第14話

 第14話.

 銀平警察署に戻ったイ・ウチャン巡査部長とイ・チョンソプ巡査は、会議室にチョ・ビョンゴル警部補と一緒に集まった。手ぶらで帰ってきたようでイ・ウチャン巡査部長とイ・チャンソプ巡査は気まずそうに目を細めていた。

「うーんそうかぁ。あそこまで行ったのにカン・ソンファに会えなかったということだな。」

「私たちがムドンバウィゴルに行ったことを察知したようです。 意図的に避けたような気がします。 携帯電話の電源を切ってどうやって知ったのか。」

「君たちが車で来て駐車するときに見たのかもしれない。そこで撮った写真を送ってくれ」。

 チョ・ビョンゴル警部補は携帯電話で受け取った写真を一枚一枚注意深く見ていた。

「家とも言えないし、占いの館とも言えないなんだか妙な雰囲気だな。」

「神堂と言っても訪れる人はあまりいないでしょうね。 あまりにも田舎の片隅ですから。」

「紙に何て書いているんだ。家のあちこちに貼り付けてあるんだな。」

「どんな手がかりが見つかるか分からないので、とりあえず写真をたくさん撮りました。」

「ちょっと待てよ。イ・ウチャン巡査部長、あれを覚えてるか?」

「何ですか?」

「前に、イ・ソクユンさんが婚約者の家に行って何かの紙切れに書かれた詩句があっただろ。 それを撮った写真はどこだっけ?」

「あ、それ、私の携帯電話にあります。ちょっと待ってください。」

 イ・ウチャン巡査部長は詩句を撮った写真をチョ・ビョンゴル警部補に送った。

「詩句の内容は前に一度見たことがあるから大体分かるが、改めて見ると字がとてもきれいだな。」

「そうですか?ああ、確かにそうですね。勉強が得意な模範生が書いたような字ですね。」

「イ巡査部長、聞慶で撮った写真の中に字を書いた写真もあるだろう。 それをもう一度見てみろ。」

「はい。改めて見ると巫女さんが書いたような字ですね。 ミミズが這うような字と言いますか。」

「うーん、そうだね。何の字かよくわからないな。」

「イ巡査部長、 亀尾にある保険会社に連絡してカン・ソンファが保険契約するときに書いた書類と、保険金を受け取るときに書いた書類を送ってもらってくれ。」

「はい。でも保険書類はなぜですか?」

「書類作成の時自分の住所、名前、サインを書く欄があるだろ。 それを見れば誰の字体か分かるだろ。 母親が書いたのか、娘が書いたのか。わざわざ亀尾に行かないでいいから担当者にスキャンしてメールで送ってもらってくれ。」

「はい。」

「携帯で適当に写真撮って送らないで必ずスキャナーでスキャンして送ってもらうように、そうすれば詳しく見ることができるよ。」

「はい、分かりました。」

 イ・ウチャン巡査部長は教保生命の亀尾支店に書類を要請し10分後にはファイルが添付された書類をメールで受け取った。添付されたスキャンファイルを印刷した。

「保険を契約する時に記入した文章を見てくれ。」

「はい、ここにありますが、字がなんかガタガタになっていますね。」

「そうですね。小学校低学年が書いたような字みたいです。」

「大人の字じゃないな。」

「これって・・・。よく見ると左手で書いたような気がするんですけど。」

「左手?そうか。左手で字を書くと字体が変になるよな。」

「左利きの場合なら右手で書いたのでしょう。」

「イ・ソクユンに電話してチョ・エソンが右利きなのか左利きなのか聞いてみてくれ。」

「はい。」

「だけど保険金を取りに行くときに作成した書類の筆跡を見ると、左手で書いたものとは思えないんだよな。 何か意図的に字体を変えようとしたように見える。」

「これは専門家に任せてみるしかないですね。 筆跡鑑定士に私たちが確保した筆跡を見せて話を聞いてもらわないといけないと思います。」

「うん、とりあえず筆跡鑑定士の所へ行くしかないな。」

 イ・ウチャン巡査部長はイ・ソクユンに電話をかけた。

「イ・ソクユンさん、銀平警察署のイ・ウチャン巡査部長です。」

「はい、刑事さん。」

「聞きたいことがあるのですが、チョ・エソンさんは右利きですか、左利きですか?」

「右利きです。 どうしてそんなことを聞くんですか?」

「保険書類を誰が書いたのか確認する必要があるんですが、字に違和感があってわざと左手で書いたんじゃないかと思いまして。調査が進んだらまた連絡します。ありがとうございました」。

「はい。わかりました。」

 チョ・ビョンゴル警部補は、チョ・エソンが右利きであることを確認した。

「右利きということだな。あっそうだ、保険会社の防犯カメラの映像を保存したUSBがあっただろう? あれをもう一度見てみろ。前に保険会社の内部映像の中で、ペンを服の裾で拭くシーンがあったよな。 ペンを服の裾で拭く前に、どちらの手でペンを持って書類に記入したかを確認する必要がある。左手で書類を書いたらその人は右利きってことだよな。 そして保険金を取りに来たときにどちらの手で書類を書いたのかも見ないといけない。USB誰が持ってる?」

 刑事2班のチーム員はパソコンの前に集まった。防犯カメラ映像の中で保険申請書を作成するシーンでは左手にボールペンを持っており、保険金を取りに来たシーンでは右手でボールペンを持っていた。 しかし、映像ではどちらのシーンも帽子とサングラスをかぶっていて誰がチョ・エソンなのかカン・ソンファなのか見分けがつかなかった。チョ・ビョンゴル警部補は口を固く閉ざし右手で顎をこすった。

「映像を見ると、保険申請書を作成する時は左手でペンを持っていて保険金を取りに来た時は右手でペンを持っていた。」

「やっぱり保険申請書の筆跡は左手で書いたんですね。」

「筆跡鑑定事務所は鍾路(チョンノ)3街にあるんだよな?」

「はい、鍾路3街にあります。」

「じゃあイ巡査部長は明日俺と一緒に鍾路3街へ行こう。」

「はい。」

 鍾路3街の益善洞(イクソンドン)韓屋街の路地に筆跡鑑定事務所がある。瓦屋根を載せた小ぢんまりとした単層の家の間に狭い路地が迷路のように四方に伸びていて、家の壁はどれも赤いレンガだった。家々が密集しているため、事務所を探すのが大変だった。意外にもこのような古い雰囲気を楽しむ若者が多いのか、工芸品店やカフェがあった。筆跡鑑定の事務所は3階建ての建物で、1階にはジョンウ実業がある建物という説明を聞き、ジョンウ実業の看板がどこにあるのか左右を見渡しながら路地を探していた。ジョンウ実業の看板を見つけた。

 建物を見ると3階建てのとても古い建物だった。全体的に赤いレンガを積んだ80年代に建てられたと思われる建物だった。幅が狭く、高さのある階段を3階まで上がると、鉄製の灰色のドアに「高麗文書鑑定院」と書かれていた。少し前にテレビ番組にも出た鑑定院なので、筆跡鑑定依頼が殺到し事前に予約をしなければならない。

 警察からの依頼なので一日で結果が出た。昨日文書をバイク便で届けており、筆跡鑑定が終わったという連絡を受けてチョ・ビョンゴル警部補とイ・ウチャン巡査部長が事務所を訪れた。筆跡鑑定士と一緒に2台のコンピューターモニターの前に座った。

「送っていただいた4つの筆跡、つまりチョ・エソンさんの筆跡、カン・ソンファさんの筆跡、そして保険会社の契約時の筆跡、保険金を取りに行く時の筆跡、これを便宜上A、B、C、Dと呼びます。 まず結論から言いますと、A、B、C、Dはすべて違います。どれも同じ人の筆跡と言えるものはありません」。

 筆跡鑑定士は2つのモニターに大きく、A、B、C、Dを拡大して見せてくれた。

「ああ、やっぱり。私たちが見たときも同じ人の筆跡には見えなかったんです。 でも、筆跡は同じ人が書かなければならないものですからね。」

「私もいろんなところから筆跡鑑定を依頼されることが多いのですが、こういうケースもたまにあります。犯人が筆跡鑑定の技術が発達していることを知って、それに合わせて知能的に筆跡を隠すのです。 意図的にね。 最も代表的な筆跡を隠す方法は、左手で文字を書くことです。」

「そうなんですね、保険契約時の筆跡がハングルを習ったばかりの人の筆跡のようでした。」

「Cは左手で書いたのが正しいです。 Dは右利きなら右手で書いたのですが、わざと自分の字を隠すために他の字を練習して書いた文章です。 字体というのはパターン、癖が出るものですからね。 でもDはここのモニターをよく見ると、A、B、Cに見えるようなパターンがないんです。

 ルールもなくランダムにストロークが長くなったり短くなったり、あるいは角度が広くなったり狭くなったり。 本来の筆跡を隠すためにものすごく練習を重ねたんだと思います。 完璧な筆跡の偽装ですね。」

「じゃあAとBの筆跡がCとDの中で一致するものがないということですか?」

「はい、そうです。すべて違います。 徹底された偽装です」。

 チョ・ビョンゴル警部補とイ・ウチャン巡査部長は高麗文書鑑定院を出た。いつの間にか夕食の時間が迫っていたので、鍾路3街に来たついでにチョ・ビョンゴル警部補が好きなアグチム(アンコウを蒸した料理)を食べに楽園洞(ナクウォンドン)方面に行った。チョ・ビョンゴル警部補の行きつけの店に入った。夕飯を食べるにはまだ早い時間なので人はあまりいなかった。アグチムの中盛りを食べたかったが2人なので小盛りを頼んだ。

「チョチーム長、1人でやったのか2人でやったのか分かりませんが、あれはとても徹底していますね。 筆跡まであんなに隠してるんですから。」

「普通の奴らじゃない。徹底的に筆跡まで隠すということは、それが犯人であることの証明じゃないか。 筆跡を隠すために左手で字を書いて右手では別の字体まで練習するなんてな。」

「疑わしいところが多いですね。 最後まで食い下がる必要がありそうです。」

「そうだな。まずは食べよう。この周辺はアグチムの店がたくさんあるが俺はこの店しか来ないんだ。」

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