出会いの書 無月編

第一話 謎と謎、それが全ての始まりだった

 ドス黒い──ありとあらゆる人間の闇を凝縮したような霧が周囲を漂う。


 暗闇に包まれ、静寂が支配する部屋の中心にポツリと光があり、そこには椅子が置いてあった。


「よいしょとな」


 暗闇の中からボロボロな白いローブを身に纏った老人が現れ、埃が積もりに積もった椅子に深く腰を掛ける。

 その瞬間、束を重ねた灰の塊が一斉に周囲に飛び散った。

 

 何とも不思議な現象だ。

 それはまるで魔法のようだ。

 

 老人はニヤリと笑い口を開く。

 低い声が響きを持ち、部屋の奥──隅々まで響いて行く。


「さてと、君は私にどんな物語を見せてくれるのだろうか」


 目を瞑り、余裕のありそうな深い表情を浮かべる。

 まるでそれは全てを掌握しているがゆえの余裕、王者のような絶対的自信から来るものだろうか。

  

「甘酸っぱい青春物語? それとも過去と向き合う物語か? どちらにしても美しい物語を私に見せてくれる事を願うよ」


 老人は脱力しきっていた右手を光の出ている方向へ向け、力強く握りしめる。

 そしてまた語り始めた。


「話を変えよう。君は『勇者』と言う言葉を知っているだろうか? 勇者とは、大いなる権化に立ち向かい、世界に平和迎える者。仲間と絆を深め、物語の悪役へ戦う運命を背負った者…………志道友継しどうゆうつ君、君は本当の意味で勇者になれるのだろうか。それはゲームのような甘い仮想空間では無く…………現実の勇者に」


 そう言って、静かに企みのある顔をした。

 老人は人差し指で虚空を円状になぞると今までの部屋の静寂を切り裂くように水色の魔法陣が展開される。


 魔法陣が心臓の鼓動のように脈が鳴りながらも徐々に光が強くなっていく。

 強い光──幻想的な光が全てを塗り尽くした。


「はいはい、わかってるよ。…………別件が入ったようだし、話はこれで終わりとしよう」


 老人のその言葉を最後に暗い部屋は終焉の時刻を迎える。

 終焉……それはこの暗い部屋だけで済むのか、それはこれからわかる話だろうか。



 【志道友継視点】

 

 ピコピコと、レトロな音を鳴らしているアーケードゲーム機が無作法に置かれている建物の中。 

 コンクリートが剥がれかけている壁や床がいかにこの建物が長年の時を過ごしたのか一目で分かる。

 

 ここは俺の住んでいる地元で有名な中古ゲーム店だ。

 中古ゲーム店と言う名である通り、売られているゲームソフトのほとんどは古いゲームで、最新のゲームはあまり売られていないが、昔有名だったゲームやマニアの中でも名高いニッチなゲームがそこらのゲーム店よりも断然と安いので、ゲーム好きに取って最高の店として知られているのだ。


 店内を歩き、レジの方へ進む。

 進んだ先には白く長いテーブルがあり、そのテーブルの椅子に座っていた新聞を呼んでいる一人の老人の姿が見える。


 短髪の白髪、目に黒いサングラス、口に独特の風合いを持っている独特な形状の煙草──コーンパイプをくわえていたワイルドな爺さん。


 レジの前に立ち、口を開いて言葉を発音する。

 

「長嶋さん、こんにちは。前に頼んでいたゲーム機の修理について参りました」


 爺さんに対して、深々とお辞儀をすると持っていた新聞紙をゆったりと机の上に置き、重い腰を上げる。

 

「おぉ……志道君か、こんにちは。今日じゃったな、ちょっと待っておれ」


 後ろにある木製の棚を開け、中から灰色に着色された五角柱の機械を取り出す。


 俺こと、志道友継は今年で高校二年生のゲーム好きな男子である。

 どうして俺が現在、この中古ゲーム店に訪れているかと言えば、会話の流れの通りゲーム機を壊してしまったのである。

 

 ゲームを買ってはやる毎日を過ごしていた俺はある日、あるゲーム機を壊してしまったのだ。


「RG-45」、ゲーム業界のトップ企業である会社が開発したこのゲーム機は日本に留まらず、世界中に愛されているハード機だ。


 このハード機の一番の特徴は、開発会社が独自に作ったゲームソフトを使って自分のオリジナルゲームをソフトとして自由に作れるフリーダムさが人気の秘訣である。


 まぁ、単純に名作ソフトが多いのもあって俺はこのハード機の魅力に取り憑かれいる中、煙を出して壊れた訳だ。


 そこでここの中古ゲーム店にお願いをした。

 長嶋さんの運営するこの店は周りのゲーム店とは違ってゲーム機の修理値段が安く、修理も早くて、本当に長嶋さんの店に近い所に住んでいて良かったと思う。


 RG-4の修理ってパーツが高騰していて修理の値段が高くて、学生がとてもじゃないが払える値段じゃないから本当に助かった。


「おぉ!!」


 その機械を見た瞬間にふと、声を漏らす。

 心の感情が体の中心に集まる感覚を覚える。


 まさか、修理前は灰色の塗装が剥がれていたり、電源ボタンが欠けていたボロボロなゲーム機が今では……こんなにもキラキラと新品同然に輝いているなんて思いも知れなかった。 

 

「長嶋さん、本当にありがとうございます」


 高揚感のあまり声高くペコリと長嶋さんに感謝を述べると、「はっはっは、良かったよぉ」とニコリと笑う。


「袋に入れんとな、ちょっと待ってておくれ」

「はい、わかりました」


 何だか申し訳ない気持ちになってきた。

 修理費用は数千円くらいだが、絶対値段以上の働きだ。割り合わないから、流石に罪悪感を覚える。

 

 そうだ、何かゲームソフトを買おう。

 クルリと体を90度右回転をして向きを変え、ゲームソフトの置かれている棚の方を見る。


 店のレジ付近の近くには最新のゲームソフトが置かれているコーナーであるのか、プライスカードのところのどころに「あと一品!!」と強調されて付けられていた。


 何を買おうかな。

 最近気になってた、あの大人気ゲーム買っちゃおっと。


 手を伸ばして目的のゲームソフトに近づけ、手に取ろう……と思ったが伸ばすのを辞めて、別の方に視線をズラす。

 

 そこには、「売れ残り!! 半額!!」と、書かれているゲームソフトがあり、ふと考えるとそれを手に取ってレジに持って行くことにした。


 ……もしかしたら、この最新のゲームソフトは他の人──大人とか幼い子供が買う可能性があるから、その分を残しておこう。


 売れないゲームソフト……何が売れない原因かは分からないが別に気にしなくても良い。

 良いところも悪いところも自分が直接見て確かめるとしよう。


「色々とすいません長嶋さん、これもお会計出来ますか?」

「はいよ、全然大丈夫だよ」


 ゲームソフトを手に持ち、レジの机の上に置くと長嶋さんはバーコードスキャナーで読み取り、レジ打ちを始める。

 それに合わせて財布を取り出した時、長嶋さんはニコリと表情を変えて微笑んだ。


「……どうかしましたか?」

「いやぁ……ね。そっくりだなぁって」

「そっくり?」

「さっきのゲーム機を見て、真っ直ぐに輝いているその目とかゲームを選ぶその姿とか……本当に#%さんにそっくりだなぁ」


 長嶋さんの言葉を聞いた瞬間、突然脳内にキーンと金属音が響く音が聞こえ始める。

 恐らく幻聴だろう。


 #%さん……?

 名前だけ聞こえない。


 長嶋さんはしっかりと言葉を発音して発していた。

 決して滑舌を悪く言った訳では無いのに、何故か名前だけ耳の中で認識出来ない。


「──っ!?」

 

 視界の端が黒いモヤモヤに支配されて行く。

 恐らく幻覚だろうか。


 不思議な感覚。不気味な感覚だ。

 何だ……こ──


「──友継君?」


 長嶋さんの心配する声と共に幻聴と幻覚が消える。

 

「……あ、はい」

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫です。すいません、多分寝不足かと」

「そうか、どうか無理しないでくれよ」


 ………?……?………?……………?………?…………。


 レジの金額が書かれているモニターを見ながら、お金をキャッシュトレイに置く。

「それじゃあ、本当にありがとうございます」と長嶋さんにペコリとお礼を言い、店を出て行くのであった。

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