第43話 檻の中は温かい 3

  ムスッとしているアレックスには近づかないようにして、ローズマリーに紅茶を入れた。


 朝市に行ってきたローズマリー。そこで人だかりができて、なにやら騒いでいたんだって。


「どうなすったの〜? って、その人だかりに入ってみたのよ。そうしたら今朝の新聞! 一面がこれだもの〜」


 私は高鳴る胸を抑えて、新聞の一面を見つめた。


《 無法島、名を変えて、ベルランドへ。

正式にクオイリス国に加盟。法治国家へ-》


大きな見出しの下には……。


《ノーマン・ダークの娘、婚約--》


「えええぇ、アレックス! マリアが婚約よ!」 


 ノーマンズアイランドと呼ばれる小さな島。通称、無法島。国に統治されていない、一人の男、ノーマン・ダークが買い占め支配していた島……。

 先月アレックスはそこへ人探しに行った。私もわがままを言って、助手として同行させてもらったの。


「あの無法地帯がねぇ……結婚か。どうでもいい。勝手にしろ」


「結婚ではなく、婚約よ」


「どうでもいい」


「どうでもよくないわよ。相手はきっとグエンよね? お祝いしたいわ」


「はぁ? お前は何を言ってるんだ?」


 私たちは無法島でこの二人、マリアとグエン、料理長たちにまんまと騙された。

 ていうか、島の住人たちに盛大に仕掛けられていたの。もちろんアレックスが気づいて、協力することになったのだけど。


「あの恐ろしいノーマン・ダーク……その娘って、やっぱり噂通り美しいのよね?」


 ローズマリーはマリアが気になるようね。


「はい。とっても綺麗で、それだけじゃなくパワフルよ」


「ぜひお会いしたいわ〜。それにしても結婚した男も度胸あるわぁ、って思ったら……ノーマン・ダーク病死って書いてあるじゃない」


 うん、知ってるわ。実は彼はもう病気で亡くなっていたの。マリアをはじめとする島の人たちは徹底して隠していた。そうしないと近隣諸国から攻められてしまうから。ノーマン・ダークは敵も多い。


「だから、正式にこっちの国に加盟したのね〜。もう朝市でもみんな驚いてたわよ」


 アレックスが新聞の続きを読み始める。


「あとはなんて書いてある? 先月無法島で、鐘楼しょうろうから男が人質と共にロープで建物に渡った。その後、人質の女性は無事保護。抵抗した男は建物から落ちて死亡……これは直後の新聞に載ったな」


「アレックス、ここ読んで! 無法島がベルランドになった由来……観光客と住民で決めたって。鐘楼しょうろうに登った男と美しい人質の女性が、そこからロープで飛んだことで人気になり、連日観光客が訪れる……あぁ……」


「私もその事件は、お客様から何回か聞いたわ〜。今、鐘楼に上るの入場料を取るらしいわね。まぁ上手いこと復活したわよねぇ〜。だってロマンティックだもの。男女がそこから華麗に飛び移るなんて」

 

 ローズマリーはうっとりしている。


「あぁ……まぁね……」


 (美しい人質の女性ねぇ……)


「その飛んだ二人組がグエンとマリアってことかしら?」


「違うのよ、ローズマリー。飛んだのはアレックスなの」


「ええっ!」

 目を見開くローズマリー。


「おい、レベッカ、余計なこと言うな! お前はずるずると話し過ぎるんだ」


 無法島のことは喋るなって言われていた。

でも彼女には話していいのかと思ったのに。かっこよかったアレックスのこと本当はみんなに自慢したいくらい。


「ふーん、なんだかいろいろあったのねぇ。無法島に行ってる間に」


 ローズマリーがにやにやしていると、また呼び鈴が鳴った。時間的に、今度は仕事の依頼かもしれない。

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