第43話 ここは俺が一肌脱いで練習台になってやるか……(意味深)

 放課後、雛世と合流してショッピングモールの中にある映画館を訪れた。


 平日の夕刻なので、あまり人は多くない。


「西目屋さん、この間はどの映画を観ようとしていたんだっけ?」

「え、ええっと……実はもう上映期間が終わってしまって……」

「ごめん……俺のせいだ……」

「そそそそんなに謝らないでください! しばらくしたらあの映画はサブスクで配信されますから、大丈夫ですよ」

「じゃあさ、そのときはまた一緒に観よう。約束破った分はきちんと取り返さないと」

「はぅ……」


 すると、そんなことを言われると思っていなかったのか、雛世はちょっと嬉しそうな表情を見せる。


 良かった。ずっと浮かない顔をしていたから、少しでも気分が晴れてくれれば俺も嬉しい。


「とりあえず今日観るものを決めようよ。西目屋さん、何かお目当てはある?」

「そうですね……最近流行りの『余命七日の約束〜君がくれた希望〜』はちょっと気になっているんですよね」

「あ、そのタイトルみたことあるかも」

「この映画の原作は、書店大賞を獲った小説なんです。結構話題になっていて、私も買ってすぐ読んだんですが涙が止まらなくて」

「へぇー、それは期待大だね」

「なので今日はこれ……観てもいいですか?」

「もちろんだよ。じゃあ俺チケット買ってくるね」

「えっ、あの……」

「いいからいいから、今日は埋め合わせなんだし、お財布面は俺に甘えておけばいいからさ」

「はぅ……」


 俺はチケット販売機のタッチパネルをペタペタと触ってチケットを二枚購入した。


 そんなに混んではいなかったが、雛世は人混みが苦手そうなので目立たない後方寄りの席を取った。

 周囲の人から貧乏ゆすりされたり背もたれ蹴られたりするとせっかくの映画が台無しだからね、席の場所は大切だ。


 ふと左手のスマートウォッチを見ると、上映時刻まではまだ時間がある。

 ちょっとフードコートで駄弁って時間でも潰そうか。雛世に提案してみよう。

 

「い、いいですねそれ。私一度やってみたかったんです」


 俺が言い出すなり、彼女は食い気味にオッケーしてくれた。


 ちょっと喜びすぎじゃない? そんなに好きなのかなフードコート。

 いろいろなお店があるから楽しいよね。

 

「やってみたかったって……放課後にフードコートで駄弁るのを?」

「は、はい! だってそんなの、私みたいな陰キャブスには縁がなくて……」

「もう、西目屋さんはブスじゃないって。陰キャラなのは……伸びしろだし」

「はぅ……」


 フードコートでドーナツを買った俺達二人は、適当な席に腰掛けた。

 放課後ということで、同じように駄弁っている学生が結構いる。


「ご、ごちそうさまです。ドーナツまで貰っちゃって……」

「いいのいいの、そんなに高いものじゃないし」

「ではいただきます……」


 雛世はオールドファッションにかぶりつく。

 口が小さくて、ちょっと小動物じみているのが可愛い。


「美味しいです。いつもドーナツを食べるときは、親がテイクアウトで買ってきたものばかりなので」

「あー、西目屋さんちって共働きなんだっけ。親御さんの帰りも結構遅いんでしょ?」

「そうですね。だから買ってきたドーナツもここで食べるような出来立てって感じはなくて」

「なるほどね。出来立てはおいしいよね」


 コクリと首を縦に振る雛世。よほど美味しいと感じているのか、幸せを噛み締めている様子だった。


 うんうん、食べ物は出来立てが最高なんだよ。唐揚げとかね。


「そういえば西目屋さん、晴人とは仲良いの?」

「ふぁっ!? ふ、藤崎くんですか……?」

「そうそう、バスケの試合を観に行ったときもそうだったけど、なんだか仲良さそうだなーって」

「い、いやいや、普通です」

「本当? 晴人のやつ、なんか西目屋さんの話をしている時楽しそうなんだよね。だからもしかしたらと思って」


 せっかく放課後にフードコートで駄弁るという学生の特権を発動しているので、話題も学生らしく恋バナにシフトしてみた。


 晴人と西目屋さん、波長が合ってていい感じだと思うんだけど。


「ぜ、全然そんなことないです。藤崎くんは……その、私のことを応援してくれていると言うか……」

「応援?」


 その瞬間、雛世は「しまった!」という表情を浮かべる。

 口が滑ったのかな?


「な、なんでもないです!」

「いやいや、さすがになんでもなくはないって。晴人が『応援』してくれるってことは、つまり西目屋さんには別の人がいるってこと?」

「はぅぅ……」


 真っ赤になった雛世は何も言わなくなってしまった。

 ある意味でこういう赤面というのは恋バナの醍醐味である。


「へえー、そうなんだー。西目屋さんもなかなかやるじゃん」

「ひ、平川くんの意地悪……」

「んで、誰なの?」

「ひ、秘密に決まってるじゃないですか……!」

「えー、せっかくだし教えてよ」

「む、むむむ無理です!」

「どうしても?」

「どうしても」


 それ以上雛世は口を割らなかった。


 晴人には打ち明けているのに、俺には教えてくれないんだな。


 ……まさか俺、口が軽いって思われてる?

 確かに晴人に比べたらそうかもだけど、そんなに口は軽くないぞ!

 尻軽かもしれないけど!


 ……この世界で『尻軽』と言うかはわからないが。


「そろそろ上映開始だし行こうか」

「は、はいっ……!」

「映画、久しぶりに行くから楽しみなんだよね」

「そ、そうなんですね。私はよく一人で行くので……誰かと行くのは初めてというか……」

「これからは誰かと一緒に行く機会が増えるんじゃない?」

「ど、どうしてですか?」

「だって好きな人とデートに行ったりするんでしょ?」

「そそそ、そんなデートとか私には……」

「ビビってちゃダメだって西目屋さん。……そうだ! 俺を練習台にしてみたら良いんじゃない?」

「練習台……?」

「そうそう。俺ならそんなに緊張しないでしょ? 練習あるのみだよ」

「はぅ……」


 我ながら名案である。

 男慣れしていない雛世の練習相手となれば、俺以上に適任はいないだろう。


 なんせある程度お互いを知っているし、俺程度の男なら雛世も緊張しない。

 どこの誰か知らない本命くんに備えて、デートのエスコートを体得しておくのだ。


 うんうん、思い浮かぶぞ。

 雛世がデキる女になって、俺が「見なよ……俺の雛世を……」と後方からドヤ顔する姿。


 よーし、雛世のためにいっちょ一肌脱ぐか。


 このあと本当に一肌脱ぐとは、俺は一ミクロンも思っていない。 

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