第40話 幕間、マーゴのお仕事体験 2

 キス……されちゃった。


 急にローズマリーさんから腕にキスされて焦ったけど、それは心から私を心配してのことだった。


「傷が目立たなくなって、ほんとに嬉しかったの〜 ごめんなさい。腕とかほっぺとか、私すぐキスしちゃうのよ〜おほほほ」


「……全然いいんです。私も傷は薄くなってきたような気がしてて」

 

「そうよね! もう少ししたらマーゴも短いブラウスが着れるんじゃないかしら〜。とっても似合うわ。施術のときのかわいいビスチェも着れるわよ」


「はい……えと、ビスチェってなんでしょう?」


「肩の出ているワンピース風でね、見せるわ」


 ローズマリーさんから渡される。

 なにこれ? ペラペラのタオルじゃないの。こんなの恥ずかしいわ。無理無理!


「これはちょっと……」


「そういえばレベッカが着たときもかわいかったわ〜」 

 

 レベッカ-


 そこで私の記憶は途切れてしまった。



 *****


 出た! 出たよ。レベッカ。またあいつの名前!


 チカチカと目の前が光って、次第に焦点が定まる。気づくとローズマリーのサロンにいた。なぜかエプロンをつけている。マーゴのやつ、なにやってんだよ。


 そう。うちはマーゴの中にいる最後の人格の一人。破壊が大好きなマーガレット。マーゴが急にショックを受けて固まったから、人格を交代した。


「マーゴ大丈夫? 顔色が良くないわ」

 ローズマリーが私を支える。

 

「ええ……ローズマリーさん、大丈夫よ」


 うちはふらふらとしてみせて、深く椅子に腰をかけた。ローズマリーには言ったほうがいい? 今はマーガレットの人格だって。

 でもいいや、いつまで騙せるかやってみよう。ローズマリーって、頭悪そうだし。


 レベッカは前に会ったとき、ちょっと驚かしてしてやった。マーゴのやつ、レベッカと言う名前が出て、またヤキモチを妬いたんだ。


 全くマーゴってば弱いんだか-


「あ、熱っぅぅーーー!」


 ローズマリーが出した紅茶。早く飲んでって促されて……なんだこれ! 今、まさに沸騰してた熱さ!


「てっめぇー!! 殺す気かぁぁ?」


「おほほほほほほ」


「おほほほ、じゃないだろがぁ!」


「ごめんあそばせ、マーガレット!」


 なっ、こいつうちのこと知っている? なんで? お淑やかにしていたのに。

 ローズマリーは不敵な微笑み。


「マーゴは綺麗なアイボリーなの。でもあなたは……それに黒を混ぜた、どす黒い灰色かしら?」


 はぁ? 人のことをどす黒い灰色なんてよく言えるな。乾燥ハーブの束を壁に叩きつける。


「あんたのサロン、ぶっ壊してもいいんだよ?」


「おだまり! マーゴが悲しむ」


「そ、そ、そんなの、あいつが弱いだけだ」


 うちはちょっとたじろいだけど、負けじとローズマリーの腕を掴む。すると同じように二の腕を掴まれた。


 突然、うちの腕を揉み始めるローズマリー。な、なにしてんの?!


「あぁ、もう! マーゴもマーガレットも本当に身体中ガッチガチだわー!」


 そう言って、もみもみもみもみしている。


「当たり前でしょうが、体は一つしかないんだよっ! なにしてんだよ!」


 ローズマリーの目が急にキラキラと輝いて、うちのことをギュッと抱きしめてきた。

 なんだこの女!?


「いいこと思いついたわ! マーガレット! あなた引っ込まないでちょうだい」


「はぁ?」


 仁王立ちしていると、ローズマリーがブラウスのボタンを外してくる。

「おい、一人でできるぞ」

 ローズマリーはなにも答えず、背後からするすると服を脱がしていった。


「本当に白くて美しい身体だわ」


 有無を言わさず細長い風呂に突っ込まれた。

 ため息をついてローズマリーが褒めてくれたけど、あたしは自分の体が嫌いだけどね。

 細くて弱くて消毒液臭くて……胸だけは無駄に大きい。でもベタ褒めしてくれるのは本当は嫌じゃなかった。誰も私のことなんて褒めてくれなかったから。


 それにうちが気に入った香油をお湯に混ぜてくれた。それは本当にいい香り。


「ねえ、ローズマリー! これなんて言う匂いだ?」


「ラベンダーの香り。あなたに必要な物よ。とっても落ち着くの」


 いい香り。全身を湯船に沈めてみた。ずっとこうしていたいな。

 目を閉じると、毛布のようなところでマーゴは眠っている。まるで一緒に寝ているみたい。


 うちはすっかりいい気分になって、お風呂から出た。肌がすべすべでしっとりしている。

 体にタオルを巻いて脱衣所から出ると、ローズマリーが変なペラペラの布を広げる。


「さぁ、マーガレット、このかわいいビスチェのワンピースを着てちょうだい! 絶対にかわいいわ〜。その後は全身マッサージしてあげるからね」


「なにそれ? ペラッペラの変な服。ダサいわ。絶対に着ないから」


 うちがそう言い放つと、ローズマリーは膝から崩れてしまった。










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