第六話 お誕生日パーティ改6

「分かったんだ?」


 驚きに目を見開く聖ちゃん。その様子だと、どうせ答えなど最初から分からないと高を括っていたに違いない。たぶんこれ茶番、いや、一種のお遊びだったんだろう。

 聖ちゃんのお遊びにパパさんが乗っかったんだ。

 パパさんも嬉しかったろうな……。聖ちゃんがそんなこと言い出すなんて。うっきうきで乗っかったに違いない。

 ふ、何度か間違えてあげた方が、クイズ番組なら綺麗だろうけどね? 残念ながら私はタレントでないし、これはクイズ番組でもない。クイズだ。ただの遊びの。遊びといえども手は抜かない。遊びだからこそ手は抜けられない。

 うし。一発で当ててやる。

「もちろん」

 私は告げた。答えを口にする。

「イングランドでしょ?」

「fuck」「fuck」

「……e?」

 あれー? おかしいなー……気のせいかファックって放送禁止用語が聞こえた気がしたんだけどー……。聖ちゃんはもちろん、向こうでサッカー見てるパパさんからも聞こえたよ? ちらりと視線をやれば、こっちの方はまるで見ずに、笑みを浮かべてサッカーを観戦している。怖。

 もしかして、ちゃんと聞こえていなかったのかな? よし。もう一度声に出してみることにしよう。今度はもっと大きくだ。よし。いくぞ。ふー。がんばれ。今だ。よし。

「イングランド人でしょ? 聖ちゃん」

「ちっ」

「ひ、ひぇ」

 こ、怖いよお、お兄ちゃん。舌打ちしたよ? 今。この親子ふたり。

 恐怖に震える私に、浴びせるような聖ちゃんの罵倒。

「我々をお高く留まったイングランドのファッキン野郎どもと一緒にするなよ! 虫唾が走るぜ!」

「突然誰だよ」

 なんか癇に障ったらしい。

 けど、何が癇に障ったかわかんない。仲悪いの?

 え? イングランドじゃないの? あ。逆か? 二点入ってたから、イングランドって私は思ったけれど、テレビをつけた際のスウェーデンの攻めっぷりに「いいぞ」ってパパさんは口に出したのかもしれないぞ。

 ってことは。

「スウェーデン?」

「はあ~」「はあ~」

 溜息を吐きつつ、大仰な動作で首を振った。顔は半笑い。腹立つ親子だなあ。

 うーん、逆に遠ざかったか?

 考えろー。イングランドに、ああも感情を示したってことは、イングランドに対して何かしら思うところはあるんだ。

 ん? イングランドってそもそもどこだっけ? ヨーロッパなのは確かだけど、私の認識だとイングランドって確か、それよりももっと大きな括りだったはず。日本と同じく島国だったような…………あ。

 分かった。

「イギリスでしょ!」

 なんだってこっちが出てこなかったんだろう。って、直前のサッカーに引っ張られたんだろうけど。


 大英帝国。

 別名、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国。社会で習った。習ったってか、歴史マニアの中学(&小学)の先生が一人で勝手に喋り倒してたわ。

 イギリスは四つの国を内包する連合国家であると。日本にいるとあんまり想像付かないけどね。同じ国にいながらも、違う国であるって一体どんな感覚なんだろう。

「humm……」

 正解とも不正解とも言わない。歯切れ悪く、何度も何度もあさーく頷いたり首を振ったりする様は如何にも不満げ。え? なに? どっちなの?

 あ~……ここまで色々やったんだから、イギリスの連合国の内、どこか当てて欲しいってわけだ。

 しかし、何度も言うが、私、そんな外国詳しくないんだけどな。

 うん。でも、ま、ここまで来たら一発で当ててやりたいな。色々食べさせてくれたし。

 イングランドは外したよなあ。残り三つか。

 さてどこだろう。そのどれもが曖昧だけど。北アイルランドと、あとなんだっけ?

 ここまでの一連の流れを思い出す。正直、食べさせてもらった物は何の参考にもならなかった。私、ヨーロッパの郷土料理とかマジで詳しくないし。

 だが、脳内に何か、引っ掛かる物があった。

 あーなんだったかなあ。アメリカの大統領がどうとかで、飲み物がうんたらかんたらな時に出てきた新聞の名前が……ファック。

 脳がバグバグでスパッと出てこねーぜ。しかし、喉元までは出かかってるんだ。……ああ、これか? これだな。よし。

 私は霞がかった言葉を捻り出すように膝を打って聖ちゃんを指差した。

「すっとこランドでしょう?」

 すると。

「パパ! 野うさぎ狩りといきましょう!」

「よしきた! 聖! 倉庫からシャベルと麻縄を用意してきてくれ! 人間大の大きさの革袋も一緒に用意してあるはずだ!」

「ええ、分かったわ!」

「どこに埋めようか?」

「学校の裏山がいいんじゃないかしら? ああ! そうだわ! 埋める前にお猿さんの餌にしてあげればいいんじゃないかしら? きっと彼らたちも喜ぶはずよ?」

「そいつぁいいな!」

「AHAHAHAHAHA」

「AHAHAHAHAHA」

 こえーよ。

 なんで倉庫に人間大の大きさの革袋が用意されてるんだよ。

 唐突に立ち上がってオーバーアクション染みた外国のホームコメディドラマみたいなことをし始めた親子二人にドン引きな私(ぶっちゃけここまで来たらと、定番のネタ振ったらどうなるかなと思ったのは事実である。反応良すぎてびっくり)。

 改めて言う。

「スコットランド?」

「ファイナルアンサー?」

「お願いだから思い出させないで」

 あの日の私の傷口はまだ完全に癒えていないから。

 その後も、一頻り変顔している聖ちゃんを相手にもせずに眺めていると、聖ちゃんはやがて、

「正解!」

 と、告げた。

 楽しそうでなにより。

 

 ……はあ。やっと終わったか。

 後半から力尽きている感あったが。

 つーか、流れ的にゲテモノだけじゃなくて、フツーに美味しいものも用意しといて欲しかったよ、全く。


 考えてみれば。

 私はいつもイベントを仕掛ける側に回っていた。一応、お泊りとかスタバとかあるにはあったけど……イベント仕掛けたというよりは、私に反発して代替案として持ち出してきたって感じだったしなあ。

 やられる方って大変なんだな。

 聖ちゃんのはしゃいだ姿を見られるんなら、それもまた良いかもだけどさ。




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