは机に座って不服そうな顔をしているお嬢様風の女性だった。
「ご機嫌よう。どうかしました?」
ノーナがそう声を掛けると、彼女は頬を膨らませて答える。
「どうしたもこうしたもありませんわ! 私がこうして座っているのに、一向に食事が出てこないんですのよ!」
ノーナは最初、言っている意味が分からなかった。しかし彼女のそのお嬢様ぜんとした風格を認めて、ようやく状況を理解した。
「多分、自分で作らないと出てこないと思うよ」
「……? なぜ私が食事を作らなくてはならないのですか? 食事を作るのはコックの役目では……?」
なるほど、これは重症だ。現代にまだこんな凝り固まった頭をしている令嬢がいたとは。
「デスゲーム会場にコックはいないんじゃないかな」
「そうなのですか? でしたらあなたをコックに任命します。早く私の食事を作りやがれあそばせ」
ノーナは眉をピクつかせる。しかしこの程度で動じているようでは結婚詐欺師失格だ。常に冷静に、慎重に、相手に心の扉を開かせる態度で接さなくてはならない。
「分かったよ。じゃあ料理を作ってくるから待ってて。……ちなみに何が食べたいとかある?」
「和牛のステーキ、松茸の土瓶蒸し、それから久しぶりにバオバブの実が食べたいわ」
用意できるわけがない。そもそもそんな食材が都合良く冷蔵庫に入っているとは思えない。しかしせっかくの頼みごとを無下にしてしまえば、このお嬢様のような女性は怒るだろう。ノーナへの信頼に傷がつく可能性もある。それだけは避けたい。
「……善処はします」
ノーナはそれだけ言うと厨房へ入った。厨房はテーブルも冷蔵庫もステンレスの銀色空間。ノーナはまず冷蔵庫の中を覗き見た。確かにステーキ用の肉は入っている。しかし、和牛などではなく外国産の安い肉だ。しかし牛肉はその安いやつしかないため、これを使うしかない。
「料理……私あんま得意じゃないんだけどな……」
そして当然、松茸もないしバオバブの実もない。あるわけがない。しかし注文された以上、それっぽいものは作らねばならぬ。仕方ないので椎茸を松茸の代わりに、ミカンをバオバブの実の代わりにすることにした。
「えっと、確か胡椒は入れれば入れるほど美味しくなる……」
ぶつぶつと呟きながら料理を進める。安物の牛肉は胡椒の衣を纏い、フライパンの上でジュウジュウ唸っている。椎茸はコンソメスープと一緒にヤカンで茹でられ、ミカンはその皮に『バオバブ』と落書きされる。ついでに白米を炊いたら完成だ。
「よし、できた!」
こうして出来上がったのは、驚異の食塩相当量40グラムステーキ、椎茸の入ったコンソメスープやかん蒸し、そして落書きされたミカンのフルコース。ノーナ渾身の力作だった。
「お待たせしました」
自信満々でノーナはそれらを銀トレイに乗せて持っていく。その所作はとても美しく、まさに一流レストランのサービスウーマン。お嬢様風の女性も思わず見惚れるほどだ。
「待ちくたびれたわ。早くお食事を」
「はい。こちらが和牛のステーキ、松茸の土瓶蒸し、そしてバオバブの実でございます」
そうしてそれらをテーブルに並べると、それを横で眺めていたサロメが吹き出した。
「これは……!」
「いかがなさいましたか、お嬢様」
「とっても美味しそうね!」
しかしサロメの反応とは裏腹に、お嬢様はそれらをフォークナイフスプーンで食べ始めた。その勢いたるや、まさに猛虎。あっという間にステーキとスープを食らい尽くすと、デザートのミカンを腹に納めてフィニッシュだ。
「美味だったわ。私専属のシェフにしてさしあげたいわね」
「光栄でございます、お嬢様」
一部始終を見ていたサロメは困惑。バカみたいな料理がバカみたいな速度で消えたからだ。どう見ても到底食えるものではなかった。しかしそれが一瞬で腹の中。まずサロメは目を疑った。次に耳を疑った。そしてこれは夢ではないかと思い、目を擦った。
「ん? サロメ目が痒いの?」
しかし夢ではなかった。サロメは乾いた笑いを溢すしかなかった。
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