国王

 国王陛下までやってきてしまった私たちの露店。


「あわわ」


 その状況を前に私は慌て始める……いや、元々慌てていたから、慌て方を更に激しくした、といった方が正しかったかもしれない。


「……」


「……」


「……」


 だが、そんな私とは裏腹に、この場自体の混乱は収まりつつあった。

 貴族を前にしても騒ぎ続けていた平民たちも、流石の国王陛下を前にしては静かになってくれた。おかげで、ある程度の混乱は収まったと言える。


「国王陛下」


 そんな中で、国王陛下の前へとティアが出ていく。


「魔女であるエタナから国王陛下への要請により、この場で行われる露店は誰もが魔女の名のもとに平等となり、公平な取引が行われる。そのような取引がなされました……貴方はエタナの言葉を飲んだはずです」

 

 そのティアは堂々たる態度で国王陛下と言葉をかわしていた。

 だ、大丈夫なのだろうか……?相手は国のトップである国王陛下だよっ?そんなの……かなり不敬じゃない?普通は許されなくない?あれ。


「もちろん、存していますとも」


 心配する私だったが、ティアの前にいる国王陛下は実に穏やかな態度かつ、丁寧な口調でティアに言葉を返す。


「私がどのような立場にあったとしても、人類を救った魔女様を前にすれば霞むでしょう。私は魔女様の言葉に何処までも従うつもりですよ。私は一人の人間として、この場に買い物をしに来ただけです」


 そして、国王陛下はティアに従うと言葉を話す。


「ただ、この場は私が来る前から混乱していた様子……どうでしょう?私は従者として騎士を連れてきております。その者たちに露店のお客の誘導をさせますが……」


「そうですね。それではお願いします。実のことを言うと、私たちの力だけではこの場を収めるのに苦労していたのです」


「えぇ、承知いたしました……おい、お前たち」


「ハッ」

 

 国王陛下の言葉に従って騎士の人たちは動き出し、そのままなめらかな動きで混沌としていた露店のお客さんたちを綺麗に整列させていく。

 どんどんと、この場の混沌は解消されていた。


「……わぁ」


 堂々たる態度で国王陛下に立ち向かったティアの姿。

 そして、私の名のもとで大人しく庶民の後ろに並んだ国王陛下の姿。

 それらを見て、私は思わず感嘆の声を漏らすのだった……あんな、聞き分けの良い王様がいるんだね。

 私の知る国王なんて何処までも傲慢で、物事を自分の思い通りにしようとする我の強きものたちだったんだけど。

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