第10話 妹(弟)は本当の自分を見せる
第10話 妹(弟)は本当の自分を見せる
1
「ただいま。」
佐倉さんと別れ、家に着いた時は、もう外は暗くなっていた。
「……おかえり。綾乃さん。」
「ただいま。凛久君」
リビングで本を読んでいる凛久君は少し落ち込んでいる顔だった。本を読んではいるが多分考えているのは全く別のことだろう。
やっぱり…そうだったのね。
あんなことを言ったけどしっかり心配していたことに私は少しほっとした。
時は進み、晩御飯を食べて少しした後、私はとある部屋の前に行き、コンコンと扉をノックする。少ししたらドアが開き
「なに…綾乃さん」
「ちょっと話したいことがあるの…入れてくれる?」
「…まぁ、いいよ。」
部屋に入るとあの時(第1話)と変わらず多くの本がありそこに机とベットがあるだけだった。凛久君はベットに座り
「それで…何を話したいの?」
私は凛久君の前に立ち彼にはっきりと聞いた。
「あの人と仲直りしたい?」
呆然と視線を上げる凛久君。そこで言っている意味を理解した。
「あの人って…あぁ佐倉か。別にしたいと思ってないよ。第一、喧嘩の原因はあっちだし」
私は、凛久君が言う言葉も見抜いている。その言葉も嘘だという事に…
私は、凛久君の隣に座り、彼を優しく抱きしめた。
「ちょ…おい。何すんだよ。」
「嘘…凛久君嘘言っているわよね。」
「は?別に嘘なんて…」
「じゃあ、どうして…そんなに悲しそうな顔をしているの?」
「っ!!」
本当は自分でも気づいていた。自分がどんな顔をしているか…どう思っているかなんてとっくに分かっていた。でも、それを隠していたけど…私にはバレバレよ。あの時も、ずっと言いたくないことを言っていてずっと辛そうだった…悲しそうだった。
私は抱きしめたまま凛久君の頭を撫で続けた。
「よしよし」
「……子供扱いすんな」
「慰めてるのよ」
今の凛久君は傷ついた子供……そんな子供を慰めるように。ぐずる赤子をなだめるように私は凛久君の頭を撫でた。
「本当は…あんなこと言うつもりなかったんでしょ?どうしてあんなことを言ったのか…どうして友達をやめたのか…そう聞きたかった。違う?」
「……」
何も言わないけど首は振った。
「あなたは本当に自分の気持ちを正直に言えないわね…あれでもあの子、結構落ち込んでいたわよ。」
「あいつと…話したのか?」
「少しだけね…あの子の本当の気持ちを聞いて、ちょっとだけ凛久君がどう思っているのか知りたくなったのよ。」
凛久君は私に顔を向けず、私の胸に顔をうずめたまま…ただひたすらに私に撫でられていた。
「俺……どうしたらいい?」
「さぁ?それは私にも分からないわ。」
「じゃあ、どうしようもないじゃん。」
確かにどうしようもない…方法なんて見つけていないでも…
「分からないからこそ…あなたの好きなようにやってみたら?」
私ならそうする。自分の進む未来を自分が好きなように作る。昔…そう教わった。
「それで失敗したらどうするんだよ。」
「いいんじゃない?失敗なんて人生で何回もすることよ。」
「でも…人間関係はそう簡単に…」
確かに人間関係は簡単に戻らない。二人は5年間も喧嘩したままでいた。今更戻ることなんてできないかもしれない…でも、
「それでも諦めないことが大切よ。簡単じゃなくてもきっと成功する方法がある。それを見つければいいのよ。」
何度も諦めずにやる。昔から私はその言葉を胸に生きてきた。今はもう覚えていないけど……遠い昔、顔も覚えていないけどとある人にそう言われた。
「それで何回も失敗して落ち込んだら?」
「その時は私が慰める。慰めてまた一緒に違う方法を探す。」
彼を慰めるのは私の役目…あの時は気持ち悪いって言って切り捨てたけど…彼を慰めれるのは私だけ…あの時だって彼を助け慰めていた。だから…私は彼を慰めれる人だから…助けなきゃいけない…あの時そう誓った。
「成功したら?」
「一緒に喜ぶ。あなたが乗り越えれたら、私も嬉しい。」
私は彼をぎゅっと抱きしめて
「私たちは家族よ。喜びも…苦しみも…全部を共に過ごすのが家族でしょ。」
優しくそう言った。
「……なんだよ妹のくせに…」
「落ち込んだ時に慰めろって言ったのは弟君でしょ。だから私は弟を慰めているのよ。」
「…あっそ。」
嫌がりはせずただ私に身を任せひたすら私に優しく抱かれ頭を撫でられ続けた。
やがて、満足したのか「もう大丈夫」と言い、私から離れた。
「どう?見つかった?」
「…一応。」
「そう…ならよかった。」
凛久君は私に慰められるのが少し恥ずかしかったのか、顔をこちらに向けずにそっぽを向いた。でも耳まで真っ赤にしているので恥ずかしかったという気持ちは分かる。
本当に…そういうところが凛久君の可愛いところだ。
「ありがとう…慰めてくれて。」
素直じゃないけど素直にお礼を言えるところは凛久君のいい所ね。
「あなたが言ったでしょ…家族だから支えるって…私も…あなたを支えたいのよ。」
「ん…ありがとう。」
私は立ち上がりドアノブに手を付けて
「また落ち込んだら呼んでね。いつでも慰めに行くから。」
「…できればもうやられたくない。」
最後にその言葉を聞いて、私は部屋を出た。
これで…多分大丈夫。
「がんばってね。凛久君」
ドア越しにそう言って、私は二人の関係が戻ることを祈りながら自分の部屋に戻っていくのだった。
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