第21話 城下町デート



「ここが俺が何年もいた王都か。外の世界は、こんなに広かったんだな」



 高々と立てられた壁に囲まれた王都。

 その最初の門をくぐると、大賑わいな城下町が出迎えてくれた。

 そこら辺に馬車が停まっていたこともあって、国内外問わず多くの者たちがここを目当てに足を運ぶのだろう。

 俺たちも到着すると、まずはそこに下ろされた。

 時刻は夕暮れどきということもあってか、すれ違う者たちは早足で、多くの人々が空腹を満たす為にお店を散策していた。



「なんていうか、今まで行った村とか街とかとは比べものにならないぐらい人もお店も何もかもが凄いね」

「ああ。人が多い、はぐれないようにな」

「う、うん。じゃあ、その……」



 ペトラが俺の腕を組み歩く。

 こういう男女の二人組は珍しくないので、街に溶け込むにはいい振る舞いだ。



「なんかあれだ、雰囲気をぶち壊してる気がする、あたし」

「ん、どうしてだ?」

「いや、なんでもないの。そういえば、あの大きい塔って何?」



 ペトラが指差した先に見えた高々とそびえ立つ塔。

 それが王都内に六つ点在されている。



「俺も聞いただけで実際にこうして見るのは初めてだが、あれは魔法師の塔って呼ばれている」

「魔法師の塔?」

「この王都ビカリテの外壁を囲うように敵が攻めてきたとき、それぞれの塔に優秀な魔法師が配置されて同時に魔法を発動するらしい。結界だか防壁だか、そんな魔法陣をな。で、その魔法陣が展開されると外からの侵入や魔法を一切封じられるんだって話だ」

「へえ、あれ外敵から守る用の塔なんだ。あたし、見張りの塔かと思っちゃった」

「まあ、滅多に敵に攻められることなんてないからな。今は監視塔か、もしくは観光スポットとして機能しているんじゃないか」

「確かにあんな風に細長い塔って見応えあるよね。どうやって登るんだろ。エレベーターもないだろうし、やっぱ螺旋階段かな」

「いいトレーニングになりそうだ」

「上に行ったら二度と戻りたくないかも」



 確かにそうだなと笑いかけると、俺たちは歩き出す。



「で、向こうにあるのが貴族街だ」



 川の上にかけられた橋の先に見えた門。

 遠目からは門が閉ざされていて見えないが、向こうはこちらとは違う意味で盛り上がっているのだろう。



「選ばれた者しか行けない貴族街。こことは雰囲気も違うらしい」

「へえ、そうなんだ。前に来たときは向こうまで行けなかったから見てみたいな」

「平民だと難しいな。中に入る為の門もああやって兵士がずっと警備してる。侵入しようものならその場で捕まるか処刑されるな」

「うへぇ。ってことは、王城に行くなら貴族街を通らないと駄目ってことだよね?」

「そうなるな」

「どうやって向こうに行くんだろ」



 第二の門に貴族が暮らす貴族街が建ち並び、その奥にある第三の門の内側にここからでも目視できるほど大きな王城が存在する。



「俺だったら強行突破一択だが、さすがにその選択肢はないだろう。ここは弐虎に任せるしかない」

「いい感じの穴場スポット見つけてくれてたらいいけど」

「そうだな。さて、落ち合う時間にはまだ少しある、軽く食事を済ませよう。もちろんお酒は無しだけどな」

「もー、わかってます! さすがに今夜は飲みません! ……だけど少しぐらい?」

「駄目だな」

「ぶーぶー。いいもん、帰ってから潰れるほど飲むから。ガラルと一緒に!」



 文句を垂れるペトラと共に軽く食事を済ませる。

 料理の種類も質もこれまで食べてきたものよりずっと美味しく、ペトラなんかは「お酒が欲しくなる美味しさね!」と瞳を輝かせ、パモもむしゃむしゃとご飯を食べていた。


 気付くと、夕焼けから夜空へと変わっていた。

 その暗闇も時間が経つにつれ住民区の明かりが消えて深く、通行人の数も見回りの兵士の数の方が多いと思えるぐらいに減った。

 そして待ち合わせ場所に顔を出すと、暗闇に姿を隠した弐虎から報告──ではなく、小言を吐かれた。



「これから生きるか死ぬかの決戦だってのに、イチャイチャ……高校生のデートみたいに楽しみやがって」

「なっ、どっかで見てたの、あんた……」

「覗きだとか言うなよ、たまたま視界に入っただけだ。腕を組んで楽しそうに……はあ、羨ましい。こっちは汗水垂らして少しでも勝率が上がるようにと働いてるってのによ」

「あー、ごめんごめん。で、どうだったの、なんかわかった?」



 ペトラが適当に流すと、弐虎は大きくため息をついて話し始めた。



「まず、ここから貴族街に行く為には東西南北にある橋を渡って門を通るしかない。常に立っている門番は二人だが、すぐ近くに休憩施設みたいなのがあった。そこに数名ほど待機してるって感じだな」

「正規のルートで進むなら戦闘は避けられないわけか」

「まあ、そうなるな。ただ戦闘が長引けば長引くほど他のとこから兵士が集まってくる。正面突破は最終手段だ。で、門以外からの侵入だが……結果から言えば難しい。俺はこれがあったから行けたが」



 黒一色の布切れを取り出す弐虎。

 ペトラは不思議そうに首を傾げる。



「何それ、風呂敷?」

「そんな感じだが、もう少しかっこよく言えばパラセールだな。ほら、あのゲームでも使われた」

「あの? ああ、あの。で、それでどうやったの?」

「簡単だ。あの塔から真っ直ぐびゅんだ」



 貴族街の壁よりも魔法師の塔の方が高い。

 そこから飛んで渡ったということか、無茶苦茶だな。



「え、じゃあ、みんなでそれで飛べば行けるってこと?」

「いやいや、全員分のパラセールなんて無いんだよ。ってか、あったとしてもぶっつけ本番で飛べるか?」

「……絶対に無理」

「だろ。だからこの案も無し」

「なるほど、その作戦は無理なのはわかったが、魔法師の塔に誰もいなかったのか?」

「魔法師の塔? ああ、あの塔ってそんな名前なのか。誰もいなかったぜ、ってかあちこち埃が積もってて人の出入りもそんなって感じだな」

「そうなのか」

「ああ、でも、一番上の部屋にゲームとかでよく見る赤色で描かれた大きな魔法陣みたいなのはあったな。これが本物の魔法陣かあ、って少し興奮したな!」



 魔法師の塔と呼ばれているのだからそこに魔法師が使用した魔法陣が残っていてもおかしくないだろう。

 かつて起きた大戦の遺産か。

 どんなものか少し気になったが、今はいいか。



「じゃあ、最終手段の強行突破しかないわけ?」



 ペトラが先のことを考えて大きなため息をつく。


 だが、



「いいや、一つだけ方法がある」


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