晴れの日 鈴なり

愛子

終わりと始まり

「また嫌われちゃった。」


鈴音の力なく広がった手のひらから、

赤いスマホがこぼれ落ちる。


涙が込み上げてくる。


いつも繰り返されるパターン。


鈴音は深く愛しすぎる故か、いつも彼氏に重たく感じられ距離を取られることが多かった。


今回もそう。


「大切にしたいだけなのに…。」


明かりの消えた部屋は、一人で涙を流すのに最適な場所だった。


次から次へと溢れ出す涙。


悲しいのか、悔しいのか…寂しいのか…。


とめどなく流れ続ける涙の理由は、いつしかわからなくなった。


悲しい?


わからない。


ふと、おじいちゃん家の匂いがした。


「そういえば昔っ…、おじいちゃん家でもっ、泣いてたことあったな。っく。」


嗚咽が混じる。


「なんで泣いてたんだっけ…っく、たしか写真とかあって…っく…。」


その瞬間の鈴音と重なり合う感覚。


ギューっと胸が締め付けられるような、でも温かいような…。


鈴ちゃん、泣かないで…――


ハッと顔をあげる鈴音。


たしかに聞こえた声の主の姿は見えない。


でもその声を知っている。


その優しい声を知っている。


鈴音の頬を再び涙がつたっていく。


空っぽの心に、じんわりと火が灯ったような感覚が広がる。


涙は止まらない。


きっともう、失恋の痛みに涙を流しているんじゃない。


大切な何かが


忘れないで…


と、内側から光を放っているようだった。





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