第10話 天に舞うメロン
午前10時過ぎ。雲一つない晴天。
財櫃は女子寮の自分の部屋に一度戻り、服を着替えてから、アルラウドアカデミーに向かっていた。
ダリア先輩は女子寮に居なかった。学校に居てくれたら嬉しいんだけど。いや、居てくれないと困るんですけど。他の区に出てたら、私が動きづらい。
財櫃はアルラウドアカデミーの前に着いた。
アルラウドアカデミー。「クロスワールド・ナラティブ」の対戦モード(個人リーグ・団体リーグ・フラッグリーグ)のプロプレイヤー・アルテストラやゲームクリエイターなどを養成する学園。
広さは東京のプロ野球チームが使用するドーム球場4.5個分。世界各国に姉妹校がある。
財櫃はアルラウドアカデミーの校門を通り、一般棟へ向かう。
無闇に探すより聞き込みして情報仕入れた方がいい。余計な時間を省ける。
財櫃は一般棟に入り、玄関で靴を履き替える。
トレーニングルームに誰かいるかな。
財櫃はトレーニングルームへ向かう。
トレーニングルームは一階だけでも10室ある。
同級生が居れば嬉しいんだけど。先輩男子とかばっかりだと色々だるい。
財櫃はトレーニングルームAに入る。
トレーニングルームの中は6つの部屋に区切られている。部屋の中にはロクスコクーンが6台ずつ置かれている。
部屋が使用されているかどうかは窓から見る事が出来る。
財櫃は一部屋一部屋窓から中を見て、知り合いが居ないかを確認する。
最奥の部屋の前に着いた。
財櫃は同じように窓から中を確認する。
部屋の中には財櫃と同じクラスの操演木(そうえんぎ)くるみ・
小出瀬秀馬(おでせしゅうま)・白金未来(しろかねみらい)・歯車煙機(はぐるまえんき)・冨歴盤円(ふれきばんえん)の姿が見える。
居た居た。
財櫃は窓をトントンと叩く。部屋の中に居た操演木が気づき、手を振ってくる。他のクラスメイトも財櫃に気づいた。
財櫃はジェスチャーで部屋に入っていいか訊ねる。
クラスメイト達は頷く。そして、操演木がドアを開けた。
「ありがとう」
財櫃と操演木に言って、部屋の中に入る。
クラスメイト達は財櫃に各々「おはよう」などと挨拶をする。
「おはよう。みんなで自主練?」
「おうよ。打倒、友成の為にな」
歯車が握り拳をして語る。
遊は学年ダントツ1位の成績を誇っている。2位の私でさえ未だに歯が立たない。どのゲームでも勝てた事がない。いや、勝った事があるものが一つある。
腕相撲だ。
「歯車君はワタシ達をまず倒せるようにならないとね」
操演木は優しい顔でキツイ言葉を吐く。
「言えてる。それマジでその通り」
白金が歯車の肩をたたく。
「お前らな。事実だから言い返せないだろ」
歯車は狼狽える。
「ちょっと待って、俺にも刺さる」
冨歴もショックを受けている。
「まぁまぁ、目標は高い方がいいからね」
小出瀬が歯車と冨歴を慰める。
「お前はいい奴だ」
「本当にそう」
歯車と冨歴と小出瀬は抱き合っている。
「アホな男子はほっといてどうしたの?」
白金が訊ねる。
「ダリア先輩見てない? ちょっと聞きたいことがあって探してるの」
「アタシは見てない。くるみは?」
「萌ちゃんと話してるとこ見たよ」
「萌ちゃんね。今どこにいるか分かる?」
「食堂じゃない。茗茶(ちゃちゃ)ちゃんが作った和菓子でお茶会してると思う」
「食堂ね。ありがとう」
財櫃は部屋から出ようとした。すると、歯車が「財櫃。今度戦ってくれ」と言った。
「いいけど、みんなに勝ってからね」
「クソ。いつになるんだ」
「冗談。今度戦ってあげる。じゃあね」と財櫃はトレーニングルームを去って行った。
アルラウドアカデミー・食堂。一般棟の横に建っている。生徒数が多い為、3階建てになっており、それぞれの階にキッチンが設備されている。
普段は料理人がいるが夏休みの為不在。けれど、料理ロボットなどがいる為、ご飯は頼めば作ってもらえる。
長テーブルが何台も置かれており、両側には丸椅子が並べらている。
財櫃は食堂の一階に入り、周りを見渡す。
奥の長テーブルの前の丸椅子に座り、談笑している小豆茗茶(あずきちゃちゃ)・水玉作理(みずたまつくり)・鉄漿屋粧生(かねやしょうせい)・光野辺萌(こうのべもえ)が居た。
財櫃は小豆達の元へ向かう。
「おはよう」
財櫃は挨拶する。
長テーブルの上には綺麗な和菓子が並んでいる。
小豆達は各々挨拶を返す。
「睡眠不足肌に出てるよ」
鉄漿屋が財櫃の顔を見て言う。
「すみません。その通りです」
「友っちと和紗っちは?」
水玉が訊ねる。
「今日は私だけ来たの」
「そうなんだ。珍しいね」
「和菓子食べて。感想がほしいの」
小豆は言う。
「これやっぱり、茗茶が作ったんだ。それじゃ、お言葉に甘えて」と、財櫃は和菓子を一つ手に取り、口に運ぶ。
あー美味しい。幸せ。やっぱり、茗茶が作る和菓子は物が違う。さすが、和菓子屋の娘。
「どう?」
「美味しい。黄身餡の量もちょうどいいし、形も綺麗で2回楽しめるね」
「ありがとう」
小豆は嬉しそうに笑った。
「そうだ、そうだ。萌ちゃん」
「どうかしたでありますか? 財櫃氏」
「あのさ、今日ダリア先輩と会ってるよね。くるみちゃんから聞いたんだけど」
「会っているのでありますよ」
「何処にいるか知らない? ちょっと聞きたい事があって」
「確か音楽室に行くと言ってました」
「音楽室か。ありがとう。じゃあ、みんな、また今度」
財櫃は小豆達に手を振る。小豆達も手を振りかえす。
財櫃は一般棟に戻り、3階にある音楽室に向かう為に階段を上がっていた。
お願いだから居てください。ダリア先輩。
財櫃は階段を上り、3階に着き、音楽室の前に行く。
音楽室の中からはピアノの美しい音色が聞こえてくる。
誰か居る。頼みます、ダリア先輩。
財櫃はドアを開けて、音楽室の中に入る。
ピアノを弾く琴蜘蛛千弦(ことぐもちづる)と布団を敷いて寝ている累淵雨月(かさねぶちうげつ)が居た。二人とも財櫃と同じクラス。
「財櫃さん。おはよう」
琴蜘蛛はピアノの弾くのを中断した。
「おはよう。琴蜘蛛君」
「うっーす、財櫃。ともは?」
累淵が目を覚ました。
「今日は私一人だけ。それより、その布団は何処から持って来たの」
「そんな小さい事気にすんなよ。おやすみ」
累淵は一瞬で寝た。
「小さい事? それは小さい事じゃないよね」
私が間違ってる? 絶対に違うと思う。
累淵は熟睡して返事をしない。
「ちょっとの間起きないよ」
琴蜘蛛が言う。
「そうね、仕方ない。琴蜘蛛君、ダリア先輩来なかった?」
「ダリア先輩なら屋上に行ったよ」
「屋上か。わかった。ピアノの邪魔してごめんね」
「いいよ、休憩しようと思ってたから」
「じゃあ、また」
財櫃は音楽室を後にした。
財櫃はドアを開けて、屋上に着いた。
屋上には誰の姿もない。
嘘、誰も居ないじゃん。どうしよう。これで振り出しなの。
財櫃はフェンスの金網を握り、「何処にいるの。ダリア先輩」と言葉を吐いた。すると、下の方からジェット音のような轟音が聞こえる。
何この音。
財櫃は下を見た。そこにはエメラルドグリーンのロングヘアーの制服姿の女性が浮上して来るのが見える。
その女性の顔は黄金比率。それによって、美しさと可愛さが共存している顔。スタイルも抜群。彼女こそがダリア・プシュケー。
ダ、ダリア先輩?
ダリアは屋上よりも高い位置まで浮上した。スカートの中のメロン柄のパンツが見えている。
パンツもろ見えですよ。
「トォウ。パンチラはどう演算しても回避不能か」と、ダリアは回転を決めてから屋上に着地した。着地した地面は少し壊れた。
「ダリア先輩」
「呼んだ?」と、ダリアは微笑む。
「は、はい」
登場の仕方が凄すぎて色々と混乱している状態です。
「あ、またやっちゃった。先生達に怒られる」と、ダリアは壊れた箇所を撫でた。
「そ、そうですね」
「あ! パンチラ以前に下からもろ見えだったよね」
「完全に見えてました」
「もう、真珠ちゃんのエッチ」
ダリアはスカートを押さえながら恥じらって言った。
「……はい」
どう反応すればいいのか分からない。
「やってしまった。後輩へのダル絡み。これはパワハラ。それとも、セクハラ?」
ダリアは自問自答を行なっている。
「ダ、ダリア先輩」
「ごめん、ごめんなさい。悪い癖が出ちゃった。本当にごめん」
ダリアは慌てている。
この人は本当に。慌て方が人間より慌てていると思う。
「謝らないでください。それより、来てくれてありがとうございます」
「そう。それならよかった」
ダリアは胸に当てて、安堵している。
「お伺いした事がありまして」
「なに? 言って」
「ゲーム内のキャラクターのAIに心が芽生える事はあるんですか?」
「……芽生えます。芽生えた事例が何件も実際にあります」
ダリアは財櫃の質問に答えた。
「何件も? 本当にですか」
聞いた事がない。ゲーム会社の娘の私でさえ。
「はい。本当にです。貴方達が知らないのは仕方ありません。LBIが早期発見して保護していますから」
「LBIが?」
「えぇ。保護しないと悪い人達に悪用される恐れがありますから」
「な、なるほど。そこまで知っていると言う事はダリア先輩はLBIの局員なんですか?」
ここまでの情報を持っているならLBIの局員でもおかしくない。
「局員ではありません。協力者ではあります」
「協力者?」
「えぇ、私達AIと彼ら彼女達はお互いの為に情報共有しているんです。そして、私達の力が必要な時だけ力を貸してるんです」
「そうなんですか」
知らなかった。そんな関係があるなんて。
「この事は内緒ですよ。バレたらとても怒られちゃいますから」
「……そんな大事な事をなぜ教えてくれたんですか?」
「……それは貴方が大事な後輩だから。そして、私が貴方のファンだからです」
「わ、私のファン?」
知らなかった。無茶苦茶嬉しい。
「はい。大好きです」
「ありがとうございます。お礼に今度のコンサートのチケットお渡しします」
「ほ、本当に?」
「はい」
「やった。テンション上がる」
ダリアはとても嬉しそうに微笑んでいる。
「大事な情報ありがとうございます」
「どう致しまして。何かあったら言って。力になるから」
ダリアは優しく言った。
「はい。何かあったらお願いします。それじゃ、行く場所あるんで失礼します。えーっと、ありがとうございました」と、財櫃はダリアに頭を下げてから、屋上を去った。
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