第307話 汚い花火ね

 3階層には古戦場の内装になっており、敗残兵の幽霊が至る所で呻き声を上げていた。


『く、苦しい…』


『い、痛えよぉ…』


「霙、これって掃除屋が出ると思うッスか?」


「出ないと思う。だって、暗雲が天井に出てないし、幽霊の姿が探索者じゃないわ」


 ダンジョンで幽霊を見たら、掃除屋が出て来る可能性がある。


 そう思って警戒するチャーハンだが、霙の言う通りで3階層の天井は暗雲ではなく夕焼けだから、霙は掃除屋出現の確定演出ではないと判断した。


「なるほどッス。古戦場と言えば地雷原ッス。駆け抜けるッスよ」


 地下での経験を活かし、チャーハンは罠を想定してワイニクスバイクとキメラDバイクを使う方針にした。


 地雷は踏んでから爆発までにタイムラグがあるから、バイクで駆け抜けてしまえば無事に突破できる。


 ハイスピードで3階層を走り、途中で地雷が爆発することはあったもののチャーハン達は無事にボス部屋に辿り着いた。


 扉を開けて中に進めば、ボロボロの文官服を着て扇子を手に持つ幽霊がいた。


 その顔に生気は感じられず、後悔と絶望が表情に出ている。


『8分以内にルインドタクティシャンを倒せ。失敗した場合、次に塔に挑戦できるのは24時間後で1階層からやり直しとする』


 アナウンスが鳴り止んだ直後に、ルインドタクティシャンを囲うように幽霊兵がずらりと現れる。


「召喚速度が速過ぎて打ち消せません」


「それは仕方ないッス。ヤバい攻撃を仕掛けて来たら打ち消せるよう切り替えるッスよ」


「はい」


 ドーナツが【打消キャンセル】を使おうとした時、既にルインドタクティシャンは幽霊兵団を召喚し終えていた。


 ハロアの塔の難易度が高いのはわかっているから、チャーハンは無理にできないことをできるようになれとは言わず、敵が自分達に発動するであろうヤバい技を打ち消せるようドーナツに伝えた。


「セット完了よ」


 霙はチャーハンとドーナツが喋っている間に、憎悪幻影ヘイトシルエットを自分達から離れた位置に配置していた。


 幽霊兵団は四大属性の付与エンチャントを自分の体に施し、そのままチャーハンの幻影に突撃する。


 チャーハンの幻影に攻撃しても攻撃は透過するが、幽霊兵団はチャーハンの幻影に触れる直前の位置で爆発し、ルインドタクティシャンは幽霊兵団を自爆特攻させていることがわかった。


「危険なのでこっちに来ないで下さいねー」


 ねぼすけは混乱突風コンフュガストを放ち、ルインドタクティシャンを混乱状態に陥らせる。


 それにより、次に召喚された幽霊兵団を自分に差し向けて盛大に自爆した。


「たーまやー」


「汚い花火ね」


 ねぼすけがのんびりとした口調で花火を見たように言ったが、霙は爆発で土埃が立っているのでとても綺麗とは思えずストレートに物申した。


「私ノ作戦ハ完璧ダッタンダ! ヨクモ!」


 ルインドタクティシャンは自爆のおかげで混乱状態から復帰し、チャーハン達を包囲するように幽霊兵団を召喚した。


 その幽霊兵団が起点となり、チャーハン達は結界の中に閉じ込められそうになる。


「やらせません!」


 ルインドタクティシャンの技は発動までの時間が短かったが、ドーナツは初撃こそやられたものの今度は違うと待ち構えていたので、しっかりと【打消キャンセル】を発動させて結界の展開を中断させた。


 それと同時に、チャーハンは氷属性の大砲形態にした叢雲から砲弾を発射してルインドタクティシャンに命中させる。


 後衛職の人型モンスターは耐久力が高くなく、それは霊体であってもその特徴は共通する。


 氷のオブジェになったルインドタクティシャンに対し、雷属性にした羅劫を射出してディオメデブーツの効果でマグマを噴出させれば、ルインドタクティシャンは力尽きた。


 金色の魔石は想定通りだから良いとして、ドロップアイテムの方はシースルーの文官服だった。


「これは服としての機能を果たしてるとは言えませんね」


「これだけを着てたらただの露出狂よ。それでも、他の装備の上から着れば良いアイテムかもしれないわ。歩さんに調べてもらいましょう」


 見た目だけで判断するのは愚かしいことだから、霙の意見に残り3人は賛成した。


 戦利品を回収したら、チャーハン達は4階層へと進む。


 4階層は闘技場になっており、舞台に続く通路前の受付がこの階層の入口である。


 入口には何もなく、狭い通路を進んで行くチャーハン達だが、その壁には多種多様な武器が飾られていた。


「うーん、取れそうッスね。貰ってくッス」


「兄さん、大丈夫なの? これ見よがしに置いてある武器なんて、回収されることを想定してるように思うんだけど」


「そうッスねぇ…。じゃあ、この品質の高そうなハンマーだけ回収するッス」


 全部回収するつもりのチャーハンだったが、霙の意見を聞いて回収する武器を絞った。


 闘技場の舞台に進んだら、ガントレットを装備した両腕とハンマーが宙に浮いていた。


「兄さん、あのハンマーがさっき回収したハンマーそっくりだと思うのは気のせいかしら?」


「面目ねえッス。やらかしたっぽいッス」


『7分以内にウォーリアアームズを倒せ。失敗した場合、次に塔に挑戦できるのは24時間後で1階層からやり直しとする』


 ジト目で睨まれるチャーハンは、素直に自分の非を認めて謝る。


 その後にアナウンスが流れ、ウォーリアアームズはハンマーを振りかぶってチャーハンに振り下ろす。


「ハンマーの持ち主がヘイトを稼いでるのね」


 そう言いつつ、霙は魔盾マジックシールド攻撃反射アタックリフレクトを素早く発動してチャーハンを守る。


 ウォーリアアームズは自身の攻撃を跳ね返されてバランスを崩し、そこにねぼすけの混合弾ミックスバレットが命中する。


「うわー、状態異常耐性が高いですよこれー」


 猛毒と混乱を混ぜた混合弾ミックスバレットを放ったねぼすけだったが、ウォーリアアームズのガントレットに当たっても状態異常になった気配はなかった。


 攻撃し続ければいずれは状態異常になると思い、ねぼすけは攻撃し続ける。


 チャーハンも破城槌形態の叢雲をウォーリアアームズのガントレットに命中させ、その衝撃で手を痺れさせてハンマーを握れないようにする。


 命中の瞬間に鈍い音がして、ウォーリアアームズはハンマーを握っていられずに落とす。


 その瞬間を狙い、チャーハンはハンマーを亜空間にしまってウォーリアアームズの戦力を低下させた。


 ハンマーを取り上げられたことにより、ウォーリアアームズはバトルスタイルをボクシングに変える。


 握り拳を素早く繰り出してラッシュを放つ。


「くっ、これだけの手数だと【打消キャンセル】の意味がないです」


 最初の攻撃を終了させたとしても、すぐに次の攻撃を仕掛けられてしまえば【打消キャンセル】の意味がない。


「カウンターを狙うわ。時間がかかるけどそれが安全よ」


「賛成ッス。ギリギリまで時間を使って倒すッス」


 ウォーリアアームズのガントレットは硬く、【打消キャンセル】を使ってもほとんど意味がない。


 それゆえ、霙が魔盾マジックシールドでひたすら防ぎ、時間ギリギリになってから六角反撃ハニカムカウンター蓄積衝撃チャージインパクトで一気に仕掛ける戦術が実行される。


 無論、チャーハンも側面から破城槌形態の叢雲を飛ばしてチクチクと攻撃するが、ウォーリアアームズの5分経ってようやくガントレットに罅が入るぐらいには硬かった。


 残り30秒を切り、しびれを切らしたウォーリアアームズが力を溜めた一撃を放つのだが、霙は今こそ反撃の時だと判断し、六角反撃ハニカムカウンターを発動する。


「よくもボコスカ殴ってくれたわね」


 ウォーリアアームズが溜めている間、【香霧フレグランス】と防御上昇ディフェンスライズ能力接続ステータスコネクトにより、反撃の効果を最大化できるように準備していたから、六角反撃ハニカムカウンターでウォーリアアームズのガントレットは粉砕する。


 本体の白い両腕が現れ、チャーハンが狙撃戦場スナイプフィールドで霙の攻撃がウォーリアアームズの両腕に当たるよう位置を調整する。


「霙、ガツンと決めるッス」


「任せて」


 蓄積衝撃チャージインパクトが溜め込んでいた衝撃を解放し、ウォーリアアームズは爆散した。


「たーまやー」


「さっきよりずっと汚い花火ね。花火に失礼だわ」


 ねぼすけが3階層のボス戦と同じリアクションをするから、霙はジト目でねぼすけに注意した。


 ウォーリアアームズは金色の魔石とガントレットをドロップし、チャーハン達はそれをじっくりと見る。


「デザインが良いッスね。安全だってわかったら、ドーナツが着けたらどうッスか?」


「そうですね。機鬼魂棍で殴り掛かる時に手元を守れるのは助かります。良いガントレットならいただきます」


 接近戦で手元を狙われたら心配なので、ドーナツはチャーハンの提案に頷いた。


 それから少し休憩し、チャーハン達は頂上の5階層に進んだ。

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