挑戦……? SIDE麻生花純

 これについては後述しますが、情報はほとんど提示されました。ええ、です。

 続く情報がまだまだあります。なのでここでは、「あれから起こったこと」を記します。

 ですが一回、ここで挑戦を挟んでおきましょうか。

 現時点でもトリックを特定することは可能です。そして、そうですね。ここで正解できた人はとっておきの名探偵、高得点、ということにしてみましょうか。

 あなたはこの事件を推理できますか? 

 できなくても大丈夫。これから続く手がかりを、提示していきますから。



「すごいね、柳田警視長に期待されるなんて!」

 倉山さんが浮き浮きした様子で私の方を振り返る。

「さすが私の助手! ねぇ、大学卒業して就職する時このエピソード話しなね! きっと受かるよ!」

 あ、もちろんその頃まで科捜研に入りたい気持ちが薄くならなければ、だけど。

 優しい倉山さんはそう付け足してくれるのも忘れない。

「なんだお前科捜研入りたいのか」

 鎌田さんがポケットに手を突っ込みながらそう訊ねてくる。な、なんかこの人のガラの悪さ、秀平みたい。

「あそこは求人少ないから大変だぞ」

 水上さんが脱いでいたジャケットを羽織り直しながらそうつぶやく。この人もこの人で、クールな雰囲気、なんだか銀島くんみたい。

 だが鎌田さんも水上さんも、表情が柔らかく、微笑んでいる。

「新しい才能を見つけるってのはなんだかこそばゆいねぇ」

「若いもんには頑張ってもらわねぇとな」

 そんな二人に、倉山さんも続く。

「あなたたちも若いんだから頑張って! さぁ、みんなで行くよ!」



 それから私たちは聞き込みを開始した。第二の事件、バックルームで死亡していた高峰さんの一件が大規模で、発見者も多かったからだろう。事件が起こった、という前提を公開してもよくなったので、いくらか聞き込みもしやすかった。第一の事件の段階では一部の人しか知らない状況かつ事件の情報を公開していいかも微妙なラインだったので、さぞかし聞き込みもやりにくかっただろう。

 警視庁捜査一課の二人が先陣を切って、手帳片手に色んな人から話を聴いて回った。そうして、分かったことがいくつかあった。

 まず、最初の被害者、宮重千明さんの周辺。


・宮重千明さんは現役時代、相当モテた。色々な人と交際関係があったと噂されていた。そのいずれもいわゆる一軍男子。クラスの人気者との浮名を流していたそうだ。

・そんな宮重千明さんと言えば「里井金的事件」が有名らしい。なんでも、恋愛上の勘違いをして宮重千明さんに付きまとっていた里井浩司さんという男子生徒がいたらしく、その男子生徒が女子更衣室の近くで宮重千明さんを待ち伏せしていたところを、金的を蹴り上げて撃退した、という逸話があるそうだ。

・一部の人は、宮重千明さんが高校生ながらに喫煙をしていることを知っていた。現にこの会場でも喫煙ルームで宮重千明さんを見かけたという人がいた。

・時和会(時宗院高校同窓会)に参加している歴は長いらしく、学年の同窓会の企画を担当することも多かった。特に成人式の学年同窓会は大盛況だったそうで、千明さんと同学年の人に話を聴くと何度もその話題が上がるくらいだった。多くの会員と親しくしていたようで彼女のことを楽しそうに話す人は年配者にもたくさんいた。


 そして、第二の被害者、高峰由里子さんの周辺。


・高峰さんも一部の男子から相当人気があったらしい。現に倉山さんのお兄さんは高峰さんを狙っていた。

・当時は部室棟の大改革があったとかで、生徒が自由に使える部屋が増えたとのこと。数名の男性から、「高峰由里子が男子生徒と部室から出てきたところを目撃している」という情報を得た。どうもお付き合いしている男子がいたようだ。

・中学時代から彼女を知る女性が言うには、高峰さんは別名「生徒会長キラー」で、中学生の頃は生徒会長を二代にわたって陥落させていたらしい。どうも立場ある男子が好きらしい、とのことだった。


 さて、こうした情報を得た私は、きちんとメモに取った。それから少し、考えた。

 ――倉山さんには、捜査で得られた情報は例え彼氏にでも話すな、って言われているけど。

 でも私にできない考え方を、秀平はできる。これまでも秀平と一緒に事件を解決してきた。秀平と一緒ならできる。二人でなら、きっと真実に辿り着ける。

 私はこれまで得られた情報を……特にこの、被害者周りの人間関係に関する情報を秀平のスマホに送り付けることにした。

 LINE。端的にまとめたメモを送信する。あいつの反応を待つべく私が画面とにらめっこをしていると、秀平から返信があった。

〈ありがとうな〉

 ……それだけ? 

 しかしすぐに追伸。

〈俺の方は、もう大分わかった。そっちはどうだ?〉

〈殺害方法は分かった〉

 手短に、そう答える。

〈と言っても謎だったのは最初のエレベーターの一件だけだったけど。バックルームの一件はクロラミンガスだってすぐに分かったし〉

〈さすが花純〉

 少し、間があった。なに、なんなのこの沈黙。

 が、再び秀平からメッセージが送られてきた。

〈なぁ、この一件、終わりそうだよな?〉

 質問の意図が分からなかったが、私は答えた。

〈うん。このままうまくいけば〉

〈終わったら、今度こそ話がしてぇんだ〉

 話。

 話……そっか。

 あの時。会場D近くの第四エレベーター横のデッキで秀平が話そうとしていたこと、私まだ聞けていなかった。

 あの話の続き、したいよね。

〈分かった〉

 私は唇を噛みしめる。

 いったいどんな、話なんだろ。

 別れ、だろうか。秀平の進路、まだ聞いてない。もしかしたらその話かも……いや、これはかなり希望的な観測だ。実際は、現実は、もっと苦くて、残酷なのだ。辛い話に違いない。

 なんて、一人哀愁に浸っている時だった。

「水上警部、鎌田警部!」

 一人の男性が……水上さんと鎌田さんの階級を正確に言えるあたり、おそらく警察関係者の人間が、慌てた様子で駆け込んできた。二人が応じた。

「なんだ」

「一階駐車場で遺体が見つかりました!」

 えっ……? 

「またかよぉ!」

 鎌田さんが天を仰ぐ。

「なんなんだよもう、この同窓会はよ!」

「柳田警視長に伝えたか?」

 水上さんがてきぱきと質問を投げる。男性は首を横に振る。

「いえ、まだ……」

「警視長はメイン機械室にいるはずだ。行ってこい!」

「承知しました!」

「麻生さん、私たちも行くよ!」

 倉山さんがそう、手招きしてくる。

 私は……私は……。

 迷った。迷っていた。それは刹那的な葛藤で、私の頭は一瞬で思考した。

 この情報を、今飛び込んできたこの第三の死体の話を、秀平に伝えるべきか。

 秀平をこの件に関与させるべきか否か。

 が、ふと、脳裏に浮かんだ。

 ――二人でなら、きっと真相に辿り着ける。

 そう、思えた。

 だから電話した。

「秀平!」

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