第11話

星十倉は部屋に戻り、綿心と交わした会話を思い出しながら、静かな朝を迎えていた。原稿を手渡したことで少しだけ自分の心も落ち着いたような気がする。今朝の冷たい空気の中で感じたあの清々しい気持ちが、まだどこかに残っているようだった。


机の上に置かれた新聞を手に取って、朝食の準備を始めることにした。キッチンに向かうと、母親がすでにテーブルに座ってお茶を飲んでいた。


「おはよう、星十倉。」母親は微笑んで声をかけてくる。いつものように、穏やかな朝の一幕が広がっていた。


「おはよう、母さん。」星十倉は軽くうなずいて返事をし、冷蔵庫を開けて昨日の残り物を取り出す。パンをトーストし、卵を焼き、簡単な朝ご飯ができ上がる。気づけば、新聞を読んでいる母親といつものように何も特別ではない朝の会話を交わしていた。


「学校、今日も頑張りなさいね。」母親は食事を終え、立ち上がりながら言った。


「うん、わかってる。」星十倉は母親の言葉に軽く笑顔を見せたが、その心はまだ少し昨日のことに引き寄せられていた。綿心のことや、渡したノートの内容、そしてこれからどう作品が進展していくのかという期待が心の中で少しずつ膨らんでいく。


朝ご飯を終えた後、星十倉は制服に着替え、鞄を手に取った。家を出る前にもう一度部屋を見回して、何も忘れていないことを確認する。新聞を見ていた母親に軽く手を振り、「行ってきます」と声をかけて家を出た。


外はすでに明るく、陽射しが少しずつ強くなり始めている。昨日の涼しさはまだ残っているが、今朝も気持ちよく、空気が澄んでいて心地よい。歩きながら、星十倉は少し遠くの景色を眺める。隣家の庭で掃除をしていた綿心の姿が、まるで昨日の朝のように思い出された。


学校への道を歩きながら、思い返すのはいつも日常的なことばかりだった。だが、昨日の原稿に関する会話を振り返ると、心の中に少し、どこか、今までの日常が少しだけ変わったような気がしていた。


教室に到着し同級生と挨拶を交わしながら席に座ると、いつものように授業が始まり教室のざわめきの中で、星十倉は静かに考え事をしていた。何も特別なことはない。けれど、あの朝のひとときが、何かを始めるきっかけになるような予感がしていた。


放課後にはまた綿心と会うだろうか。彼女がどう原稿を進めているのか、また自分にどんな感想をくれるのか、そのことを考えていると、少し楽しみになってきた。


ただ、今は目の前の授業に集中しよう。星十倉は心を切り替え、先生の声に耳を傾けた。

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