第14話 どうすれば、逃げれるか

 私はやっと状況を理解し、ここからの避難を図る。

 しかし、車のドアは開かない。

 当たり前だ、まだ私はお金を払っていない。


「あのっ、お金! いくらですか!」

「んん〜? お金なんて、いらないよ?」

「えっ?」


 運転手さん―――いや、もうさん付けはやめよう―――運転手は、ニマニマと笑いながら、私に手を伸ばす。


「でも、お金じゃなくて、別のトコで払ってほしいなぁ?」

「い、いやっ!」


 私はとっさに運転手の手から逃れるが、車内は狭く、運転手の射程範囲から外れることはできない。

 自分で言うのもなんだが、私はスタイルが良い。

 身長は163cmと女性にしては高く、胸もDカップあり、トレーニングのおかげで全身細い。

 何度か、グラビアアイドルのオファーが来たこともある。

 正直、こんな演技力でも芸能界に残れているのは、この身体のお陰かもしれない。

 だから、身体目的でファンになる人も多いらしくて……。


「お金で払わせて下さいっ! この後、撮影があるんです!」


 とにかく、今は早くスタジオに行かなくてはならない。

 こういうファンの相手をしている暇はないのだ。


「ふぅ〜ん、撮影? なんの?」

「な、なんのって……普通にドラマですよ! もう良いですか!?」


 私はだんだんイライラしてきて、つい声を荒げてしまった。

 しかし運転手は、ニヤッと笑い、運転席に戻ってシートベルトを着用した。


「えっ?」


 運転手は無言で、車を発車させた。


「えっ、ちょっ……なにしてるんですか!?」

「……」


 私が身を乗り出し、運転手に話しかけても、無言で前を見据えたままだ。


「私が行きたいの、××スタジオですよ! さっき目の前に停車してましたよね!?」

「……」

「あの! 聞こえてますか!?」


 どんなに呼びかけても反応しない運転手に、私は更にイラつきを感じ始めた。


「もう……警察に電話しますからね!」


 私はそう言い放ち、スマホを取り出した……が。

 車がまた急停止し、私は驚いてスマホを手放してしまう。


「あっ!」


 手放したスマホは宙を舞い、助手席に落ちた。

 運転手はすかさず私のスマホを手に取り、ポケットにしまい込んでしまった。


「ちょっと、私のスマホ、返して下さい!」

「……」


 私が身を乗り出して説得するが、運転手はまた無言で車を発車させる。

 車内に取り付けられている金額メーターは0円で停止しており、本当にお金を取る気でないことがわかる。


「いい加減にしてください! 犯罪になりますよ!」

「……」


 また無視されるのか……。

 そう思った次の瞬間だった。


 ―――むにぃ。


 私の胸を、運転手が掴んでいた。


「え」


 運転手は、この上ない笑顔で、私を……いや、私の胸を見つめている。


「い、いやっ、やめt―――」


 私が悲鳴を上げようとすると、運転手は私の口にガムテープを貼り付けた。


「〜〜〜〜っ!」


 どんなに叫んでも、ガムテープのせいで声が響かない。

 てかどっからガムテープ出てきた!?

 いやでも今そんなこと考える余裕ないよな。

 いつの間にかタクシーは停車していた。

 窓の外を見ると……ホテルが並んでいる。


「……撮影が控えてる、大好きな女優をめちゃくちゃにできる……ふへっ、最高かよ」

「っ!?」


 運転手の口から出た言葉に、衝撃が走った。

 いや、まさかそんな。

 今真っ昼間ですよ?

 それも、タクシー運転手ってことは、勤務時間中ですよ?

 そんな中で、誘拐、しますかね?

 私はとりあえず運転手の手から逃れるため、後部座席の端っこに下がった。

 これで、私の胸は触れまい。

 しかし、どうすれば逃げれるか。

 ……まあ、暴力を使えば、逃げられそうだけど。

 それに、たとえ逃げれたとて、スマホが奪われてしまった。

 ここがどこかも分からない状況で、果たして逃げ切れるのか。


「逃げたって無駄だよ? ここはラブホ街なんだから」


 運転手がニヤッと笑い、後部座席の方へ足を踏み出した。

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