第27話 身内って意外な人と繋がってて怖い!!

 土曜の午前、早速二戸坂と女ヶ沢は二人で用務室へと向かい、冷詩森と接触した。



「へー、文化祭出んのか! 大躍進だな、ニコちゃん」


「へへっ、ありがとうございますぅ」



 冷詩森に頭を撫でられ、満更でもない様子で二戸坂は微笑み返す。



「青春だねぇ。文化祭、あたしもステージ出るの憧れたな〜」


「冷詩森さんは出なかったんですか?」


「ああ、やりたいのはあったんだけどさ」



 遠い目でスンとした表情で、冷詩森はかつての青春を懐古した。



「流行りのアニソンのダンスとかオタゲーとかやりたかったけど、あたしの時はオタク弾圧世代だから」


「せ、世間が敵だったあの暗黒期出身!」


「だからあ当時のオタクはステージなんて夢のまた夢。深夜のバンドアニメも流行る前だったしな」



 キラリと流れた涙は過酷な時代を生き抜いたオタクの苦労で輝いていた。



「そこで本題なんだけどな冷詩森さん、ココを二戸坂の練習会場にさせてくれないか?」


「会場? ニコちゃん演奏すんの?」


「いや、発声練習。二戸坂はアカペラ」


「あやぁっ!? アカペラなの!!?」


「まー発声練習もあるけど、歌の方がパフォーマンス的に良いかなって」



 周囲を見渡してみせながら女ヶ沢は二戸坂の視線も誘導する。


 用務室、段ボールと可燃ごみの積まれた小屋、置きっぱなしの掃除用具。それらの周りに人の気配はない。



「ここは人通りは多くない。けどゴミ捨てに来るやつとか、一定数の人間は聞きに来る。それぐらいの良いステージになるかなって」


「そっ、それならまだいける、かな……?」


「それに馬鹿にするヤツいたらウチがぶっ飛ばすし、仲裁役の冷詩森さんもいる」


「レフェリー要員だったのあたし?」


「むしろウチが暴走しないと冷詩森さんのが殴りかかりそうだし、こっちが汚れ役なった方が冷静になるかなって」


「流石にそこまでのジェノサイドはしないよ!? まあいざって時は仲裁するけどさ」


「あと何となく、ゴミ出しとか学級委員や生徒会の連中が担当多いからさ。良い子ちゃん系なら馬鹿にされるのも少ないかなって」


「おおっ、ルーシィちゃん流石のファイリング!」


「いや、ルーシィちゃんが拗らせ過ぎて変な偏見あるだけだと思うよニコちゃん」



 この間に女ヶ沢は適当な石材ブロックを用務室前に設置し、二戸坂を上に立たせる。



「ってことで、早速歌ってみるか」


「えっと、何をどうすれば……?」


「最初はドレミの音階をラの音で声出してから歌おう。曲はそうだな……今流行ってる『Du9eデューク』とかで」



 言われるがままに十二音階でロングトーンを出した後、二戸坂は肺に息を溜めこむ。



「い、いきますっ……!」



 手で鼓動を抑え、パツンっと弾ける音で顔を覆う。


『幽霊の顔』を面に宿し、二戸坂は目を閉じて歌詞をなぞるように声を発した。



 ※



 四分と二十六秒。力強くもバラード色の強い曲を二戸坂は歌い切る。


 勇気を与えてくれる『幽霊の顔』は歌い終わりと共に解除し、顔からハラハラと舞い落ちる感触を得てから少女はまぶたを開けた。



「ぁ――――ふぅ。ど、どうかな?」


「「おお〜」」


「あやっ!?」



 彼女が気が付いた時、見知らぬ観客が二人も目の前に生えていた。


 たまたま通りがかった生徒がその場に立ち止まり、二戸坂の三十メートルほど前から拍手を送っていた。


 突然の客に頭をバグり散らかしながらも、二戸坂は頭を下げて礼を言った。赤べこのように。



「あやっ、やややや、ああああっ、あ、ありがとう、ございます……!」


「ウチら、文化祭でイベントやるから! そん時暇なら来てくれ!」


「分かった、応援してるね!」


「当日楽しみにしてるよ〜」



 温かい声援を送った生徒たちは手を振りながら颯爽とその場から立ち去る。去り際の表情は決して悪いものではなかった。



「優しい人たちだったね」


「まー実際どうだか知らんけど、暫定ノットクソ客二人確保だな」



 初めての発声練習の好感触を二戸坂は自身でも感じていた。緊張と興奮で二戸坂は心臓がまだうるさくなっている。


 直後、その鼓動を押しのけるように豪快な女性の声が彼女たちの鼓膜を震わせた。



「いやー、久しぶり母校来てみるもんだ!」



 深緑のロングヘアを靡かせて、長身の女性は二戸坂たちの元へ寄って来る。


 笑う絵文字のロゴTシャツ、タイトなジーンズ、観光客のようなサングラス。学校では異質極まるファッションを纏っている。



「なんだって馴染みの顔と再会! なんて事があるし」



 快活に、大胆に、女性は勝気な笑みを向ける。瞳は寄り道なく、戸惑う二戸坂を映している。



「それに、我が妹のご尊顔を拝めるからねっ」


「おっ、お姉ちゃん!?」



 再会に驚く二戸坂の反応を待たず、女は飛び掛かって彼女に抱きついた。



「結香〜♡ お姉ちゃん会いたかったんだぞお。ほら、ほっぺにチューは?」


「もっ、もうそれ何年前だと思ってるの!?」


「最後は五年と百三十六日前」


「覚えてるの怖いよ!!」



 女はベタベタと撫で回すように二戸坂を触り、体を嗅ぎ回って絡みつく。


 衝撃映像にも近い光景が繰り広げる中、女ヶ沢は呆気に取られていた。



「お姉ちゃんって、二戸坂、姉妹いたんだな」


「うん、歳が離れててずっと海外いたから話してなかったけど……ってお姉ちゃんくっつき過ぎ!」


「良いじゃんか~結香の成分、原子単位で鼻から吸引させてくれよ~」


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い、この人シスコン悪化してる!!」



 闘牛並みに興奮した姉を引き剥がそうと二戸坂は貧弱なインドア筋力を総動員する。


 捕食映像に似たシーンが続く中、一部始終を目の当たりにしていた冷詩森は横で口をパクパクさせ、目をキョロキョロ動かしながら震えていた。



「お、おい、ウソだよな、ニコちゃん……? まさか、そんなこと、が?」


「冷詩森さん?」



 その名を女ヶ沢が口にした瞬間、重度のシスコン変態もとい二戸坂姉は振り返る。


 そしてニヤリと悪戯な表情で冷詩森を眺める。



「よお霧子、卒業以来だな」


「あん、た、なんで……」


「なんでって、愛しの妹に会いに来ることがそんなに変か? まあフライングして学校に来ちゃったのは反省だけど」


「いもっ、う……」


「どうしたんだよ冷詩森さん。多少ビックリしたけどそんな反応大袈裟じゃ……」


「お姉ちゃん、もしかしなくても冷詩森さんと知り合い?」


「そうだよ結香。ていうかコイツ――」


「わわわわわ!」



 冷詩森は両手で無理矢理二戸坂姉の口を塞ぐ。腫れ上がっているようにその顔を真っ赤にして。



「どうしたよ。こんなに冷詩森さんが焦ってるとこ初めて見た。煙草でボヤ騒ぎした時以来じゃないか?」


「学校全焼してもこんな反応ならないよ! ってか、それ言ったら……」


「なんだよ、そんなに隠したい? もうショックだな〜」


「うぅっ……」



 冷詩森の手が緩んだ一瞬、二戸坂姉は衝撃の言葉を口にする。



だとしても、もうちょっと優しくて良いんじゃない?」


「ひっ――」



 そして用務室前の時は止まった。


 全員が頭を殴られたようにフリーズする中、数秒の遅延を挟んで時は動き出す。



「は?」


「もっ、元カノぉ!?」


「そ。コイツ、お姉ちゃんの昔の女」



 ケラケラと笑いながら二戸坂姉は冷詩森を指さす。一方の本人は、



「お願い、殺して……」



 冷詩森は顔を覆ってその場に転がっていた。全身からは湯気が上がっている。

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