白いアザレアとタツナミソウ


 永和とわは、人気者だ。


 慣れ親しみやすい笑顔、優しい話し方、そして整った顔、女子にすごくモテる。男子からの信頼も厚い。

 そんな永和は、俺の恋人である。






 中学の卒業式、永和が当時付き合っていた彼女から呼び出された。

 その時彼女から聞いた話を、俺は最初信じられずにいた。でもある証拠を見せられて確信した。




 そして俺は、高校生になって永和に告白した。

 永和は俺の告白を快諾した。


 少しの驚きと、大きな安堵。

 ああ、良かった。これでだ。







 交際は順調にすすみ、大学生になって、俺たちは同棲を始めた。

 大学近くのアパート。広すぎず、狭すぎない場所が、これから俺たちが帰る場所になった。


 大学生になった永和は、ますます女の子の注目の的となり、俺は焦った。


 彼が目移りしないように、努力した。

 幸い、彼は俺のことが飽きないみたいで、今も俺の傍にいてくれる。

 でも時々試すようなことをしてきて、本気で焦る。やめて欲しい。















**

 家に入って彼を見上げると、優しい顔で微笑んでくる。

 次の瞬間。


 ドサッ


 彼の口角が下がり、荷物を玄関に放り投げた。



「はぁ………」



 外では聞くことのない、低く長いため息を吐いて、俺を見た。

 その瞳に、俺の息が上がる。身体が火照っていく。


 ああ。今日も、始まる。












**

「あっ……う、痛……」



伊緒いお、うるさい」



 どれくらい、そうしていたっけ。

 家に帰ってから、ベッドに連れていかれて…



「おっ…おえっ」



 腹の底から、吐き気がこみあげてきて、必死にそれをおさえる。


 彼を見ると、嬉しそうに口角を上げて、俺を見下ろしている。目の焦点があっていない。

 俺に一切罪悪感を持っていない顔、興奮した様子で腕を振り上げ、俺の腹に下ろす。


 ああ、大好き。


 彼は彼であって、彼じゃなくて。でもこれをしないと、彼は彼を保てない。

 愛されているのか、愛せているのか不安でたまらないって感情を込めて、俺を殴りつける。


 そんな彼がたまらなく、愛おしいと思う。


 気が済むまで俺を殴ると、最後に俺の首に手をかけて、ぐっと力を入れる。



「う…かはっ…」



 酸素が上手く入ってこなくて、必死にもがいて呼吸する俺を見て、興奮した様子で息を上げる彼。



「かわいい…かわいい、大好き……ごめんね」



 そう呟きながら、手に力を込めていく。


 本当にこのまま死んでしまうんじゃないかってくらい。

 でもいつも俺が気絶する寸前でそれは終わる。


 彼の一部が目を覚ますのだ。彼の正常な部分が。


 そうして死に損なった俺を憐れむ目で見つめ、骨が折れるくらいにぎゅっと抱きしめると、



「ごめん…ごめん……愛してるんだ、ごめんね……」



 息を荒げながら、そう愛と懺悔の言葉を繰り返す。

 ずっと同じ日々の繰り返し。




 俺の父もそうだった。

 殴って、殴って、殴って、最後にはいつも俺を抱きしめて、愛の言葉と懺悔を繰り返す。


 俺はいつもこうやって愛されてきた。

 他を知らない。


 異常だって、何となく分かっていた。殴るのが良くないってことも。でも、俺にはこれしかなかったんだ。


 父はいつの間にかいなくなり、母もすぐに出て行った。

 親戚に預けられたけど、俺は愛されなかった。















「あのね、永和くん…私のこと殴ったの」



 彼女からそう聞いた時、まさかと思った。


 永和がそんなことするわけないって。

 いつも笑顔で、優しい彼が、そんなこと…


 彼女ができても黙って見守っていたのは、彼が本気じゃないって分かっていたから。


 でも、彼女の長そでシャツから覗いたその青あざと、春にしては厚着をしているタートルネックの隙間から見えた跡で、俺は確信した。


 ああ、俺がどうにかしなきゃ。












 女の子にしないように、努力しないと。

 被害者を出してはいけない。

 彼に殴られるのは、愛されるのは、俺だけでいい。














 いつか、本当に彼に殺される日が来るのかもしれない。

 彼の正常な一部が、働かなくなる日が訪れるかも…


 でも、いっか。


 俺が人生で好きになったのは永和だけ。

 この先も、これからも、彼に愛されながら殺されるのなら…













 今日も喜んで俺を差し出すよ。


 君の気が済むまで…


 女の子には、かっこよくて優しい永和でいて。


 どうしようもない顔、俺だけに見せてよ。


 それが俺は大好きで、たまらなく可愛いと思うんだ。





































 あはっ! しあわせ!










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