第19話かつての英雄は、今
「ご馳走様、絵梨奈ちゃんありがとう。」
「はい!」
袋に箸を入れて、弁当の蓋を閉めて、彼女が頷いて受け取る。
ピンクのチェク柄のお弁当袋にいれて、バックに入れ、俺に嬉しそうに微笑んだ。
俺に見えないよう、小さく両手をギュッと握って、えへっと小さく萌え声が聞こえた。
なんだこの可愛い生き物! 仕草が最早天使…良い子だな。
俺が見惚れてると、目が合い絵梨奈ちゃんの頬が真っ赤に染まって、それを隠すように両手を頬に置く。
その時、咳払いの音がした。振り向くと、七瀬が眉間に皺を寄せていた。
「絵梨奈ちゃん、神崎君の事…知ってるのはなんで? 教えて欲しいな。」
彼女が表情を柔らかくしたように、笑みを浮かべて浮かべた。
「かりん先輩、神崎先輩は凄い人なのです。なので自慢します。誇張はいれないです。」
「それは絵梨奈が小5の頃の出来事でした。」
「学習発表会の人が、側から見ても緊張しまくりで、ハラハラ見ていました。」
「小学校の体育館で、演説が始まりました。」
「あっ、マイク。この…こ…えーと。」
「緊張感が伝わります。何故こんなに緊張しているのかというと、後から聞いたのですが…友達と喧嘩して、睡眠不足だったそうです。」
「お水…うわっ。」
水が溢れてペットボトルが転がる。
「す…すみま…」
キーン。彼が頭を下げるとマイクにぶつかり体育館にノイズが走る。
「あ…あの。」
「その時神崎先輩が、彼に駆け寄り声を掛けたのです。」
「落ち着いて、深呼吸。大丈夫、時間はたっぷりあるし、周りもみんな君の仲間。
気にすることないよ。それに失敗しても俺が責任持つ、気にすんな。」
そう優しく声を掛けた。
その姿に絵梨奈は感動して、彼に尊敬の眼差しを向けました。
「何が責任取るだよ、小学生が責任取れるかよ。」
ヤジが飛びました。その方向を私は、これでもかと睨みました。私は、そのヤジに怒りを覚え、反論しようとしました。
でも、神崎先輩はそのヤジを一刀両断したのです。
「取れるさ、みんなに謝り尽くす。それが責任取る事さ。文句ある?」
学級委員長だったんです、神崎先輩は。
みんなのリーダーで私なんて声を掛けるのも恐れ多かったのです。
……その時の事を思い出すだけで、胸が熱くなります。
「その話知ってるよ、友達から聞いた。
私も松岡君に無理矢理カラオケに連れてかれそうになって、神崎君なら助けてくれると思ったの。そしたら助けてくれた。」
「はい、その話、兄から聞いてもう声を掛けるしかないと思い立ちました。」
俺の全盛期か。小学校の頃は怖いもの知らず、自信に満ち溢れていた…もっとも妄想力はもっと上だった…イマジナリー先生を作って、俺はその通りに話しただけだ。
全て上手くいった。あの頃は…
お兄様が中学でビビリになって妄想力が落ちたのって…
言うな…重すぎる。それは俺が向き直れたらにしてくれ…今はまだ…無理だ。
その時現実に引き戻すかのように電話が鳴った。俺じゃない…絵梨奈ちゃんのか。
「あ、お兄ちゃんからだ…もしもし…お兄ちゃん今立て込んでるから、あとね。」
「ん…神崎先輩に変わるの? 分かった。」
絵梨奈ちゃんから、スマホを受け取る。
俺に用があるなら、俺のスマホに掛けてくればいいのにな…電話番号教えてないが…いや連絡先…交換してないんだったか?
「はい、神崎はただいまお留守です。」
「そうかお留守か、じゃ神崎の代わりに、秘密を教えてくれ。」
ノリが良いなこいつ。つまらない奴から脱却したか。
で、なんか用? 勉強教えてくれとかなら、間に合ってる。
いや、お前に相談する事は決まってる、恋愛の話しだ。以前話した事で進展があったから、これから2人で会えないか?
楽しそうに喋る声なこいつ。進展? 確か…2択選択する話か?
お兄様、好きな子と付き合うか、それとも好きじゃないけど、告白してきた子と付き合うかって話です。
記憶力低いですね、お兄様。それとも私の事ばっかり考えてるからかな?
イマジナリー妹よ、君の事はさっぱり考えてない。七瀬と絵梨奈ちゃんの2人の事ばっかりで、参入する隙はない。
ふーん? お兄様1人の事じゃないのがダサいです、笑っちゃいました。
うっさい。煽ってくるなよ。
ポエマー後藤から場所を聞き、行くよと返事をした。
「2人とも、ちょっと後藤悟に呼ばれた。ここは、一度解散しよう。」
2人とも目に落胆の色を見せた。ちょっと胸が痛い…後藤兄め、空気読めない奴。
2人が行ってらしゃいと明るく言って、気分が少し晴れた。
そして俺は、後藤兄のいる空き教室に向かった。
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