第12話天使vs悪魔のバトル

うわ、押し強!


強引だな。


「神崎先輩、図書室だと話しするの注意されそうなので、ここにしましょう!」


彼女の指し示したのは…非常階段か…図書室じゃないって聞いて、男子トイレに連れ込まれる妄想してしまった。


それじゃ学校のトイレが多目的トイレに早変わりしてしまう。


「さて、先輩ハンカチ置いたので、お尻が汚れないよう、どうぞお座り下さい。」


花柄のピンクのハンカチが階段にかけられていた。


「でもそれじゃ、君が汚れてしまうだろ?」


「良いんです、私の事は!」


「駄目だ。君がハンカチの上に座る。俺は適当に座る。」



「紳士ですね、神崎先輩…素敵です。」


彼女の頬が赤く染まっていた。目がうっとりとしている…なんか変な雰囲気だ。



「いや、男として当たり前だろ。別に褒められる事じゃない。」


ああ、俺なんで話しなきゃいけないの? 初対面の子と話題なんかねーよ。


「そうだ! 良い事思い付きました。ハンカチの上に先輩が乗って、私がその上に乗れば問題解決です!」


「もっと駄目! 却下!」


なんだよこいつ痴女か? 嬉しい提案だが、俺には七瀬がいるのでそれは、やりたいけど、駄目!



「そんな…男の上に乗っかるのは良くないよ。軽い女の子と思われるよ。」


緊張から手に汗が出る。



「そうですか…いつもお兄ちゃんの上に乗っかってるんですけど…先輩の上なら平気ですよ? お兄ちゃんが認めた人なので!」


君のお兄ちゃんは頭のおかしいポエマーだからね。ちょっと常識がなくてぶっ飛んでる。

お兄ちゃんの悪影響って凄い!


これ、どうする? そうか! なら仕方ないそうするか…ダメダメ! でもな…うーん?


天使対悪魔の戦いが今始まろうとしている!


乗るしかないこのハンカチに! 


いや待てよ! 耳を貸すな! 君には七瀬がいるだろう。彼女を悲しませるな。


それは違う。七瀬は彼女じゃない。なので乗っかっても浮気でもなんでもない!



確かにそうだが、よく考えてみろ。七瀬が男の上に乗っかってたら? 君はショックを受けるだろう。



待て待て、それはショックだが男と女の性欲は違う。比べるのはおかしい!


それって男は良いけど女は駄目ってなるだろう。君はそんな暴論聞かないよね?


いやいや、それよりこのハンカチの上に乗っかって女子の肌に触れる事の方が大事だ!


なんだよこの天使の正論と、悪魔の暴論!


「先輩! どうしますか?」



「ちょっと待って。今天使と悪魔が戦ってるんだ。それの決着がついてからで良い?」


「天使と悪魔ですか?」



「ああ、もう少し待つんだ。」


ちょっと待てーい! 


誰だ? 


俺はイマジナリー神崎! 君に警告しに来た!


なんだと?


後輩ちゃんを乗せる危険性について、君は軽く考え過ぎている! 七瀬にその姿見られたらどうする? 世の中にはあり得ない偶然が起きるんだ。七瀬じゃなくても、先生に見られたら? 君は七瀬を失うんだぞ!



イマジナリー神崎! 確かに!


しかしそんな、天文学的可能性を恐れて、女の子に膝の上に乗ってもらう。これは大いなる遺産になるのに、それを放棄するほどか? 違うだろ! 


悪魔! 確かに!


…俺はハンカチを見つめた。あれ? 何か…このハンカチに違和感が…その時身に覚えのある声が聞こえた。


「神崎君! そんな所にいたんだ? 探したよ。勉強会今日どうする?」


あぶねー! 危なー! 九死に一生を得る。

悪魔! ふざけんなよ!


「七瀬よくここにいるって分かったね?」



「うん、友達が神崎君見かけたって言うから。」


なるほどな。何が天文学的だよ、友達多い七瀬じゃ全然あり得る話じゃないか。



「勉強会素敵ですね! 私も参加したいです。」

両手を合わせて、後輩ちゃんが笑顔を向ける。


なんだこの子、積極的過ぎだろ。何が狙いだ? 参加するとか、2人だけの勉強会の邪魔なんだが。



「絵梨奈ちゃん? 一緒に参加したいの?」



「はい、かりん先輩! 神崎先輩に私、興味津々なのです。」


おい、積極的にも程があるだろ。ってかこの2人顔見知りか。七瀬顔が広過ぎる。


それより下の名前でお互い呼び合ってるぞ。そんなに親しいのか? 上位カースト達の積極性にはついていけない。



「神崎君に興味津々って?」



「はい、神崎先輩はポエマーなのです。凄い面白い方です!」


わっ、バカ! 言うな!


「ほほう、神崎君にそんな趣味があったなんて。私には教えてくれなかった。」


ジト目で俺を見つめる。


「そうです、先輩は私にだけポエム聞かせてくれました。」



なに、そのマウント。可愛い様な気もするけど、今日あったばかりじゃん君。


ちょっとやばい。後藤妹に勝手に彼氏認定されてしまう。笑ってしまうが、笑い事じゃない。



「いや、七瀬には恥ずかしいし、ポエムなんて数日前から後藤の悪影響でやられただけだ。趣味でもなんでもない。」



「そうだよねー。私たちに隠し事なんかないもんね。」


勝ち誇った様に口に手を当て彼女が微笑む。




「かりん先輩が睨むからですよ。察して言った神崎先輩は、本当聡明な方で尊敬します。」



「事実? 睨んだって言うのが事実だって言うの? むぅ〜なにそれ? 私が悪いって言いたいのかな?」



「いえ、誰も悪くありません。私は事実を言いました、かりん先輩。」



両方議論強いよ〜。俺手も足も出ない。中1なのに後輩ちゃん、これギフテッドだろ?


「はい、私にはそう見えたので言いました。かりん先輩が睨んだつもりはないと仰られるなら、見解の相違というやつです。」



妹ちゃん強い。俺は高みの見物といこうかな。

 


「神崎君はどうなの? 私に睨まれたと思う?」



「それ神崎先輩に味方しろって遠回しに言ってます。神崎先輩は関係ないですよ、巻き込まないであげて下さい。」



「なんか言い方が棘があると思うよ。まるで私が神崎君責めてるみたいじゃん。私普通に聞いただけだし。」



「そうですか。そう感じたなら残念です。私はどう思われても良いですよ。」

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