第5話 逃げる豆腐屋、追う私

 今でこそタピオカとかマンゴープリンがブームなったりしているけど。

当時はまだ香港スイーツというジャンルはなかった。

後にね、きっと香港でハマった人も多いだろう伝説の「糖朝」というオシャレに改造した香港スイーツがメインのレストランが出来て以来、香港スイーツというのは世間に広まったから。


大人のツアーに混ざると、子どもは、取り残されたり一人になる時間が結構ある。

自由行動の待ち合わせで、たまたま一人ブラついていたら、上半身ランニングに短パン姿で洗面器を売っているおじさんがいた。

洗面器なんか売れるのかと思ったら。

でっかいポリバケツみたいな洗面器、タライに白いペンキみたいのがたっぷり入っていて。

「豆腐花」と書いてあった。豆腐かあ。

おじさんが、甘いと説明してくれて。豆腐なのに甘いんか・・・?

豆乳プリンのことか???

と、不思議で一個注文してみた。危機管理能力と衛生観念にちょっと怪しい私は基本何でも食べる。


プラスチックの皿で豆腐をプラスチックの小丼に掬って、プラスチックのレンゲを刺す。

それに、黄色っぽい砂糖を「サービス」と言って山のようにかけてくれる。

甘みは後からつけるんか・・・まあいいや。

味は、絹ごし豆腐よりより豆乳っぽい味で、ブリンでもゼリーでもないような不思議な硬さ。

どうも石膏で固めるらしい。

・・・石膏・・・。

まあ、歯医者でもちょっと飲んじゃったことあるし、大丈夫だろう。

食べ終わったら器返せな、と言われて、バケツに溜まったちょっと濁った水に沈んでいる丼とレンゲを見せられる。

ここが流しなわけね。ふんふん。

今なら、衛生的にどうなんだと思うかもしれないけど、当時はまあこんなもんかと納得。


食べ歩き、というか歩き食べして、じゃあそろそろ戻ろうとしたら、警察官におじさんが職質・・・されそうになって、ポリタライごと逃げた。。。


え・・・・あの・・・・丼・・・・。

待って。丼返さないと、と追いかけるも、ランニング姿のおじさんはすぐに見えなくなってしまって。

どうも、無許可で営業して怒られる所だったらしい。

屋台って許可とか無許可とかあんのかあ、と初めて知った。

正しくは屋台にすら至っていない、多分おじさんが自宅で作ったものか、誰かが作ったものをそのまま持ってきて売ってたんだろうなあ。いっぱいお砂糖サービスしてくれて、あれで罰金じゃ、損しちゃうもんなあ。


なんか悪かったな。と思ったけど、次の日また通ったらおじさんが全く普通に営業再開していた。

こういう店が結構町中にあって、カットしたフルーツとか、ニセモノの財布とか、売ってた。

おもむろにお店を出すと人がわーっと寄ってきて、わあっと売って買って、すぐ引き上げる。

その商魂逞しさと適応力の高さに思わず感心してしまうわけです。

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