第24話 好きと愛してる
「無駄じゃない。手はあるわ。遊」
友成の耳に財櫃の声が直接入ってきた。
「真珠か。その手を教えてくれ」
「ノワールに告白するのよ」
「はぁ、今なんて言った?」
友成は聞き返した。
聞き間違いじゃいよな。真珠がこの状況でふざけるわけない。だから、俺の聞き間違いだ。そうに違いない。絶対にそうだ。
「だから、ノワールに告白するの」
「ふざけてんのか。こんな時に」
聞き間違いじゃなかった。なんで、こんな時にふざけんだよ。いや、ふざけてないのか。
「ふざけてない。よく聞いて、遊。この作品とプリンセス・ラブストーリーズは連動する予定があったの」
「プリンセス・ラブストーリーズって、和紗がやってたクソゲーか」
あれだよな。恋愛ゲームなのに必殺技があるやつか。
「そう。プリンセス・ラブストーリーズの容量的にシナリオがもう一つあるって都市伝説があった。それがもし、ブラックスノウ・ファンタジーのノワールを攻略するものだったとしたら。使えるかもしれないの。必殺技」
「……なるほど、やってみる価値はあるな」
友成は玉座に座るノワールと壁の前で倒れているヴァイルドを見た。
確かめないといけない事がある。
「だから、早く告白をして」
「ちょっと待て。確かめたい事がある。和紗に変わってくれ」
「わ、わかった。なぎ、チェンジ」
「変わったよ。確かめたい事ってなに?」
「プリンセス・ラブストーリーズの主人公って勇者だよな」
「そうだよ。勇者が主人公」
「間違いないな」
「うん、間違いない」
「ありがとう。それじゃ、決めた。俺は告白しない」
友成は言い切った。
これは俺がしたらいけない事だ。だって、誰よりもノワールの事を思っている奴がいるのに。
「な、何言ってるの? 遊ちゃん」
「馬鹿。攻略出来るかもしれないのよ」
友成の耳に千戸浦と財櫃の声が直接届く。
「俺はしないって言っただけだ。ブラックスノウ・ファンタジーにはもう一人勇者がいるんだよ」
「もう一人の勇者って、もしかして」
「告白するか分からないじゃない」
和紗や真珠の言っている事はたしかにそうだ。でも、俺は見たいんだ。クリアした時に心の底から良かったと思えるハッピーエンディングを。
友成は倒れているヴァイルドに視線を向けて、
「ヴァイルド、立ってくれ」と叫んだ。
お前がこの世界を。ノワールを。俺を助けてくれ。
「言われなくても立つさ」
ヴァイルドはボロボロの身体で必死に立ち上がった。
「無駄な足掻きは止めて。見苦しいから」
ノワールは言葉を吐いた。
「ヴァイルド。ノワールに自分の気持ちを伝えろ」
「……グレイ。いいのか」
ヴァイルドは驚きながら訊ねる。
「いいんだよ。遠慮すんな。俺はお前が、いや、お前達の幸せな姿を見たいんだ」
友成は微笑みながら答えた。
ずっと溜め込んできた思いをぶちまけてこい。
気持ちは届くはず。それはプリンセス・ラブストーリーズと連動していからじゃない。ヴァイルドだから届くんだ。
「……わかった。ありがとう」
ヴァイルドは決心した表情で言った。
「何を言ってるの。馬鹿じゃないの」
「馬鹿だよ。俺は。いや、俺達は」
ヴァイルドはボロボロの身体で、ノワールのもとへ向かっていく。
頑張れ、頑張ってくれ。
「来ないで。来ないでよ」
ノワールはヴァイルドに衝撃波を放つ。ヴァイルドは衝撃波を受けて、その場に倒れる。しかし、すぐに膝に手をつきながら立ち上がる。
「ノワール。二つ伝えた事があるんだ。聞いてくれないか」
「聞きたくない。聞きたくない」
ノワールはヴァイルドに衝撃波を何発も放つ。しかし、その威力も落ちているように見える。
ヴァイルドは衝撃波を受けながら前進する。
「ノワール、君の気持ちを蔑ろにしてしまった。君を傷つけてしまった。あの時、俺は、俺達は自分達の事しか見えてなかったんだ。そして、誰よりも辛い思いをしていた君の事を見てなかった」
「そうよ。だから、私は今その罰を貴方達に与えてるの」
ノワールは友成とヴァイルドに衝撃波を放つ。
友成とヴァイルドは衝撃波を受ける。
この衝撃波痛くない。全然痛くない。
「許してくれとは言わない。許さなくてもいい。けど、言わせてほしい。言わせてください。……ノワール、ごめん」
ヴァイルドはノワールに頭を下げた。
「な、なんで謝るのよ。許すわけない。許さない」
ノワールは怒りながら立ち上がった。
「ごめん。……ごめん」
ヴァイルドは謝り続ける。
「謝らないでよ。お願いだから」
ノワールは涙を流し始めた。そして、衝撃波を撃とうしたが中断した。
「ごめん」
「……ヴァイルド。貴方、また私の事見てないじゃない」
ノワールはキツイ口調で言った。
「ノワール?」
ヴァイルドは驚きながら顔を上げた。
「事実を言っただけよ」
「そうだな。俺は馬鹿だ。ごめん、ノワール」
ヴァイルドはノワールの目をしっかり見て言った。
「ゆ、許………」
ノワールは途中で言うのを止めた。
「ノワール、もう一つ伝えたい事があるんだ。これは俺個人の気持ちだ」
ノワールは何も答えない。
「……ずっと言いたかった言葉。でも、ずっと言えなかった言葉なんだ。……ノワール、君を愛しています」
ヴァイルドは気持ちを込めて伝えた。
お前、かっこいいよ。男だよ、ヴァイルド。
「ヴァイルド?」
ノワールは驚きを隠せないでいる。
「君を愛してます」
「……遅いよ。遅すぎるよ。私はヴァイルドをグレイを傷つけちゃったんだよ」
ノワールは溢れ続ける涙を拭いながら苦しそうに膝から崩れ落ちた。
「気にしないさ。なぁ、グレイ」
「……おう。気にすんな」
友成は答えた。
「気にする。気にするの。私は」
「ノワール……」
ヴァイルドは何か言うのを中断した。
「もっと酷い女になるかもしれないんだよ」
「どんなふうになったって気持ちは変わらないよ」
「……私は、私は」
ノワールは涙を必死に拭いて、深呼吸をして、息を整える。
「私は?」
ヴァイルドは優しく訊ねる。
ノワールは立ち上がり、「グレイ。貴方の事が好き」と言った。
「え?」
友成は驚いた。
今、このタイミングで言う? ちょっと、どうしよう。どうしましょう。ヴァイルドの顔が見れない。
「でも、ごめんなさい。愛してる人がいるの」
ノワールは友成に頭を下げた。
上げて下げるな。まぁ、いいけどよ。でも、これ現実で好きな人に言われたら死ぬな。死んじまうな。
「……そっか。誰なんだよ。教えてくれ」
友成はノワールが言いやすいように言葉を選んだ。
「……ヴァイルド・ヴァイスヴァルドです」
ノワールの髪の色が白から黒になっていく。
「ノワール」
「ヴァイルド、私は貴方を愛してます。これからずっと側にいてくれますか?」
「……はい。ずっと、側にいます」
ヴァイルドとノワールは涙を流しながら抱きしめ合っている。
よ、よかったな。二人とも。だ、駄目だ。俺も泣きそう。
友成を抑え付けていた光輪は消滅した。
消えた。これで動ける。
友成は起き上がり、壁にもたれかかる。
終わった。これでゲームクリアのはず。
ヴァイルドとノワールは抱き締め合うのが恥ずかしくなったのか止めた。
「ありがとう。グレイ」
「ありがとうね。グレイ」
ヴァイルドとノワールは手を繋ぎながら、友成に感謝の言葉を伝える。
「おう。幸せにな」
友成は笑顔で言った。その瞬間、目の前に「ゲームクリア」と文言が表示された。そして、音楽が鳴り始まった。
よっしゃ。終わった。ゲームクリアだ。今まで攻略してきたどんなゲームよりも嬉しい。そして、ハッピーエンディングだ。
これで現実に戻れるんだ。
「……遊ちゃん。アンタ、アンタって人は」
千戸浦は涙声になっている。
「馬鹿。ヒヤヒヤさせないでよ」
財櫃はちょっと怒りながらも心配しているような声で言った。
「悪い悪い。二人ともありがとう」
二人のおかげでクリア出来た。二人が居なかったら、マジで攻略は出来なかったはず。二人には感謝しかない。
「今からLBIに向かうから」
「菱乃さんの言う事聞きなさいよ」
「わかった、わかった」
普段の二人とのやりとりだ。このやりとりが嬉しく思えるほど気を張っていたんだな。俺は。
「じゃあ、回線切るね」
「はいよ」
千戸浦は回線を切った。
いつになったら、現実に戻れるんだろう。
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