この身体に駆け巡る!

麝香連理

プロローグ

「あんなに運動して、すごいなぁ。」

 校庭で部活をしている同級生を見つけた少女は溜め息が出た。少女は運動が苦手で勉強は得意なタイプであった。それでも周囲には優等生で通っており、帰宅部であっても真っ直ぐ家に向かうのであった。



 学校と少女の家の丁度間にある公園に差し掛かる。公園には学校終わりなのかはしゃぐ小学生が見えた。

 少女も昔はあんな風に走り回っていたのかと思うと、どこか懐かしそうな表情をしつつ、子ども達を見て和んでいた。


ドオォォォォォォン!


 その時、公園の中央に何かが落ちてきた。少女は急いで腕で顔を覆い、音が鳴りやんだタイミングで顔を上げた。

 砂煙が晴れると、そこには一体のイヌ型の害獣がおり、周囲には先程まで遊んでいた子ども達の姿が見当たらない。

 つまりそうなのだと少女は悟ると、涙と嗚咽が漏れた。その微かな音に反応した害獣の二つの双眸が少女を捉えた。

「ヒッ………」

 少女は恐怖で尻餅を着き、諦観の相貌で自身より遥かに大きい体躯の害獣を見上げることしか出来なかった。


 その時、イヌ型害獣が右方向に目を向けた。イヌ型害獣が鼻を鳴らし、威嚇を始めた。

 少女はそんな中でも恐怖で呆然としていたその瞬間、身体が浮いたかと思うと先程居た場所よりも数メートルも離れた場所にいた。

「ケガねぇか?」

 少女を抱えて助け出したのは金色の刺繍が施された特効服を着ている緑髪ロングの女だった。

「え?……平k臭!?」

 少女が答えようとすると、途端に漂う臭いに顔をしかめた。

 少女は直感的にタバコの匂いであると気付いた。

「あ?」

「いえぇ!?なんでもありませんんん!」

 女の圧に怯え、少女は首を高速で横に振る。


「アハッ、かにゃちゃん怖がられてるねぇ!」

 同じ刺繍の特効服を着た紫髪姫カットの女がからかうように笑う。

「佳弥!人前出るときゃファブリーズしろって言ってんだろ!」

 こちらも同じ特効服を着たオレンジ髪のサイドポニーの女が怒鳴る。

 イヌ型害獣はそんな女達の警戒を辞めてはいないが、彼女達の臭いが嫌いなようだ。


「悪ぃ悪ぃ、あんたもちっと離れときな。」

「あ…はぃ……」

 少女を下ろし、緑髪の女が背を向け、害獣の元へと跳躍した。




「っと、こいつ全然襲ってこねぇな?」

「そうなんだよなぁ、やべー音したから来たけどこれホントに害獣か?」

「さぁー?ただのでっかいイヌっころちゃんかもねぇ。」

 三人の女は腕を組んで害獣を見据える。


 このままではまずいと悟った少女が、意を決して声を上げた。

「あの!」

「「「あ?」」」

「ヒッ!………あの害獣!公園の子どもを!だから、お願いです!」

 少女の必死の懇願に、女達は公園を見た。

 そこにあった凄惨な赤を。

 女達の目が細くなり、雰囲気が変わった。

「すまねぇ、嬢ちゃん。シャベーこと言っちまった。」

 緑髪の言葉を皮切りに、女達は害獣に殴りかかった。


「おら!くたばれイヌっころ!」

「足元がら空きだぜ!」

「それでもタマ着いてンのかクソイヌ!」

 女達の戦いかたは至ってシンプル。

 他の守護者では考えられないようなステゴロだ。

 他の守護者と言えば、魔法を使ったり、ヒーローのようにカッコ良く成敗するそんなイメージを少女も持っていた。

 だからこそ少女にとって目の前の光景は新鮮だった。きらびやかに魅せるでもなく、スマートに片付けるのでもなく、泥臭く身体一つで抗う。こんな風変わりな戦いかたをしているならば、すぐ話題になるはず。しかし彼女らの姿は見たことも聞いたことも無かった。

 それが少女の興味をますます惹かせた。



「これで、終わりだァ!」

 緑髪の女のトドメの拳により、イヌ型害獣は塵となって消えた。

「ナイス。」

「終わったな。」

「おう。」

 女達が去ろうとした時。


「あの!」

「ん?おぉ嬢ちゃんまだいたのか?危ないから離れろって………」

「山義高校一年!上総富子!趣味は写真撮影と読書です!」

 少女の突如とした言葉に三人はキョトンとするも、理解できたのか、とても愉快そうに笑う。

「よし!海野辺高校一年!大槻佳弥!趣味はぬいぐるみ作り!」

 最初に緑髪の女が叫ぶ。

「海野辺高校一年ー!志垣舞!趣味は一日一暴走!」

 続いて紫髪の女が叫ぶ。

「海野辺高校一年!仙石心乃愛!趣味は昭和歌謡!」

 オレンジ髪の女が叫ぶ。

「三人揃って………

「「「レディース・愚楽美茶!」」」

 三人は決まった!と言った感じで誇らしそうな表情だった。

「…………タメ!?」

 驚愕の真実に驚いた少女、富子は人生一大声を出した。

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