隠蔽と覚醒、揺れる天秤

第11話 黒い影との対決

「リディアさん!!」


エレオノーラの悲鳴のような叫び声が、旧校舎に響き渡った。

床に倒れたリディアの傍らには、黒い影のようなものが、不気味に佇んでいる。


「あなたは…、誰…!?」


エレオノーラは、震える声で、黒い影に問いかけた。

しかし、黒い影は、何も答えない。

ただ、不気味な笑い声を上げ、エレオノーラに襲いかかってきた。


影は、右手に持った杖を振るい、禍々しい魔力を放出する。

それは、以前マティアス先生が使っていた風の魔法に似ているが、

比較にならないほど強力で、邪悪な気配を纏っていた。


「…っ!」


エレオノーラは、咄嗟に身をかわし、攻撃を避けようとした。

しかし、影の動きは速く、完全に避けることはできない。

鋭い風の刃が、エレオノーラの頬をかすめ、小さな傷跡を残した。


「エレオノーラ!」


ユリウスが、エレオノーラの名前を叫びながら、駆け寄ってくる。

彼は、腰に下げた剣を抜き、黒い影に斬りかかった。


しかし、影は、ユリウスの剣を、まるで柳に風のように、ひらりとかわす。

そして、空いた左手で、ユリウスに向かって、黒い光弾を放った。


「ユリウス!」


エレオノーラは、叫び声を上げ、ユリウスの前に飛び出した。

その瞬間、彼女の中で、何かが弾けた。


エレオノーラの左目が、深紅に輝き、右目の黒色が、より深みを増す。

彼女の体から、銀色の魔力が、まるでオーロラのように溢れ出した。


「…これは…!?」


エレオノーラは、自分の体に起こった変化に、驚きを隠せない。

しかし、今は、そんなことを考えている場合ではない。

彼女は、溢れ出す魔力を、黒い影へと集中させた。


「…消えなさい…!」


エレオノーラの叫びと共に、銀色の魔力が、黒い影を包み込む。

影は、苦しげなうめき声を上げ、その姿をかき消した。


「…エレオノーラ、今の…は…?」


ユリウスが、呆然とした表情で、エレオノーラに尋ねた。

しかし、エレオノーラは、答えることができない。

彼女は、自分の身に起こったことが、まだ理解できていなかった。


「…リディアさん…!」


エレオノーラは、我に返り、床に倒れているリディアに駆け寄った。

リディアは、気を失っているが、幸い、目立った外傷はないようだ。


「…ユリウス、リディアさんを…」


エレオノーラは、ユリウスに助けを求めようとした。

しかし、その時、再び、あの不気味な笑い声が聞こえてきた。


「…ほう、ヴァイカルトの娘…、まさか、これほどの力を…」


黒い影が、再び姿を現した。

先ほどよりも、その姿は、より禍々しく、より強大な魔力を放っている。


「…しかし、まだ、力は制御できていないようだな…」


黒い影は、そう言うと、杖を構え、エレオノーラに狙いを定めた。


「…今度こそ、終わりだ…!」


黒い影が、杖を振りかざした、その時。


「…させるか…!」


ユリウスが、エレオノーラと黒い影の間に、割って入った。

彼は、剣を構え、黒い影に立ち向かう。


「…ユリウス…!?」


エレオノーラは、驚いてユリウスの名前を呼んだ。

しかし、ユリウスは、振り返らなかった。

彼は、ただ、エレオノーラを守るために、黒い影と対峙していた。

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