第13話 懐かしき再会

 セツナたちがアストライア国を出て八日目。

 大きなトラブルもなく、セツナたちはアロンダイトの首都、ルーディックに到着した。本来なら転移魔法か跳躍石ジャンプ・ストーンを使えばすぐにでも来れたのだが、どちらも大きな魔力が発生するため、敵に察知されないようにわざわざ馬車で移動してきたのだ。


「セツナ。姉ちゃんに到着したって通信しておいて」


 クロエに言われてセツナは懐から一枚の金属製の板を取り出す。大きさ的には前の世界の標準的なスマートフォンの大きさ。これは魔道具の一つで価格はそれなりにするし、魔力を持たない者には使えない。

 その魔道具にセツナは微量な魔力を込める。すると、目の前の空間にアメスが映し出される。


『アメスさん、たった今着きました。そちらは大丈夫ですか?』

『えぇ、今のところ至って平穏。こちらに動きはないわ。クロエたちのこと頼んだわよ、セツナくん』

『勿論です。何かあればまた連絡します』


 そう言って空間に投影された映像はぷつりと途切れた。

 通信用魔道具を懐ににしまうと、セツナたちはクロスの案内のもと、王宮に赴く。

 道中、セツナたちは予想を超える被害を目の当たりにする事となる。

 大地はえぐれて陥没しているし、木々は薙ぎ倒され、建築物は外壁などが破壊されて半壊や全壊のもちらほらと見られたからだ。それだけ激しい戦闘だったと言うことをこの状況が物語っている。


 しかし、王宮に近づくにつれ、被害状況は少なくなっていって王宮とその周辺は無事なのが確認されたのは不幸中の幸い、と言ったところか。

 そんな事を皆が思っていると、一匹のネズミがクロエの足元を通り過ぎていった。その光景を目にしたクロエの雰囲気が変わったことにセツナは気づく。


「クロエちゃん、どうかしたの?」

「なんか言われも知らぬ悪寒に襲われたのよ、セツナ。直感というべきなのか、確証はないのだけれども、何かがこう引っ掛かるのよ。何かを見落としている感じがするの」

「ふむ、なるほど。それは気をつけないといけないね。このセカイで魔族との戦いが多いクロエちゃんの直感だ。自分も気をつけるよ」


 セツナの方が戦闘力ではクロエより上だが、踏んできた場数が違う。魔王のカケラに直属の部下とその配下たちとの戦い、修羅場をくぐってきたクロエだ。片やセツナにとって魔族はこのセカイについた時に戦った奴くらいだ。冒険者としては先達者のクロエの直感を何よりも信じている。


 王宮に着くと意外なほど落ち着いている。それを感じ取ったのか、シグルドは、


「デーモン騒ぎは落ち着いたのか?」


 と、素直な感想を述べる。


「どうなのでしょうか? 何はともあれアルベルト将軍の執務室に参りましょう」


 クロスに促され、セツナ一行はついていく。

 重厚な扉の前につく。クロスがノックをすると、


「ああ、入ってくれたまえ」


 扉のロックが外れ、扉が開く。クロスはその場に残り、セツナたちはアルベルト将軍の執務室へと入っていく。全員がが入ったのを確認したあと、扉はゆっくりと閉まる。

 すると、アルベルト将軍の執務室にいた人物がクロエに声をかける。


「久しぶりです、クロエさん!」


 ショートボブにした髪型にやや童顔気味の顔。

 側で見ているだけで、元気になってくるような明るい女の子。

 フォスター聖国の第一皇女、シェリル=フォスターその人だった。


 そして、


「よう、元気そうだな」


 銀色の髪、硬質化された肌は一目だけでは人間に見えない。ただその瞳には揺るぎない知性と意思が垣間見えるのをセツナは感じ取っていた。


(このペアが話に聞いていたクロエちゃんと幾多の戦場をともにした強者! 流石に纏っている雰囲気が違う。四団騎士団長といい勝負しそうだな)


「久しぶりね、シェリルにルシード!」

「クロエさんもお元気そうで何よりです!」

「まあ、クロエたちに何かあったと訊く方が野暮というものか……」


 阿吽の呼吸で会話する四人を見てセツナは少し羨ましかった。

 前の世界では頼れる者はいなく、そのせいで大切な人たちを失ってしまったから。

 などとセツナが考えると、シェリルとルシードから視線が向けられている、と感じた。


「ところでクロエさん。こちらの人は誰なんですか?」

「そうだな、クロエ。俺たちにも紹介してくれないか?」


 クロエの戦友からセツナに対しての疑問が投げかけられる。

 セツナは知り合い同士の話に割って入る訳にもいけないから、一歩引いた位置で話が落ち着くのを待っていたのだ。


「自分はセツナ=カミシロ、セツナと呼んでくれ。訳あって、今回二人の旅に同行させてもらっている」

「私はシェリル=フォスターです。シェリルと呼んでください。それにしてもえらく変わった格好ですね……」

「ルシードだ。しかし、全身黒ずくめとはな。とはいえ俺も人のことは言えんか」


 ルシードが苦笑する。セツナもしシェリルやルシードの意見は尤もだ、と思ってる。特にルシードの格好とは対極にセツナは真っ黒――このセカイに着ていた魂葬着こんそうぎ――なのだから。


「まあ、端的に言うとセツナは遥か遠くの異国の地、私も文献でしか知らないから空間の裂け目に巻き込まれて、ここに来たの。ちょうど魔族に襲われているところにたまたま遭遇して、助けてもらったって訳。セツナからすれば未開の地に突然落ちたので困っていたから、一緒に旅をしているの」

「「東方の島国!?」」

「まあ、そう言うところかな」


 セツナはクロエの話に合わせる。クロエが敢えての言葉を使わなかったのは事前に姉であるアメスから詳しくは教えてもらってないが、セツナは大いなる目的のためにこの地へと落とされ、もう元いた世界には永遠に帰れないから、と聞いていて、の言葉は教えないように厳命されていたからだ。

 クロエとしてもセツナは恩人の当たるので、困らせたくないことから一番信憑性のあるを用いたのだ。それにクロエの世界にはと言う現象が存在し、いきなりどこかに飛ばされる事例もごく僅かだが存在するからだ。


「へぇ〜、セツナさんってお強いんですね」

「クロエを助けるとは、一度手合わせ願いたいところだ」

「やめておいた方がいいわよ、ルシード。私たち四人合わせても勝てない事を断言するわ」

「「な!?」」


 クロエの言葉に絶句するシェリルとルシード。クロエとシグルドの実力を知っているが故にその驚きは半端ではなかった。


「信じられん!」


 ルシードは驚きの言葉を口にする。でもクロエには予想通りの反応だったので分かりやすい事例を持ち出す。


「二人なら大無常グレート・デビルのことは知っているんじゃない?」


 そう問いかけると、シェリルはルシードの方を向く。

 教えてください、という表情を彼女はしていた。


「名前と存在は知っている。かつて、ある国の都市を壊滅させたという魔の存在。しかし、それとセツナの実力と何の関係がある?」

それ大無常をセツナは一撃で、しかも一瞬で倒したのよ」

「「……!?」」


 絶句、と言う言葉があっているんだろうなとクロエは二人を見て思う。直接見ていなければクロエでも二人と同じ反応を示したことは想像に難くない。


「そろそろいいかね、諸君。積もる話は後にして貰おうか」


 何とも言えない雰囲気が漂う中、アルベルト将軍が言葉を発したことで状況が軌道修正される。

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