第22話 真のラスボスとは戦いたくない


「待ってくれ、俺達は君と戦いたくない」

友成は倒れながら言う。


「な、何かの間違いだ」

ヴァイルドは目の前で起こっている事を受け止めらないでいるようだ。


「私は戦いたいの。いや、ちょっと違うな。痛ぶって貴方達が苦しむ姿を見たいの」


ノワールは友成とヴァイルドの胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「なんだ、この力は。魔王に何かされたのか?」

「そうだ。そうに違いない」


「残念。魔王には何もされてない」

ノワールは友成とヴァイルドを天井に向かって投げた。


友成とヴァイルドは天井に激突する。そして、そのまま床に落下する。


痛ぇ。なんだ、この力は。魔王ラズルメルテと同じくらいの強さ。いや、違う。まだ本気を出していないかもしれない。


ノワールは屈んで、倒れ込んでいる友成とヴァイルドの胸ぐらを掴む。

「あー歯ごたえない。まだ2割も力出してないのに」


ノワールは友成とヴァイルドの頭を衝突させた。


意識が飛びそうだ。それに2割しかじゃなくて2割もだしてない。ほとんど力出してなくてこの強さかよ。魔王ラズルメルテが可愛いく思えてくる。マジで勝てる気がしない。


「一応さ。気絶しないように手加減はしてるから」

「もっと優しくしてくれない」


「ノワール、ちょっと待ってくれ」

「私がいつ話していいって言った」


ノワールは友成とヴァイルドの頭を再び衝突させる。


な、何だよ。これ。もうどうしたらいいか分かんねぇ。


「全然楽しくなーい。もっと、楽しめると思ったのに。なんでかな」


ノワールは友成とヴァイルドを持ち上げて、壁に押し付ける。


「何でこんな事をするんだ?」

時間稼げ。何か打開策を考えろ。


「全部貴方達のせいよ」

ノワールは友成とヴァイルドを睨みつけて言った。


「……ノワール」

ヴァイルドは絶望した表情をしている。


戦意がなくなっている。これはマジでヤバい。

「いいや。貴方達に勝ち目ないから私の話を聞いてくれる?」


ノワールは友成とヴァイルドの胸ぐらか手を離した。


友成とヴァイルドはそのまま床に倒れ込む。

ノワールは玉座の方に向かう。


動けねぇ。それに何も打開策が思いつかない。

マジでどうすればいいか分かんねぇよ。


ノワールは玉座に足を組んで座った。


「ノワール……ノワール」


ヴァイルドは這いつくばりながら、ノワールのもとへ向かおうとする。

「動いていいって言った?」


ノワールは左人差し指を友成とヴァイルドの方に向ける。すると、左人差し指の前に魔法陣が現れる。

魔法陣からは複数の光輪が出てきて、友成とヴァイルドの四肢と首を嵌められる。


「なんだ、これ。動けねぇ」


動こうとすればするほどキツく締め上げられる。

「よし。これで話をちゃんと聞けるよね。返事は?」

友成とヴァイルドは「はい」と答えた。


「よくできました」と、ノワールは拍手をする。


「むかしむかし、シュヴァルブラン王国に一人のお姫様がいました。そのお姫様は魔王に攫われました。お姫様は助けが来るのをずっとずっと待っていました。ある日、二人の勇者が助けにやって来てくれました。二人の勇者は魔王を倒し、お姫様を救い出しました。二人の勇者はお姫様をシュヴァルブラン王国に連れて帰ってあげます。シュヴァルブラン王国に戻ったお姫様は昔のように勇者としてではなく、二人の幼馴染と楽しく暮らせると思いました。しかし、二人の勇者はそれを望んでいませんでした。二人の勇者はお姫さまの夫の座をかけて殺し合う事を決めたのです。お姫様は必死に『やめて。殺し合わないで』と懇願しました。しかし、二人の勇者は聞く耳を持たず殺し合いました。

お姫様は二人の勇者が殺し合う光景を見て、心が壊れました。

その後、勝った勇者は負けた勇者の身体を乗っ取った魔王に記憶を消されました。そして、お姫様は魔王に連れされたのです。哀れ哀れ」


ノワールは昔話のように話した。


「聞いてくれ。殺し合いは魔王が仕組んだことなんだ」


友成はシュヴァルブラン王国で知った事を話す。


「知ってるよ。ラズルメルテから聞いたから」

「魔王から聞いた?」


何を言ってるんだ? 知り合いみたいな言い方じゃないか。


「うん。そんな事どうだっていいの。殺し合ったのは事実じゃない」


「……でも」

「それは」


友成とヴァイルドは言い返せない。


「でもとかそれはのあとはどうせ仕方なかったんだとか言うでしょ。殺し合うのが決まりだったからとか言うでしょ。決まりがなによ。話し合えばいいじゃない。私は殺し合いを望んでなかったのに。自分達の気持ちだけ優先してさ。私の気持ちを蔑ろにして。私の心がどれだけ傷ついたのかは気にも留めなかった」

ノワールは怒りながら言った。


友成とヴァイルドは返す言葉が見当たらない。


「だから、私は私と同じように貴方達が傷つくように色々と仕組んだの。ねぇ、グレイ。森の中で私を発見した時に違和感を覚えなかった?」


「……無傷だった」


「そう。魔王の城から逃げ出したのにボロボロじゃなかった。なぜだか分かる? 魔王は私の手下だったの。だから、私が城から無傷で出れて当然なの」


「……魔王が手下だって?」


「えぇ。私がネックレスを握って祈ったでしょ。あれ、魔王への合図だったの」


ノワールは笑いながら言った。


「……そんな」

あの一連の出来事が仕組まれた出来事だったなんて。……まじかよ。笑えない。


「我ながら名演技だったと思うわ」

「……一つ質問していいか?」


ちょっと確かめたい事がある。


「一つ質問していいですかでしょ」

「一つ質問していいですか。ノワール姫」

「良くできました。なに?」


ノワールは無邪気に言う。


「どうやってそんな力を手に入れたんだ?」


「気になるよね。気になっちゃうよね。仕方ない。教えてあげる。ある日の事だった。魔王に攫われ、幼馴染が殺し合った事実も受け止められずに絶望していた私の前に神様がやって来たの。神様は私に力を与えて、こう言ったの『この力があれば世界を平和にする事も世界を支配する事も出来る。どう使うかは君次第だ。あと、1ヶ月後の今日、君の幼馴染の一人が城近くの森で記憶喪失の状態で現れるよ』と」

「……神様だって」


ノワール以上の敵がいたらもうマジで攻略不可能だ。でも、直感だがゲーム内のキャラクターではないような気もする。


「えぇ。最初は疑ったわ。でも、力を使えば何もかもが思うがまま。あの魔王さえも私にひれ伏すようになったんだから。私は世界を平和にする事も世界を支配する事も出来るこの力を信じるようになった。そして、私は決めたの。この力を使って、この世界を終わらせるって。この世界が終われば誰も傷つかない。そうでしょ」


「……この世界を終わらせるだって」

「簡単でしょ。違う?」


「世界が終われば君も消えるんだぞ」


ノワールもヴァイルドも消える。そして、これはゲーム的に言えばバッドエンディングだ。クリアした事に含まれるか分からない。そうしたら、俺は現実に戻れないかもしれない。


「いいじゃない。別に」

「……ノワール」


覚悟が決まりまくってる。


「いいわけないだろ。いいわけないじゃないか」

ヴァイルドは叫びながら光輪を破壊して、立ち上がった。


「な、なんで。その光輪を破壊出来るのよ」

「そ、そんなの知らない。伝えたい事があるんだよ」


ヴァイルドはボロボロの身体でノワールの元へ行こうとする。


「こ、来ないで」


ノワールはヴァイルドに衝撃波を放つ。ヴァイルドは衝撃波をモロに受けて、壁に激突して倒れた。


「びっくりさせないでよ」

「……ヴァイルド。お前」


お前、そこまでノワールの事を。

「壊れろ、壊れろ、壊れろよ」


友成は光輪を必死に壊そうとする。しかし、びくともしない


「ヴァイルドは壊せただけどグレイには無理みたいね」

「くそ、くそ、くそ。これで終わりなのかよ。何も手はねぇのかよ」


友成は床を強く叩いた。

何も出来ないまま終わりたくねぇ。終わりたくねぇんだよ。


「どれだけ叫んでも無駄よ」

ノワールは言った。


「無駄じゃない。手はあるわ。遊」

友成の耳に財櫃の声が直接入ってきた。




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