2月14日① チョコレートは勉強会の後で
む。バレンタイン?…ククッ。それは青春の華。
恋する乙女が好きな異性へ贈る。ロマンチックであり、素敵な日に決まってる。
「なあ…貴君もそう思うだろう?」
「黙れ。勉強しろ…話は以上だ。」
アタシはペンをスッと置いて、教材が山積みになった机に突っ伏した。
「…1時間。」
「…俺の家に来るまでは『何、勉強なぞ世界を統括できてしまう様なこのアタシにかかれば秒殺だ』とか高笑いしてなかったか?そんなお前がまさか、10分弱で休憩しようだなんて…言う訳ないよな?」
「……。」
前に座っている、生徒会長は手を止める事なく、勉強を続けている。
「…やっぱり期待しなくて正解だったじゃないか。あーこれじゃあ、俺がお前に従うなんて、夢のまた夢だなー。」
「…っ。」
アタシは渋々、問題集を眺めるが…さっぱり分からん。
「ククッ…点Pよ。せっかちさんな貴様ですら足を止めてしまう舞台を見せてやろう。このアタシを誰だと思っている?世界を統括するべき存在であり、演劇部部長の
……パタン
「…だから、問題集の中から出て来るがいい。貴様もだ…古き者達が編み出した法則なぞ、アタシが打ち砕き、新たな時代を…痛っ!?」
いつの間にか、隣に移動していた生徒会長に頭を叩かれた。
「っ…な、何をするかぁ!!」
「何をって…いつまでも、勉強をサボるお前にお灸を据えただけだが。それと…うるさい。」
アタシはそんな言葉には屈せず、不敵に笑う。
「ククッ…生徒会長よ。分からないのか?」
「…聞くだけ聞いてやる。」
「フッ。これがアタシなりの勉強方法だと…痛い!?話の途中、話の途中なのだが!?!?」
「やっぱ馬鹿だ!!ペン待て。どんなに馬鹿でも、死ぬ気でやれば何だって、覚えられるんだよ。入試まで後2ヶ月切ってるのに……っ。」
「貴君は、アタシの母親かね!?」
「ある意味では、そうだ…お前の事を何とかして欲しいと、先月の保護者総会の時に偶然会って、言われたよ。」
アタシの持ってた教材を取り上げて、ページをパラパラと戻してから、机の真ん中に置いた。
「いいか…お前は基礎がなってない。だから最初からやる。分かんなくなったらすぐに教えろよ。分かるまで俺が教えてやるから。」
「…貴君の勉強はしなくてもいいのかね?」
「今日の分はさっき終わらせたから。泊まり込みで、みっちり…夜の11時までだ。」
(うぇぇ…)
ここから、地獄の勉強会が始まると…アタシは危惧していたのだが……
「この問題は難しいから、そうだな…これ出来たら10分は休んでいいぞ。」
「いいぞ…正解だ。その調子で次の問題も…」
「疲れた?はぁ…少し待ってろ。」
……数分後。
「どうやら…今日の夕食は母さんが腕によりをかけて、勉強を頑張る花形が好きな物を作ってくれるそうだ。ほら…やる気出たろ?」
……食後。風呂上がり。
「風呂から上がったか…丁度、お前の為に、ミルクココア入れた所だ。ん…俺の奴はブラックコーヒーだから飲めないだろ…っ、おい、ムキになるなって…あーあ。言わんこっちゃない。拭く物、持って来るから勉強してろよ。」
厳しいながらも様々な手法でアタシの心が折れないように励まされて…勉強へのモチベーションが低くならない、絶妙な加減を保ち続け…
「…よし。今日はここまでだな。」
「……うん?」
驚くべき事に、夜の11時を過ぎていた。
「だがこれで、少しはマシになったとか思うなよ?勉強は1夜漬けや付け焼き刃で解決するものじゃないんだ。地道な日々の積み重ねの繰り返しなんだからな。それくらいは分かるだろ?」
「ククッ…当然だな!演劇もそうだ。その積み重ねがあるからこそ…最高の作品を作り上げる事が出来るのだ。」
「…じゃあ早く寝ろよ。」そう言って、淡々と机の教材を片付ける姿を見たアタシは無意識に本音が口から出ていた。
「か…仮にだが、また機会があればこうして、アタシの勉強を手伝ってはくれないか?」
生徒会長の手が止まり、アタシを見た。その水色の瞳に映る感情の意味は分からなかったが。
「まあ…そうだな。母さんも喜ぶし…お前はまだまだ勉強不足な部分も多いしな。これから週4で付き合ってやる…ほら明日も学校だぞ。もう行けよ。」
「クククッ…ああ。つい話し込んでしまったな。今宵はこれで失礼するとしよう。ではまた明日だ。この調子で頼むぞ…生徒会長にして、アタシの最高の幼馴染殿?」
「いや、何様だよ…」
「いずれこの世界を統括するべき存在様だが?いつか貴君をアタシが従える日を、期待して待つといい。」
悪態をつかれながら堂々と部屋を出て、幼い頃から、ずっとアタシが根城にしている部屋へと向かう。
週4回も勉強会だなんて、普段なら退屈そのものだが…不思議とワクワク感に似た未知の感情でアタシの心が満たされていた。
……
…
花形が部屋から出て行ったのを確認した俺は、実はまだやり残していた勉強をしてから、改めて教材を本棚に仕舞い、スクールバックから…放課後に羅佳奈から貰った、市販の板チョコを取り出して、ジッと眺める。
「……」
一旦、それをベットの上に置いてから、僅かに残ったコーヒーを持って、座って…誰にも見られてはいないのに、20分後くらいソワソワした後、勇気を出して…板チョコの包み紙を剥がす。
深夜に食べるのは何処となく罪悪感を感じたけれど…バレンタインデーの日。俺が小さい頃からずっと好きな人から初めて貰った市販の板チョコは、普段よりも甘く感じて…残ったブラックコーヒーが、とても合う味だった。
了
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