夫婦のきずなの時間-拓未と美美-
mynameis愛
第1話
拓未は静かな町の片隅にある小さなレストランの扉を開けた。店内は温かな灯りに包まれ、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。彼は少し照れくさい笑顔を浮かべ、隣に座っている美美を見た。
「どうだ、ここ、気に入ってくれるといいんだけど。」
美美は拓未の言葉に微笑みながらも、少し意地悪そうな目を向けた。「こんなところ、拓未が選んだのかと思うと、ちょっと心配だわ。前にも、あんな変なカフェに連れて行かれたから。」
拓未はそれを聞いて、苦笑いをした。「あの時は、ちょっと失敗だったな。でも、今日は絶対に美美が好きな場所だって自信があるんだ。」
「じゃあ、期待してるわよ。」美美は、半分冗談で、半分本気で答える。彼女はどうしても、拓未が選ぶ場所に対して少しばかりの警戒心を抱いてしまうことがある。
二人は座り、メニューを見ながらしばし黙った。拓未は、日常の中でよく感じるあの「彼女に気に入られるかどうか」という微妙な緊張感を感じていた。それでも、今日は何かが違う。今日は本当に、心から彼女に喜んでもらいたいと思っていた。
「じゃあ、私はこれにしようかな。」美美がメニューの中から目を留めた料理を指差しながら言った。「トリュフのパスタ、なかなか美味しそう。」
拓未はその瞬間、美美が心から満足している表情を見たかった。彼女がどんな反応をするか、少しだけドキドキしていたが、その心配はすぐに消えることになる。
「それ、いいチョイスだね。俺も同じのにするよ。」拓未はメニューを閉じ、ウェイターに注文を伝えた。料理が届くのを待つ間、二人は自然と話を始めた。
「最近、どうだった?」拓未は話の流れで、気になっていた美美の仕事のことを尋ねた。
美美は少し驚いたような顔をしてから、ゆっくりと答える。「うーん、まあ、忙しいけど…でも、なんだか楽しい。ゲームサウンドの新しいプロジェクトが始まってね。すごくやりがいがあるの。」
拓未はその言葉にうなずきながら、彼女がどんなに多忙でも楽しんでいる姿を見て、少しだけ安心した。「それは良かった。でも、無理しないでね。家でもゆっくりしてほしいから。」
美美は少し照れたように笑う。「ありがとう。でも大丈夫よ。拓未も仕事、忙しいでしょ?」
拓未は肩をすくめて、「まあ、ガラス食器の製造は常に進んでいるけど、何とかやってるよ。」と軽く答えた。「ただ、最近はもっと効率よく進める方法を模索しているから、少し頭を使っている感じかな。」
料理が運ばれてきた。その瞬間、空気が一変した。美美の顔が一層明るくなり、彼女は目の前のトリュフパスタを見て幸せそうに微笑んだ。
「わぁ、香りがすごい…」美美は嬉しそうにフォークを手に取った。「やっぱり拓未の選んだ場所は、間違いないわ。」
拓未は内心でホッと息をつきながら、彼女の表情をじっと見つめた。「本当に喜んでくれてよかった。美美が喜ぶと、俺も嬉しい。」
二人はお互いに笑顔を交わしながら、食事を楽しんだ。どんなに些細な瞬間でも、こうした時間が二人の間に大切な絆を築いていることに気づきながら。
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料理を楽しみながら、二人はこれまで話したことのないような、少し深い話題にも触れ始めた。拓未は、美美がどんな未来を描いているのか、ふと気になり、口を開いた。
「美美は、将来、どんな風に過ごしたいと思ってる?」
美美は、フォークを口に運びながら少し考え込んだ。彼女にとって、将来のことを考えるのは少し怖いことだった。過去に一人で抱え込んでしまったこともあったから、その言葉に対して素直に答えることができるかどうか不安だった。しかし、拓未の穏やかな目を見つめると、自然と心が開かれていくのを感じた。
「そうね…」美美は言葉を選ぶように話し始める。「ずっと、音楽を作り続けることが一番の幸せだと思ってた。でも最近は、それだけじゃ物足りない気もしてるの。」
拓未は、少し驚いたような表情を浮かべた。「それは、どういうこと?」
美美はしばらく黙ってから、ゆっくりと続ける。「家族とか、もっと深い絆を築くことも大切だなって。拓未との生活、もっと大切にしたいと思ってる。」
拓未は、その言葉に胸が熱くなった。彼女がこんな風に思ってくれていることが、何よりも嬉しかった。自分は仕事の忙しさや日常のことに追われていたけれど、彼女が自分との時間を大切にしたいと感じてくれていることが、心にしっかりと響いた。
「俺も、美美との時間が一番大切だよ。」拓未は真剣な表情で答えた。「これからもっと二人で色んなことを経験して、お互いにとっての"幸せ"を見つけていけたらいいな。」
美美は、拓未の言葉を静かに受け止め、少し照れたように微笑んだ。「そうね。私も、そう思う。」
その後も、二人はゆっくりと食事を楽しみながら、日常の些細な出来事や将来の夢について語り合った。会話は途切れることなく、二人の間に温かな空気が流れ続けた。拓未と美美は、無理に大きな決断をするのではなく、少しずつ自分たちのペースでお互いのことを理解していこうと感じていた。
食事が終わり、デザートが運ばれてきた。美美は一口食べて、嬉しそうに言った。「このチーズケーキ、最高。拓未が選んだお店、ほんとうに正解だわ。」
拓未は満足げに微笑みながら、「よかった。」と一言。彼の心の中には、彼女の笑顔が一番大切な宝物だという思いが、しっかりと根を下ろしていた。
食後、二人はゆっくりとレストランを後にした。外に出ると、夜風が少し冷たく感じるが、二人の間には温かな空気が残っていた。
「帰ろうか。」拓未が声をかけると、美美は軽くうなずいた。「うん。」
二人は並んで歩きながら、言葉少なにその夜の静けさを楽しんだ。歩くペースが同じで、何気ない瞬間が心地よく感じる。拓未は、美美と並んでいるだけで、日常の喧騒から解放されたような気持ちになった。彼女との時間が、まるで一番大切なものだと思えた。
「今日、すごく楽しかった。ありがとう、拓未。」美美がふと、そんな言葉を口にした。
拓未は彼女を見つめ、穏やかな笑顔を返した。「俺も、楽しかったよ。ありがとう、美美。」
その言葉が二人の間に静かな確信をもたらした。これからも、こんな風に一緒に過ごしていきたい。お互いにとって大切な存在であり続けるために。
二人は手を繋ぎながら、夜の街を歩いて帰路に着いた。どこか未来への期待と、今この瞬間の幸せを噛み締めながら。
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