スタートダッシュ編
第12話 SNSを、ゼロからは、キツい!
記念すべき結成直後、彼女達は最初の課題に直面した。
「で、ゴースト・メリィの活動が始まったわけだけど……どうする?」
勢い出発で始まった二戸坂たちに活動拠点以外のものはほとんど決まってなどいない。全体的に見通しが緩かった。
「とりあえずSNSとチャンネルの立ち上げ、かな?」
「それだ。決まったらやるぞ今」
二戸坂は得意げに各SNSアカウントを作成しようとした矢先だった。
「ん、ちなみに『笑う七面鳥P』は封印だからな」
「あやぁぁぁッ!?」
「活動休止しろって訳じゃない。『ゴースト・メリィ』としてはその恩恵は受けないってだけ」
「せ、殺生な……」
「タイムラインだけっつっても、デビュー動画からカバーしたんだ。ある程度の実績つくまでは我慢だぞ」
あわよくば両アカウントのフォロワー増加を図ろうとしていた二戸坂の計画は頓挫する。
「それとSNSの運営は二戸坂な」
「既に!?」
「だってバンドリーダーお前だろ」
「いつの間にか就任してましたが!!?」
二戸坂のポジションは何一つ本人の確認を通らないまま決定する。
「作曲してる二戸坂が一番曲の理解あるし、ボーカルなんだからその方が良いだろ。二人も良いか?」
「ミミちゃんは当然」
「さささちゃんも同じくー!」
「ほい、民主主義」
「不正選挙だよ!!」
二戸坂、『ゴースト・メリィ』バンドリーダー就任。
就任後、最初の仕事として二戸坂は投稿ポストの内容を任された。
「と、とりあえずこんな感じかな?」
※
【新投稿】「スターレイン・カーネーション」演奏してみた!
『ゴースト・メリィ』最初のカバー曲です!
良かったらチャンネル登録と高評価をお願いします。
※
「ど、どうかな? これでも一応、ネットは古参勢だからお作法なら……」
謎に自信ありげな二戸坂だが、メンバーの講評はかなり手厳しい。それどころか容赦はなかった。
「素人臭い」
「地味かな~」
「ニコちゃん、このセンスはないよ」
「ひぎゅうぅぅぅぅ!!?」
自信があった手前、ダメージは深い。二戸坂の足腰から順に機能停止していった。
「もっと記号は積極活用してけ。文字だけだと寂しい。文章も少ないし弱い」
「そっ、そんな陽キャみたいな……」
「ウチも記号なんてそういう奴らやガキだけが使うもんだと思ってたけど、普通に大人も使ってるんだよ」
世間に取り残された感覚に襲われ、二戸坂は生まれたてのウミガメのように床を這った。
「てかお前、『笑う七面鳥P』のアカウントはあんだろ。宣伝とかしてないのか?」
「あるけど、ほとんどリツイートと好きなボカロPさんへのコメントしか……」
「運用として下の下じゃねぇか! なあ広世、笹佐間、お前たちはアカウント持ってないのか?」
そこへ広世は颯爽とプロフィール画面を「わたしこそネット文化の女王でござい!」と印籠のように見せる。
「わたしのは基本自分のイラストや作品上げたり、たまに界隈民しか分からないネタでバズったりなら……けど、一応は万垢です!」
「あーネット民の琴線に触れる投稿はいけるが、公式運用には向いてない感じか」
「そんなぁ!?」
「地盤が固まってきたら任せるが、最初はNGだ。ネタ投稿ばっか注目されると、肝心の曲が全く見られなくなる」
「もしやミミナちゃんのイラストが伸びないのそれが原因かっ……!?」
広世は膝から崩れ落ちて真っ白になった。
結果、床のウミガメは二匹に増えた。
「コンビ続けてるとリアクションも同じになんのな」
「あっはは、ニッキーもみみちーも這いずってておもしろいね~」
「ところで笹佐間は……」
「さささちゃんは写真しか上げないから、よく分かんないかなー?」
そして笹佐間が開いたアプリは、二戸坂と広世が見せたものとは違う写真主体のSNSであった。
起動した瞬間に溢れるオーラから既に二人はアレルギーを起こす。床の陰属性二人は眩しさに顔面を覆った。
「こ、これはッ、陽キャSNSを使っておられる!」
「ミミちゃん直視しちゃダメ! 私たちにその光は強過ぎる!」
「目が! ギガ! ミミナああああああああああああ!!」
「浄化されrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!」
エクソシズムされかけのリーダーたちを放置して、女ヶ沢はアカウントのプロフィール欄で声を漏らす。
「お、こん中だと笹佐間が一番フォロワー多いのか」
「ええええぇぇぇ!?」
中身を覗くと、いかにも映えるような写真ばかりが並んでいた。
「ハイレベルな料理、夕焼けで超綺麗に取れた空、宙返りしながら撮った逆さまの街……なんだこりゃ」
「さささちゃんが休みの日に作ったものとか、なんか『これ!』って思ったの上げてたら増えた感じかな~?」
「本当に写真しか上げてねぇでこれ……撮る才能どころか、バズを引き寄せてるじゃねぇかこれ」
SNS序列は大差をつけて笹佐間の勝利に終わった。
だが笹佐間は狙った投稿ができないという肝心な致命点を発見したため、当分は二戸坂が担当として保留になった。地獄を見せられた彼女は抜け殻になってるが。
「まあ、仕方ない。最初は全員で考えながら運用ってことで、固めてくぞ」
「まずは動画が仕上がってからだね!」
「ああ。来たらすぐ投稿できるようにしとこうぜ」
期待に胸膨らませ、二戸坂たちはPCと睨み合う広世の後ろからデータアップロードを見守った。
※
データ提出、動画納品、投稿を経てから二十四時間後。
通知欄に表示された数字を目にし、二戸坂と広世は血の気が失せる思いをした。
「の、伸びない……」
「どうしてこんな!?」
結果は惨敗。動画の再生数は二戸坂たちが視聴した回数のみ。SNSに関しては、いいねが僅か十一で限界を迎えた。
ヘドバンと南国の鳥の求愛行動のような動きで、二戸坂と広世のネット依存組はぐるぐる部屋を回りながら発狂する。笹佐間が素のテンションで乗っかって、スタジオ内は鳥が三羽踊っていた。
「ボカロみたいな発掘するマニアが常駐してるジャンルでも、イラストみたいにパッと共感貰えるもんでもないしな。バンドの音楽ってのは」
「だからって十一いいねは流石に……」
「あえてフォロー数制限してんだから、見られないのも仕方ねぇよ最初は」
SNS暗黙の了解が一つ。グループの運用アカウントは個人垢とは異なり、徒にフォローをしてはならない。
関係者と尊敬するアーティスト、仕事の関わりがあった者や大手業界企業。およそ数百程度でフォローは収めるというアカウントが現在ではスタンダードだ。
動画の低い回転率に、高評価やバズに慣れてしまっていた陰組二人は大ダメージを受けていた。
萎んだ二人を笹佐間が手動ポンプで膨らませている横で、女ヶ沢はある人物のことを思い出した。
「そういや、この手の話なら専門家が一人いた」
割れた風船のように横たわる二人を起こし、女ヶ沢は誘う。
「明日、土曜だけど学校行くぞ。多分あの人も来てる」
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