第4話 強襲隊

「嫁さらいって、神話とか風習で良くあるけど、夫攫いはあんまり聞かないよね」


マンションの一室に担ぎ込まれ、ベッドに放り込まれた時にその言葉を投げ付けられた。


「……急に何?」

最上階の角部屋だからだろうか。バタバタと喚くヘリのローター音が煩くて堪らない。


「まぁ聞いてよ。やっぱり今は女の人も社会進出する時代じゃん?だから男女平等にさ、夫攫いの文化も推進するべきだと思うんだよね」


「現代でやるなんなもん……法にのっとれ法に」

支離滅裂な文章であったが、突っ込まずにはいられない程の価値観であった。


「法を乗っ取る・・・・?」


「もういいよマジで……」

松雪がため息をついた瞬間、優紀は彼の服を脱がし始める。松雪はすっかり諦めモードで、抵抗することすら考えつかなくなっていた。


(ヘリの音がうるさい……コイツ気付いて無いのか?どんだけ集中してるんだ……)


「へぇ。ボクサーパンツ派なんだ。写真撮っていい?アルバムに挟みたい」


「ふざけるなッ」


「まぁこれから腐るほど見れるしねぇ……じゃ、いただきまーす♡」

優紀は上着を脱ぎ、飯を前にしたかのように手を合わせてからパンツに手をかける。


ヘリの音が遠のく瞬間、窓ガラスが勢いよくぶち割られ、ガラスの破片が部屋中に飛び散り、同時に迷彩服に防弾装備をした謎の男達が飛び込んでくる。


「!?マジか」


無言のまま繋がれていたロープを外した兵士2人を見た優紀は、腰から三段式特殊警棒を取り出す。


すると玄関のドアもぶち破られ、また同じくカーキ色の防弾ヘルメットや防弾チョッキを着たような恰幅のいい十数人の集団が突入してくる為そっちに警棒を向ける。

隙をついた窓側兵士達がタックルして壁に押し付けてから取り押さえ、警棒をむしり取って投げ捨てる。

所謂バラクラバで顔は見えない。


「け、警備隊は……!?」


「暴力の頂点って、何だと思う?」

優紀が喚いていると、また、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。


「マフィア?警察?企業の武装警備隊?テロ組織?どれも違う……じゃあ、一体何なのか」

笑いながら、周りの、警棒や盾で装備した兵士達同じ服装、装備ではあるが、彼らとは違う雰囲気を纏う女が、玄関の倒れた扉を踏みしめながらこちらへと近付いてくる。


「答えは軍隊だ。軍はいつも暴力のいただきに立っている。武装警備隊なんて、私達にとっては張子の虎ですら無い。マンションの何部屋かに詰めていたらしいが……全員捕縛したよ」

顎紐を外しヘルメットを脱ぎ、お団子に結ばれた髪を解くと、やはり彼はその姿に見覚えがあった。

体躯は、最後に会った時よりもかなり逞しくなっているが……


霞澄かすみ……防衛大行ったとは聞いていたがな……」


「私を覚えていてくれて嬉しいよ。さ、行こうか松雪」

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