第39話 イレギュラーダンジョン(9) セカンドプラン
右手から吸い上げられていく魔力にクラクラとしつつ、倒れぬよう必死に足を踏ん張る。
「おぉぉー、いぃですねぇー、いぃですねぇー」
バイアがはしゃいだ声をあげるのが聞こえるが、そちらを見る余裕はない。
しかし、よく覚えていないが、反魂の宝玉を使った映像を見たときはこんなに光を放っていただろうか? 魔力を吸われているような気配があっただろうか?
蘇らせたい対象によってコストやエフェクトが違うのか?
そんな雑念に思考を逃がしながら必死に耐えていると、ミシッという嫌な音が耳に入る。
輝きながら脈動する宝玉を持つ右手にも嫌な振動が伝わってくる。
だが魔力を吸い出されるのは俺では止められず、まだまだ吸い上げられていく。
嫌な振動はどんどん強くなりミシミシとした音も大きくなっていく。
まさか――
パリィィィィィン
甲高く儚い音が広い空間に鳴り響く。
右手の中で大きなヒビが入って光を失った宝玉を呆然と見つめる。
「割れ、た……?」
ドサリと言う音がしてリオンが地面に倒れたのが見える。
反魂の宝玉が、割れてしまった。
失敗、した?
じゃあ、優花は……?
「あっれぇー? 割れちゃいましたぁー? やっぱり失敗ですかぁー」
スタスタと倒れたリオンに近づいて
うっ、と小さな
そのリオンの感情の薄い表情を見て、バイアが冷めた声を放つ。
「んー……これは44号のままっぽいですねぇー。田中さんがやっても失敗ですかぁー。やっぱり、どうやっても無理なんですかねぇー」
「どうやっても……?」
「もぉー、察しが悪いですよぉー、田中さん。田中さんに頼む前にバイアたちも色々試してみてるに決まってるじゃないですかぁー。それでもぉー、どぉぉーしても無理だったので田中さんにお願いしてみたんですけどぉー」
掴まれていた顎をパッと離され、リオンが再びドサリと倒れ込む。
そんなリオンを無視し、バイアは立ち上がって俺の方へと身体を向ける。
「やっぱりダメだったみたいですねぇー」
バイアが腰の前あたりで両掌を上に向けてやれやれと言いながら肩をすくめる。
その表情は軽い落胆と嘲笑に染まっていた。
「まぁ仕方ありません。セカンドプランですぅー」
「何を……」
「もぉー、だから察しが悪いですよぉー、田中さん」
立ち尽くす俺の元にバイアが近づいて来て顔を寄せてくる。
ニヤニヤと笑うバイアの金色の瞳から、目が離せなくなる。
「そこそこ美味しそうなお姉さんと、美味しそうな田中さんのセットならギリギリ妥協できますかねぇー」
「…………」
「ぁ、囚われのお姫様もいましたね。三点セットならまぁ及第点ですかねぇー」
バイアの言葉が思考の表層を滑っていく。
「無駄に抵抗されても面倒ですしぃー、まずは武装解除でも――」
「悠太ぁぁぁ!!!」
耳に入った莉子の声に、ぼんやりとしていた思考が急速にハッキリとする。
「おやぁぁー? お姫様は目を覚ませない状態にしてあったはずなんですけどねぇー」
バイアがくるりをこちらに背を向けて莉子が縛り付けられた十字架の方へと向き直る。
目の前の背中は、がら空きだ! ”アイテムボックス”から素早く
「”
今日の移動中に菫さんに込めて貰ったばかりの
半透明な太い鎖がガチャガチャと音を立てて絡み合いながらバイアの細い身体をぐるぐるにする。
「あら? 田中さん、立ち直りが早すぎないですかぁー?」
「知るか! 危害を加えて来たとみなして反撃するからな!」
”
バイアからちらりと視線を逸らして十字架の方へと目を向けるとセバスさんが莉子を助け出している。リオンが倒れた時点で動けるようになった隙に莉子の救助に回ってくれていたようだ。
「悠太!」
「菫さん、動けますか」
走り寄ってくる足音と共に声をかけられたので菫さんの方も確認する。黒いパンツスーツはボロボロに
「大丈夫よ」
「なら一度莉子たちの方へ合流しましょう」
「田中さぁぁーん、これ解いてくださぃよー。全然動けないじゃなぃですかぁー」
「解くわけないだろ!」
バイアに視線を戻したタイミングで投げかけられた軽口に雑に応じつつ、菫さんと一緒に莉子たちの元へと走る。
スクロールによる魔法はスクロールに込めてある魔力分しか機能しない為、今回の”
「莉子、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。すいません、迷惑かけて」
セバスさんに支えられていた莉子のところにたどり着き、頭からつま先までをざっと確認する。
特に目立った異常はないが、なぜか妙に懐かしいというか微かな違和感がある。だが細かいことを確認していられる状況でもない為、違和感は頭の隅へと追いやる。
「
「はいっ」
「えぇぇー! 聞こえてますよぉー! 放置なんてひどいですよぉー! ここまでしたのに成果なしなんて、バイアが怒られちゃうじゃなぃですかぁー!」
「知るかよ!」
地面に倒れていたリオンの元へと走り寄り、セバスさんに手伝ってもらって無理やりに背負う。意識がないのでしがみついてくれなくて重い。
バイアが妙な事を色々と言っていた気もするが、放置していくわけにもいかない。あの信用ならない女の話より、脱出した後に本人の口から事情を聞きたい。
「よし、行くぞ!」
リオンを背負った俺を囲む形になり、四人で走り出す。
後方からバイアの声だけが追ってくる。
「もぉぉー。この鎖、ぜんっぜん解けないじゃなぃですかぁー。もぉー、仕方ないですねぇー。すぅぅー…………キキィィィ!」
「「「「「「「キキィィィィィィィィィ」」」」」」」
部屋の天井付近の暗がりから聞きなれつつある嫌な声が大量に響き渡る。
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