第7話 ミシシッピアカミミガメが意味するもの

電車を降りて、靴川さんが住んでいるアパートに向かっていた。


 あーあれだな。ここら辺なら舞台とか映像で共演した俳優とか住んでそうだな。家賃安いし、中心地に行くにも交通の便もいいし。


 チケットはこの周辺だったら売れそうだ。居酒屋が多い。居酒屋で知り合った人に売ってそうだ。たまに居るんだよな。


チケット売り天才的に上手い人。夜公演が終わったあとにそのまま居酒屋に行って、翌日のチケット捌く人。さすがに真似できないわ。


そのバイタリティーがあれば営業マンになっても稼げるかもしれないな。


 靴川さんの住んでいるアパートの前に着いた。


 アパートは2階建てで暗くてよく見えないがボロそうだ。築50年って所か。あ、駄目だ。先輩の住んでいるところをボロそうとか言ったら。


 俺はアパートの敷地内に入り、階段を上る。上るたびに軋む音がする。こ、恐い。恐すぎる。ちょっと力を入れたら床が抜けそうだ。


 階段を上り終え、2階に着いた。

 俺は部屋のドアに書かれている番号を確認していく。靴川さんの部屋は207号室。


 ……ここか。明かりが点いてるぞ。これは中に居るぞ。本当にこれは怒らないといけない案件だな。俺と同じで悪役顔の人なんだからさ。気を遣わないとすぐに怪しまれたりするんだから。


 207号室の前に立ち止まり、インターホンを鳴らした。


 部屋の中からこちらに向かって来る音が聞こえない。居留守してるのか。


 俺はインターホンをもう一度鳴らした。

 返答がない。寝ていたら起きるよな。


 俺は兼元さんに渡された鍵をズボンのポケットから取り出して、鍵穴に差した。

 あれ、もしかして開いている?


 俺は鍵を鍵穴から外して、ドアノブを掴んで、回す。


 たしかに開いてるぞ。い、嫌な予感がする。

 俺はドアノブから手を離して、目を閉じて、深呼吸した。


 何があっても動揺しないぞ。動揺しちゃ駄目だ。靴川さんの面倒な冗談かもしれない。そのはずだ。そうあってくれ。


 ドアノブをもう一度掴んで回して、ドアを開けた。


「び、びっくりした」


 足元には小さい亀が歩いていた。これは見たことあるぞ。ミシシッピアカミミガメだ。よくペットショップとかで売っている亀だ。


それにしても、なんで、亀が歩いてるんだ。腰を抜かすところだった。


 俺はミシシッピアカミミガメが外に出ないようにドアを素早く閉めた。


 ミシシッピアカミミガメが何匹もノソノソとリビングから出てきている。


 おかしいぞ。やっぱり、何かありそうだ。この量のミシシッピアカミミガメを家の中で放し飼いするわけない。


「靴川さん。靴川さん居ます?」

 返答がない。頼むから何かのタチの悪い冗談であってほしい。


 駄目だ。リビングに近づくにつれて、心臓の鼓動が強くなり皮膚を突き出そう。


「……最悪だ」


 リビングに居たのは心臓付近を包丁で刺されて血を大量に流して倒れている靴川さんと大量のミシシッピアカミミガメだった。


 床に血溜りが出来ている。この量からしてもう死んでいる。


 誰がこんな事を。また劇団スノードロップの関係者じゃないか。きっと、劇団に恨みがある人の犯行だ。それとこの大量のミシシッピアカミミガメは何のメッセージなのだろうか。分からない。


 俺はズボンのポケットからスマホを取り出して、警察に電話をかけた。


 なんだろう。自分が恐い。人の死体を見て、何をするべきか冷静に判断できている事が。





 15分程が経った。


 外からはパトカーの音が複数聞こえる。あーこれで二日連続警察署に行かないといけない事になる。最悪だ。本当に最悪だ。


 靴川さん、貴方何をしたんだよ。理由はなんだ。ちょっと待てよ。これって、俺とタマと名和(なわ)さんが危ないんじゃないか。劇団スノードロップの舞台に参加した事あるし。


 207号室のドアを叩く音が聞こえる。

 俺はドアを開ける。


「また君か。名前を聞いた時まさかと思ったけど」

 部屋の外に居た黄幡さんは溜息を吐きながら言った。後ろには塚崎と警察が数人居た。 


「すみません。自分でも恐く感じてます」

「君が犯人だとは思っていないが事情聴取は後でさせてもらうからね」


「はい。分かっています」

「遺体は奥かな」


「そうです。あと気をつけてください。大量の亀が居ます」

「大量の亀?」


 黄幡さんは何を言っているんだお前と言わんばかりの顔をしている。


「足元っす。黄幡さん」

 塚崎が黄幡さんのもとへ向かっているミシシッピアカミミガメを指差した。


「これか。お前達、事件に何か関係するかもしれんから居る分全部捕まえろ」

 黄幡さんは塚崎達に指示を出す。


「は、はい」

 塚崎達は返事をして、足元に視線を向ける。


「あのすいません。俺はどうすればいいんですかね」

 ここにいた方がいいのか。いや、居た方がいいか。


「申し訳ないがそのまま待機していてくれ」

「分かりました」

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