第21話 高原ダンジョン(5) 分断~大黒蟻竜戦
「はっ!」
二本足で立った大黒蟻竜が風音を唸らせながら右前脚の鉤爪振るう。下手に受けてしまえば莉子の身体が真っ二つになってしまいそうなその一撃を、鋭い音を立てながら莉子が銀剣で弾く。
「キキィィィ」
「莉子!」
「大丈夫です!」
直後、急降下で一気に接近してきた金蟻竜の大口が莉子の上半身に迫る。チラリと目線だけ金蟻竜に向けた莉子がタイミングを合わせて地面に転がり、鋭い牙の並ぶその大口を回避する。
地に降り立って前脚を振るう大黒蟻竜と、空から襲い掛かって来ては一撃離脱していく金蟻竜の連携を俺たちはなかなか崩せずにいた。
「氷の矢よ、敵を穿て! ”
「不知火流手裏剣術! ”烈風”」
水野さんが構えた鉄扇の先から青白く輝く鋭い氷の矢が飛び、リオンの手から風車型手裏剣が風を巻きながら飛んでいく。だが金蟻竜は身体に当たるそれらを意にも介さずに飛び去っていく。
さっきから何度も同じようなやりとりを繰り返しており、どうも金色の方が
「すいません、田中さん。なかなか金色の方を引き離せなくて」
「くっそー。ダメージは通ってる感じはすんだけど、全然こっちにタゲ向けてこないね、あの金色」
水野さんとリオンが謝りながら近くに走って来た。走るたびにぷるぷる揺れている柔らかそうな物に目が行きそうになるのを必死に我慢して上空を確認する。
金蟻竜は上空を旋回して加速中であり、大黒蟻竜は莉子が鉤爪をさばきながら対峙しているので軽く相談する余裕はありそうだ。
「担当を、交換しましょうか。黒い方は眼前の敵を攻撃するようなので、それなら引き離せそうな感じがします」
「でも金色の方は……」
「そうですね。俺と莉子じゃ本当に時間を稼ぐだけで大したダメージは与えられないと思います。なので水野さんたちがどうにか魔力を温存して黒い方を倒してもらいたいです」
渋い顔をしているリオンと不安そうな顔の水野さんを励ますように、努めて明るい顔を作って続ける。
「ポーションと
「まぁしゃーないね。二匹同時は莉子ちゃんの負担大きすぎるし」
「そう、ですね。分かりました、がんばってみます」
「うんうん! やったるよ!」
三人で頷き合い、そろそろ降りてきそうな上空の金蟻竜へ目を向けつつ莉子の近くへ移動する。
「莉子! 予定変更だ。俺たちで金色の方を押さえる」
「っ! いいんですか?」
「仕方ない。金色の方がどうも莉子をご指名みたいだしな。来るぞ!」
「はいっ」
「水野さん、リオンさん。頼みます!」
それだけ言って走り出した俺に莉子が追従してくる。
「キィィィ」
「アンタはぁぁ、こっち!」
「はぁぁぁ!」
目の前に立っていた莉子を追おうとした大黒蟻竜の足元へと二人が素早く走り込む。リオンが左後脚を双剣を振るって鋭く斬り裂き、水野さんが
二人は攻撃した直後に大黒蟻竜から見える向きに走りながら、俺たちから離れるよう誘導していく。
「キキィィィィィ」
「炎の矢よ、敵を穿て。”
莉子めがけて降下しながら突進してきた金蟻竜に向けて初級攻撃魔法を放つ。もちろん一発で動きが止ほどの威力ではないが、体表に焦げ跡らしきものはついたのでダメージは通っていそうだ。
「よし、莉子。このまま二人から離れる方向に誘導するぞ」
「分かりました!」
莉子に突撃を避けられた金蟻竜が地面を蹴って上空に戻って行くのを視界に入れつつ、広場の外へと向かう。ちらちら上空を確認すれば、きっちりこっちを追ってきている。よし、この調子だ。
◇
~~side 水野雪~~
恐怖に震えそうになる身体を必死で鼓舞しながら、手に持った鉄扇の先端で黒蟻竜(田中さんがそう呼んでいた)の脚を斬り裂くように振るう。だが表面の皮膚が思いのほか硬く、浅い傷しかつけられない。
さっきは関節への打撃も私の手が痺れるばかりで効果は薄く、斬撃でも十分なダメージは与えられないようだ。
「ユキ! 下がってて!」
「でも……」
「いいから! 武器が悪かったの! せめて短剣とかにすべきだった! 後ろからバフよろ!」
私は今日はD級ダンジョンだと思って、武器は護身用短剣しか持ち込んでいなかった。とても黒蟻竜に通じる武器ではなかったので、リオンから鉄扇を借りた。でもこれもどちらかというと見栄え重視の装備であり、黒蟻竜にダメージを与えるには不向きなようだ。
リオンがそう言いながら双剣を持った両手を後ろに伸ばす形で身を低くしながら黒蟻竜へと駆け寄っていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「キキィィィィィ」
両後脚で地面を踏みしめた黒蟻竜が近づいてくるリオンへ飛びかかるように倒れ込んで来ながら前脚の鉤爪を振るってくる。
「よぃっしょぉぉぉぉ!」
『上忍』ジョブの体術スキルなのか、鉤爪がリオンへと迫った瞬間にリオンが一気に加速した。
リオンは目に追えないほどのスピードで前脚をザシュザシュと斬り裂きながら黒蟻竜の身体を駆け上っていき、四つん這い状態の黒蟻竜の背に立った。
「”双剣斬・閃”! うららららららららら!」
そしてスキルを発動させたリオンの身体が赤く光り、物凄い勢いでザクザクと双剣が黒蟻竜の背中を斬り裂いていく。羽の根本を重点的に狙っているし、まずは羽を潰して空を飛べなくするようだ。
私にできることは……リオンが攻撃する時間を少しでも作るための援護だ。両手を鉄扇に沿え、素早く魔力を練り込みながら詠唱する。
「氷の
私の指ぐらいの太さの氷の蔦が黒蟻竜の足元からぐんぐんと伸びて身体中に絡みついていく。
「ユキ、ないすぅー」
リオンがそんなことを言いながらなおも双剣を振り続ける。特に右側の羽を重点的に攻撃したようで、もう根元が千切れかけている。
だが黒蟻竜の方も、氷の蔦に縛られつつも雄たけびを上げながらリオンを振り落とそうと暴れている。
「ギギィィィィィィィ」
「リオン! 無理しないで!」
「はいよぉぉ! わっかってるってぇぇ!」
氷の蔦が、もうもたない――
「よいしょぉぉ!」
黒蟻竜の背から飛び降りたリオンが空中でくるくる前回りしてからシュタっと私の傍に着地する。
「攻めすぎよ、リオン! 二人とも無事で倒さなきゃ意味ないでしょ!」
「大丈夫、大丈夫ー! あんくらいならヨユーだし!」
「油断しちゃ駄目よ。二人であんな大物相手するんだから、安全重視よ!」
「でもおじさんからもらった使い捨てステアップの効果時間の制限はあるっしょー」
パリンという儚い音と共に氷の蔦がついに引き裂かれた。黒蟻竜は四つん這いから再び立ち上がり、苛立たし気に足を踏み鳴らした。
「ふぅぅー、まだまだ元気ぃー」
「さっきのでもう飛べなくは出来たと思うから、あとは後脚からを削って行って機動力を潰ししょう」
「おっけー!」
リオンが身体を低くしながら再び黒蟻竜へと走り出した。私はその場で深呼吸し、身体全体でリズムを取る。鉄扇を開いて
両腕を肩の高さで大きく広げ、くるくると回る。回りながら、身体をねじって両手の先の鉄扇で大きな円を描く。ゆらりゆらりと、優雅に大きく。ふわりふわりと舞う薄い上着に小さな緑色の光がまとわりついてく。
「風の調べよ、舞い踊る旋風よ、その力で我が仲間に力を与えよ! ”
黒蟻竜の足元へ走り回りながら斬り裂いているリオンの身体がうっすらと緑色に輝く。
「よっしゃぁぁぁ! 乗って来たぁぁぁぁぁ!!」
先ほどより一段階加速したリオンが黒蟻竜の足元へと走り込んでいくのが見える。リオンの戦闘に意識をとられすぎないよう注意しながら踊り続ける。
「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」
謎の声をあげながらリオンが両手に持つ双剣で黒蟻竜の後脚を斬り裂いていく。立ち位置が上手いのと素早く動き回っているおかげで黒蟻竜の攻撃は空を切るばかりだ。リオン、がんばって……
鉤爪のひっかきや後脚の蹴り、巨体を使った押しつぶし攻撃を素早い動きで避けながらリオンが黒蟻竜の脚をどんどん斬り裂き、血まみれの脚がだいぶ動きを鈍らせてきた頃だった。
「ギ、ギィィィァァァァァァァ」
「もぉぉぉ! タフすぎ!」
「リオン! ちょっと離れて!」
私の指示を聞いたリオンがバックステップからのダッシュで黒蟻竜から距離を取る。私の傍まで来て、軽く息を整えながらリオンが聞いて来た。
「ふぅっふぅっ……どったの?」
「モーションが変わった感じがするの。行動パターンが変わるタイミングだと思うわ」
「了解ぃー」
「ギ、ギィィ……」「が あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!」
「「!?」」
黒蟻竜の胸の中心にあった
そのスキンヘッドの男の顔はあり得ない程に大きく口を開けて何かを叫んでいる……?
「が あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…… ”
「「っ!?」」
”
「やばない?」
「ちょっと、やばいかも」
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