第25話   私のキャリアを積み上げるですぅ!

 フクロウの魔族が襲ってくる、その一日前のこと。ジゼルがパン屋夫婦に宿を借りていた頃、メリーヌは、とあるビルの最上階の貸し切りバーで、出会ったイケメン系美女と二人だけでお酒を飲んでいた。


 この美女の話曰く、王都の人間は魔族や魔物と戦うなんて、危険なことは一切しないため、戦闘用のステータス画面を付与される儀式すら受けておらず、さらに高級思考な彼らは低レベルなステータス画面には興味を示さない。


 そこへ、自らのステータス画面をおっ広げて、逆ナンしまくっていたメリーヌに出会ったのだ。


「私、まだまだ発展途中ですけど、これからたくさん魔法をお勉強して、大魔法使いになります! 期待しててくださいね!」


 するとイケメン美女からこんな提案が。彼女は医療系魔法士を多く抱える大病院の院長の娘だそうで、歳若く才能溢れるメリーヌを、是非親に紹介したいとのこと。


 こんなに高ステータスの人材は滅多におらず、メリーヌが回復魔法を重点的に勉強してくれるのならば、病院での地位も約束するし、王都での生活も全面的に支援すると言ってくれた。


 メリーヌは目を輝かせて大歓喜する。村一番の、異例の大出世であった。


「私、頑張りますぅ〜! あ、そうだ、お医者さんのお仕事って、どれくらい忙しいんですか?」


 あんまりにも休みがないと、いくら己の欲望に正直なメリーヌでも、心身を壊してしまう。めったにない人材だと弄される反面、滅多にいないから代わりの人材がおらず、少数人数だけで大病院を回しているとなったら、ちょっと考えねばならないメリーヌだった。もう、こき使われるのは、ごめんなのだ。


 するとイケメン美女がグラスに注いだワインを煽りながら、医療従事者は大変な激務にさらされていると白状した。そうと聞いて、げんなりするメリーヌ。楽してチヤホヤされたいのに。


「あのー、私このお店に来るまでに、いろんな人から、王都は平和であると聞きました。それなのに、毎日めちゃくちゃ多忙なんですか? もしかして、この国には病院が一軒しかないとか?」


 イケメン美女は、否定した。病院は、多すぎて問題になっているほどあるそうだ。


「え? じゃあ、どうしてどの病院もてんやわんやなんですか? あ、病院が多いのに人材が少ないからですか?」


 それもあるけども、と美女は言葉を濁らせた。


 メリーヌの顎を指先でくいとあげて、全てを知る覚悟はあるかと、その目を覗き込んできた。


「全てを知る覚悟……?」


 そんなもん知ったぐらいで出世が約束されるのならと、メリーヌは興味が湧いた。


「はい、どんなお話なんでしょうか」


 美女の口から、驚くべき話が始まった。


 一部の貴族、一部の上流階級のみが把握している真実……わざと魔族を怒らせる真似ばかりして、襲ってきた魔族に対抗するために、消えても構わない限界集落から人材をかき集めて、戦わせて賭けをしたり、剣や鎧の技工を凝らして、かっこいいファッションを流行らせることに一役買わせたり。


 特に、賭け事がこの国の経済に一役買っており、大金を賭けた戦士にかっこいい鎧を着せてあげたり、ゴテゴテした派手な剣をプレゼントしたり、またそれを流行らせて、発注を増やしたり。


 初めはただの娯楽だったのだが、だんだんと本格化してきて、賭け事だけで貧富の差がひっくり返ることもあるそうだ。もはやこの国にとって、なくてはならない中毒性の高いギャンブルになっていた。


 病院が忙しいのは、日々大怪我をする戦士の治療のためだった。ギャンブラーにとっての大事な商売道具だから、死なれては困る。


 だけど、治療には限界がある。戦士を失うたびに、遠方からまた補充する。その繰り返し。


 ジゼルたち遠方の人間は、過酷な税収で生かさず殺さずを保たれ、娯楽のためだけに国から生かされている、まるで家畜だった。


「へえ〜。じゃあ私は、家畜から脱却したってことですね? 嬉しいです! ただ使い潰されていく運命だなんて、絶対にごめんですから」


 メリーヌは高級なお酒や、食べたこともない美味しいおつまみに、舌鼓を打つ。ふと、今この幸せな時間を、絶対的に安定させたく思った途端に、ジゼルの顔が浮かんできた。何をしても永遠のレベル0.1が、この国に長期滞在してしまっては、楽しい賭け事で潤っているこの国が、めちゃくちゃになってしまうのではないかと不安になってきた。


「あの~、お姉様? お耳に入れたい情報がございまして……」


 メリーヌはジゼルの特異体質を、半ば大げさに、こけおろしながら伝えた。


「……というわけなんです~。ジゼルという名前の村娘だけ、故郷に帰してほしいんです。でも本人は融通が効かない性格してるし、おそらく誰に説得されても言うこと聞かないだろうから、あんまりにも抵抗するようだったら逮捕してください」


 イケメン美女はあっさりと了承してくれた。メリーヌは何もかも思い通りに進んで上機嫌だった。


(ここでの暮らし最高ー! これが私にふさわしい生活なんですよー!)


 厄介者のジゼルさえ消えてくれれば、自分の人生は安泰間違いなし! ……そう思っていた。



 今日の大活劇を、目撃するまでは。


「な、なんで……」


 今日なぜかジゼルが前線で戦っているのが見えたから、もはや彼女の命運もこれまでだと思っていたのに、そのまま前線で、しかも一人で魔族を退けてしまった。そして、なぜか爆発した。魔物の死体も木っ端みじんに消し飛んで、辺りがクレーターのようになってしまった。


 ひな壇が一斉に、スタンディングオベーション。あの美女は何者かと、大騒ぎになった。


「へえ……? ええええええ~~~!!??」


 目が飛び出んばかりに見開かれ、気付けばメリーヌは椅子に側頭部を強打していた。ずっとメリーヌを膝枕していたイケメン美女まで、立ち上がったから。


 イケメン美女は、ぜひジゼルと話したいと言って、他の観客と同じくひな壇を駆け下りていってしまった。


「ああ! 待ってお姉様! 行かないで~!!」


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