社会不適合者、再び!

ハカドルサボル

第1話 プロローグ

 遊び人は賢者になる。遊んでばかりいる大学生は就職せず、社会に出ても暮らしていける。そう信じていた時代が、僕にもありました。


 大学二年生の春に、留年ぎりぎりの成績で進級した僕は、卒業に向けてこれからは真面目に生きていこうと思った矢先、遊び仲間に麻雀とパチンコに誘われて大学の出席をやめた。


 麻雀、パチンコ、競馬、飲み会。おおよそダメダメな大学生が送る数多くのイベントをこなし、単位はどんどん低空飛行していった。


 中退。その二文字が浮かんだころには、まあ、いいや、と大学生なのに大学に行かず、家と娯楽施設を往復する生活をした。休学。とりあえず一年間、大学に行かず、お休みしてニート生活を送ることを決めた。いわゆる社会不適合者。一応、両親に相談したが、放任主義のせいか何も言われなかった。


 麻雀仲間と麻雀をして気楽に過ごしていた。今日。遊んでいても、このままの生活を送ることが幸せだった。しかし、違った。家に帰ると、事件が起きた。いや、事故に出会った。自己に。


 NHKのニュースが始まる午後九時。


 未来の僕がドアをこんこんと叩いてやってきた。


「おい、僕。俺は十年後の未来からやってきた三十歳の僕だ」


 彼は自分のことを俺と呼んだ。なので、僕は十年後からやってきた未来の僕を、俺さんと呼んだ。


 俺さんは無償ひげを生やし、メタボでぽっこりとお腹が出ていた。髪は薄い。サンダルを履き、よれよれの服で、幸薄そうな中年男性。


 今の僕はチー牛でまったく女子にモテないが、十年後の僕である俺さんは、チー牛+死にそうな顔をしていて、不細工にさらに磨きがかかっていた。


 俺さんは僕のことを僕君と呼んだ。


「僕君。このままじゃダメダメな人生を送るぞ」


「そうですか。俺さん。ダメダメな人生とは何ですか?」


 僕は今の生活が気に入っていた。大学に行かず、親の仕送りで、麻雀のいつもの面子で遊び歩く。バイトせず、麻雀、パチンコ、競馬、飲み会とすべてが充実していた。


「二十歳の僕君。今のままじゃ、十年後にはみんなに捨てられる」


 友達に切られる。俺さんは強く警告した。


「三十歳の無職の俺は、家族に養われて暮らしているダメダメな中年だ。一方、いつもの麻雀の面子はみんな出世して凄いことになっている。ああ、この場合の出世とは社会で偉くなることじゃなくて、人生の成功者になり、お金を稼ぎ、みんな結婚して幸せな生活を送っているということだ。みんなフリーランスの個人事業主。社長様だよ」


 俺さんは現在無職のようだ。俺さんは続けた。


「俺は結婚できない。麻雀の面子はみんな美人な奥さんをもらって子宝に恵まれた。人生の成功者になっている。なのに俺だけ置いてけぼりだ。今さら昔の麻雀の面子と縁を戻したいと考えているわけじゃない。けれども、このままだと悔しいんだ。だから俺はやってきた」


「え?」


「十年前の俺にリセットだ。俺が輝かしい人生を送るために、俺が今の君に、僕君をコーチングする」


 コーチングとは、先生が生徒に授業を行うように、経験豊富な人が経験の浅い人に自分の知識やノウハウを教えること。コンサルとも言う。つまり、俺さんは、僕に、人生の成功者になる方法を教えてくれるという。


「一ついいですか?」


 僕が手を挙げる。


「三十歳の俺さんが今から頑張ればいいじゃないですか? なんで二十歳の僕にコーチングするのですか?」


「よく聞いた。僕君。それは、三十歳から人生を逆転するのは、もう、不可能に近いからだよ」


「はぁ……」


「社会ってのは三十歳を超えると自分の力量が見えてくる。三十五歳には人生の楽しみの八割は経験済みだというデータがある。三十歳になって出た答えは、死ぬまで、ほぼそのままで一生を過ごすに値する」


 つまり、無職は無職のまま。最悪、生活保護かホームレスで一生を過ごすことになる。そんなのはあんまりだ。


 だからといって僕は今の生活が気に入っている。例えば、チー牛フェイスで女の子からまったくモテないとしても今の生活を壊したくない。


 そこで折衷案として、僕は提案した。


「俺さん。二十五歳から頑張ります。約五年後の二十五歳になった時に僕は本気を出します」


 二十五歳ならば大学を卒業し、人よりも遅れた社会人を経験している。さすがに遊び仲間との付き合いはもうないだろう。一人でもなんとかなる自信があった。


「二十五歳だな? 分かった。今から二十五歳の俺に会いに行こう。それでダメだったらまた戻ってくる。帰る」


 さすがは未来の僕。俺さんは分かりやすいほど純粋なままで折衷案を受け入れた。面倒くさい事は明日やればいい。僕のポリシーだ。


 五分後……。


 三十歳の僕が、またコンコンとドアをノックした。


「おい、二十歳の俺こと僕君。二十五歳の俺に会いに行ってきたぞ」


「どうでした?」


「なんと二十五歳まで童貞のままは嫌だから。二十歳のうちに童貞を早めに捨ててくれ……だそうだ」


 ズコーっと僕はズッコケた。


 五年後の未来。僕の夢は童貞を捨てること。女性とお付き合いすることだった。


 十年後の未来。僕の夢は輝かしい未来を手にすること。


 遊び人は一生、賢者になれない。未来の僕は暗にそう伝えてくれた。


 十年後からやってきた未来の俺さん。二十歳の僕は俺さんにコーチングしてもらう。


 二十歳の僕と十年後の僕こと俺さんで二人三脚で、僕の人生リセット物語が始まる。社会不適合者、再び! 輝くことはあるのだろうか?

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