史上災厄の死神に転生した〜冤罪で死んだ俺、死神として異世界を統べようと思う〜

ねおらいと

エピローグ





カーテンの隙間からは、冬の東京に相応しい優しい朝日が降り注いでいた。

今日が金曜日だと気づくと少し気が楽になったが、まだ憂鬱な気分は続く。


「……んん、朝か」


社会人五年目にもなると、体の疲れが取れていない眠りから覚めることも慣れてしまった。しかし、25歳になると段々と体が悲鳴を上げることもなくはない。


「腰、なんか、痛えな」


会社行かないとな。

そう思いつつ洗面台に向かう。

一人暮らしの1LDKは少し広いような狭いような……。


顔を上げ、洗面台の鏡を見ると、若い男が映っていた。


「なんか老けたな」


そう呟き、パシャパシャと顔に水を当て、目を完璧に覚ましていく。





◇◆◇◆◇





キッチンにある冷蔵庫を開けると、昨日の残りのカレーライスが残っていた。

「朝からカレーか…」と思いつつも電子レンジに入れ、スイッチを入れる。

また、薬缶やかんでいつも通りお湯を沸かし始めた。


そして、ダイニングテーブルの上にあるテレビのリモコンを手に取り、テレビを付け、俺以外の人間が座ることがほぼない椅子に座る。

すると、ニュースキャスターが淡々とニュースを読み上げていた。


「さて、次のニュースです。未明、指定暴力団の荒井組の幹部らと中国のマフィア集団が、横浜で抗争を起こしたそうです。横浜区域内では、外出禁止令が出ており警察や自衛隊による鎮圧がなされています。現場の映像です――」


恐ろしいこともあるものだ。

そういえば、うちの部長。昨日、暴力団がどうとか言ってたような。

まあ、俺には関係のないことだろう。


そんな朝のニュースを片目に見ていると、薬缶やかんがけたたましい音を立て、お湯が沸いたことを知らせた。そして、安っぽいインスタントコーヒーを棚から取り出し、くすんだマグカップに入れた。沸きたてのお湯を注ぎ、銀色のスプーンで丁寧にかき混ぜると、コーヒーのほのかな香りがキッチン中に広がった。「パッとしない味だな」と思っていると、ピッーピッーと電子レンジが鳴った。熱々のカレーライスを取り出し、スプーンで、味わうこともなく掻き込んだ。そして、「夕方洗うよ」と心に念じながら、流しへ放りっぱにした。


「少し時間に余裕がないかもな」と心で思いながら、洗面台へ行く。

先日買ったばかりの電動歯ブラシに、歯磨き粉を付け歯を磨く。

数十秒で歯磨きを済ませると、髪を少し整え、玄関に行き、玄関近くのラックにかけてある味気ない灰色のスーツを着て、玄関を開けた。





◇◆◇◆◇





「なんか、疲れたなあ」


ため息交じりの独り言が、夜の歩道に白い息と共に口から吐き出る。

東京にも関わらず雪が降りそうな程の寒気が体を包む。


「今日の夜、雪って言ってたな」


そんな風に思っていると、真っ白な雪が頬にこぼれ落ちた。


すると、時刻が19時を表示している型落ちのスマホが鳴った。


「もしもし、黒野くろのさん」


「もしもし、部長。もう帰りましたよ?」


「いや、今日、君と呑もうかと思ってね」


「そうなんですか。でも俺今日帰るって決めてて……」


「そうか。それは残念だったな。じゃあ、また今度」


「…はあ、はい」


プツッと音を立て、電話が切れる。

「なんだったんだ」と思っていると、トントンと肩を叩かれた。

振り返ると、黒いセダン型の車の横に大男が二人立っていた。


「お前が、黒野 まことか?」


「はい、そうですけど……。なにか用ですか?」


「そうか……」


そう答えると同時に、俺はもう一人の男に羽交はがめにされ、口元に布を押し付けられた。


「……な、にするんだ!」


ジタバタと抵抗も虚しく、意識がプツッと切れてしまった。





◇◆◇◆◇





「……い、おい。起きろ」


そういわれ目を覚ますと、見慣れない男たちが俺を囲んで立っていた。

どうやら何かの倉庫の中のようだ。潮の匂いが鼻を刺激する。


「なんだ、お前たちは!」


「そう怒るなって。俺たちはあんたの部長に言われてしたことさ」


「……ぶ、部長が?」


「そうだとも、黒野さん」


そう言ったのは、一番奥に立っていた男だった。


「部長……」


「質問はなしだ。単刀直入に言う。君に死んでほしいんだ」


「……え、は?」


「まあ、いろいろあってな。今日の抗争で少し派手にやってしまったんだ。それで、君が全ての因縁を背負って死んでくれると助かるって話さ」


「ど、どういうことでしょうか?」


「そうだな。私たち荒井組は、警察とも協力していてね。この事件の収拾に手を付けられずにいる。そこでだ、君がこの事件の首謀者として、チャイニーズマフィアらに殺されたっていうシナリオになれば、あいつらを逮捕できるってわけさ。警察の連中らも私たちも利がある。つまり、win-winってやつだな」


「はあ?俺が簡単に死ぬとでも?」


怒りが頂点に達し、部長に殴りかかろうとすると、強い締め付けを感じた。

手と足が、頑丈にロープで結ばれていた。


「嫌だ。俺は死にたくない!」


「そうだな。私も君の死は哀しい」


そう言う部長の顔は、感情を無くした悪魔のような顔だった。

それが最後だったかもしれない。


「さあ、もういいだろう。あとは頼んだ」


と俺を一瞥いちべつすると、闇の中へ消えていった。


「待て!!!!俺は!俺はまだ生きるんだぁああ!!!」


眼前に突き付けられた拳銃は、東京の夜に黒く映えていた。


バァンッ――


東京には、雪が降り積もりかけていた。

刺すような寒気が、降り付け身体が芯から冷えるようだ。

彼の亡骸の頭部には、痛々しい弾痕が残り、鮮血が地面に染み込んでいた。


彼は、死の寸前に「死神でもなって復讐してやる」と強く静かに呟いた。





◇◆◇◆◇





そんなこんなで死んでしまった。そして、なにもかも失ってしまった。


全てが無に帰ると思っていた。


しかし、目が覚めるとそこは見たことのない景色が広がっていた。


俺は決心した、この世界の全てを手に入れてやると――。


そして、復讐を果たしてやると――。






よかったら、星、ハート、コメントよろしくお願いします。

今後とも史上災厄の死神をよろしくお願いいたします。





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