第44話 赤根莉子(7) 私に力を貸してください

「悠太さんっ!!」


 空中でバイアを追いかけまわしていた悠太竜が力なく落ちてくる。

 支えられるわけも受け止めてあげられるわけもないのに、身体が勝手に落下地点付近へと走り出す。


「あっれぇー? 思ったより柔らかいですねぇー。前よりかなり弱くなったんじゃないですかぁー?」


 悠太竜が落ちるのに合わせて足場にしている蟻竜に高度を下げさせているバイアが何か言っているのが聞こえる。

 でもそれどころじゃない。悠太竜が地響きを立てながら地面に激突した。舞い上がった砂粒が私の体中にぶつかる。砂塵で視界も効かない。


「悠太さんっっ!!」


 砂粒が目に入らぬようにぎりぎりまで目を細めながら、砂嵐をかき分けるように落下地点へと必死に走る。全力で走るこの数秒すらも無駄に長く感じる。

 そろそろ落下地点のはず――


「あぁっ!? 悠太さんっ!!」


 砂に半ば埋もれるようになりながら、どくどくと赤い血を流している黒竜の姿がついに目に入った。

 落下の衝撃で気を失ったのか、今は意識がないように見える。


「悠太さんっ! 悠太っ!!」


 思わず大声が出てしまう。

 私の声がきっかけになったのか分からないが、悠太竜が薄く目を開くが苦しそうに顔を歪めている。


「り……こ……」

「悠太さんっ!?」


 竜化をすると古代竜エンシェントドラゴンの怨嗟の念や破壊衝動にのまれて自分の意識は奥底へと沈んでしまうが、優花との主従契約を経路パスにして古代竜を抑え込んで自分で制御できるようにしている、と聞いたことがある。実際、竜化した悠太に触れた手から魔力が流れ込んでいくのを感じたこともある。

 だから今は悠太の意識が表に出てこられない状況のはずだ。だが、何故か悠太の意識が表に出てきているようだ。


「意識が戻ってるんですか!? 大丈夫ですか!?」


 私なんて一口で丸呑みに出来てしまうような大きさの悠太竜の頭にすがりつきながら、必死で声をかける。


「あれ……これは……」


 頭付近に縋りついたせいか、悠太竜の額でうっすら光っている紋様が目に入った。

 これは……悠太の手にあった、”主従契約”の契約紋……?

 でもなんで光って……?


「莉子……はやく、に……げろ……」

「そんなことっ!!」


 ドクンッ――


 たかぶった感情に合わせて心臓が強く弾む。

 そして悠太に触れた手から魔力が流れて行くのを今更ながら自覚する。

 これって……


「あっれぇー? もぅ終わりですかぁー? 脆すぎませぇーん??」


 舞い上がっていた砂粒がようやく少し収まって来た頃、バイアを載せた蟻竜がバサバサと羽ばたきながら降りてきた。

 悠太竜の頭にしがみついたまま、バイアの方を強くにらみつける。


「おやぁぁー? お姫様じゃないですかぁー。なんでまだこんなところにいるんですかぁー? もうアナタの出番は終わりましたよぉー。アハハハハハ」


 あざけるような笑いに向けてキッと睨み返しながら、悠太竜の顔にしがみつく。

 絶対、とどめなんて刺させない。


「おやぁぁー? アナタ……魂の気配が、変わりましたかぁー? 嫌な気配の残滓がありますねぇ……」

「嫌な気配?」

「いえいぇー、こっちの話ですよぉー。アナタがたニンゲンにはぁー関係ない話ですしぃー」


 何の話かは分からないが、とにかく会話を長引かせる。

 悠太竜に触れた手から魔力はどんどん流れ込んでいる。コアになっている悠太自身の身体と古代竜の魔石以外は魔力で無理矢理構成されている悠太竜なら、魔力で傷が癒えるはず……

 少しでも時間を稼いで……


「さてさてぇー、無駄話しててもしょうがないですからねぇー。そろそろ――」

「ガァァァァァァァァ」

「おっとぉぉー」


 軽く頭を振って私をどかせた悠太竜が至近距離からバイアに向かって雷ブレスを放った。

 だが、ギリギリでバイアが手を振るって真空の壁を作る方が早い。雷は空気の歪みに沿って受け流されていく。


「莉子! 乗れ!」

「はいっ!」


 短めに雷ブレスを吐き終えた悠太竜が身を低くして背中をさらしてくれる。

 首元に跨るような形で悠太竜の首にしがみつく。


「落ちるなよ!」


 そう言うや否や、悠太竜が地を蹴って空へと一気に駆け上がる。

 ぶつかってくる風に吹き飛ばされぬよう、首にしがみ付く力を強める。


「悠太さんっ、このあとっ、どうしますかっ」


 ごうごうとした風の音にかき消されぬよう、必死で大声を出して悠太に方針を問う。

 本当はこのままダンジョンから脱出したいところだが、空を飛び回る蟻竜たちの数は膨大であり、単純な強行突破は出来そうにない。今も悠太竜は迫り来る蟻竜たちを避けながら飛び回ってくれている。


バイアあの女さえどうにか出来れば、指示が混乱した隙に脱出できると思うんだが……」


 手を振るだけでブレスは届かないし、逃げ足も速い上に近づきすぎると威力の高い攻撃もある。ふざけた口調なのに、手ごわい相手だ。

 せめて一瞬だけでも、動きを止められれば……


「(悠太! 莉子ちゃん!)」

「「菫さんっ! 脱出してなかったんですか!?」」

「(そんな大声じゃなくても聞こえるわよ。離れたところで魔力マナポーション飲んで隠れてるわ)」


 耳元で突然菫さんの声が聞こえる。以前、悠太が言っていたテレパシー的な魔法だろう。


「(二人の脱出を援護したくて様子を見てたの。何か私に出来ることある?)」


 菫さんの援護があれば……行けるかもしれない!


「悠太さん! 菫さん! 私に、力を貸してください!」


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