第2話『少年たちは異世界に行く』
俺が『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』、通称『
大人たちや、年上のお兄さんお姉さんたちが大挙する新宿『ゲート』を不思議そうに眺めていた俺たちは、ある一人のお姉さんに懇切丁寧に教えられたんだ。
『あそこは、誰でも異世界に行ける場所なんだよ。この世界ではない、別の世界に。正しくはゲームなんだけどね?……でも、そこは本物だと私は思ってるんだ。私たちはいつだって、異世界に行けるんだから』
お姉さんがはにかみながら言った笑顔を、俺は今でも忘れられない。
それから、俺は早くその場所に行きたくて行きたくて、待ちきれなくなっていた。
同じ学校の友達四人と、十二歳……小学六年になる四年後までに、色々と勉強をして、『最速でゲームをクリアしてやろうぜっ!』て、そう息巻いていた。
そ、その当時はオンラインゲームに明確なクリアがないって知らなかったんだよ。
だけどまぁ、そんな幼い意気込みは多めに見てもらうとして……。
現実時間で、2025年の4月。
ようやくその瞬間が訪れる。俺たち仲良し五人組にも、政府から『オーディナル・データカード』が贈られてきたのだ。
学校が終わり、俺は帰宅して早々に、テーブルの上に置かれた小包を発見。
その中身が『ODC』だと気づいた瞬間、俺は五人の遊び場である公園へダッシュしていた。
そして一人の友達と顔を見合わせると、開口一番に……。
「「しゃああああああああ!!!!!!!!」」
「うるさっっ!!」
「えー?二人共、そんなに嬉しかったの?」
「あははっ、『ODC』なんて黙ってても届くのにねー」
歓喜。それは他の四人も同じで、お互いニッコニコの笑顔で『ODC』を見せつけ合い、盛大に高らかに、大きな声で奇声を上げていたよ(大きな声を出したのは二人)。
「だって嬉しいだろ!あのとき、おねーさんに教えられたあの世界……オ、オ、オプ……」
身長が低く、少しぽっちゃり気味の少年……俺がぎこちなく言う。
「『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』ね、通称『
俺のぎこちなさを見かねて、明るそうな茶髪の少女がフォローしてくれた。
「そうそれ!!ようやくその世界に行けるんだぜ?喜ばない方がおかしいんだよ、なぁサクタ」
「おうよ!その通りだぜハヤト!」
奇声を上げたもう一人、十二歳にしては高身長な少年が、俺と肩を組んで笑う。
「……だけど実際、楽しみだよ」
「お、流石のヒロもそう思ってたか!」
メガネを掛けた静かそうな少年も、俺たちに同意する。
そして最後に、もう一人。
「私も楽しみだなぁ、だって異世界みたいなゲームなんでしょ?授業で色々と勉強してたけど、童話の世界みたいで憧れちゃうよぉ……」
うっとりと、黒髪の少女がまとめるように言った。
「へへっ。ミウも案外、ゲーム脳だもんなっ。まぁ、でも……」
俺の言葉に、ミウは照れ笑いをしながら、「……うん」と頷いた。
『ODC』が届いて、向かうべきは近場の『ゲート』……なのだが、実はまだ行けない理由があった。俺がサクタに視線を向けると、長身の少年は申し訳無さそうに。
「……ごめんな、折角今日、『
「気にすんなってサクタ。夕方から部活があるんじゃ、しょーがねーよ」
長身の少年、サクタはバスケ部だった。
今年から最高学年で、部活もラストイヤー。頑張りたいのは理解していた。
「そーだよ、サッくん。あたしもパパの仕事の関係で、今日はログインできないしさ、気にしちゃダメダメ」
俺と、明るそうな少女……ヒビキが言う。
二人にフォローされた長身の少年、サクタは嬉しそうに。
「おお!サンキュな、ハヤトにヒビキっ!じゃあ部活が休みの、今週の土曜日にっ」
「おう!やっぱり、この五人で遊びたいからな!!」
俺たち五人は、幼稚園からの幼馴染でもある。
見事な確率で、小学六年間クラスも一緒だった。
絆で結ばれた最高の友達、掛け替えのない一瞬を共有する仲間を、俺は手放したくなかった……。
「それじゃあ土曜日に。現地……新宿『ゲート』に集合でいいかな」
「なんだよヒロ、もしかしなくても一番楽しみにしてるの、お前だろっ」
メガネの少年ヒロが、真っ先に予定を組み立ててくれた。
俺と同じくらいの低身長で、線も細い。しかしその眼差しは、もしかしたら俺たちの中でも一番、『
そして数日後。ついにその歓喜が、俺たち五人に訪れる。
「――行ってきます!!」
「こーらハヤトっ!ちゃんと時間に帰ってくんのよー!?」
「わかってるーーー!」
玄関を飛び出した俺は、親父の再婚相手である義母(ギャルママ)……マナカさんの言葉に適当な返事をして走り出した。重い身体を懸命に、このブヨブヨな身体から生まれ変われる世界へ向けて、飛び出したんだ。
「――あー!やっときた、ハヤトーーーー!!」
「遅いよ……」
ゼハァゼハァと、俺は息も絶え絶えでその場所……いつもの公園へ到着した。
しかし、四人いるはずの仲間たちの姿の数が足りなかった。
「ハァ、ハァ……ご、ごめんじゃん。あれ?サクタとヒビキは?」
汗を拭きながら、俺はその違和感を口にする。
数日前、予定があって遊べないと言っていた二人が、今日もいなかったのだ。
「『ODC』に連絡入れたのに……気付かなかったの?」
ミウが呆れたように言った。
「え?」
『オーディナル・データカード』は、携帯端末としても使用できる。
今ではスマホの代わりに代用する人も多くいて、『
まぁ……その連絡に気付かなかったんだけどさ。
「ハヤトはそういう所があるから……ミウは何度も電話したよ」
「ごめんって!そんなに怒るなよヒロもぉ……そんなに『
「当たり前じゃないか、海外ではもう僕たちと同じ年の『
「ほーら、ヒロが怒っちゃった。あ、それでサクタくんもヒビキちゃんも、また予定が入っちゃって来れないって。残念だけど、一緒のログインはまた今度にしてって言ってたよ」
どうやら二人は、前と同じ理由で来れなくなっていたらしい。
残念だけど、今回は三人で行ってくれとのことだ。
「じゃあ行こう。車を待たせてるから、乗って!」
メガネの奥の瞳を輝かせて、ヒロは俺たちを先導する。
「車って……うおーー!黒光り!」
ヒロの家は、簡単に言うとお金持ち。
確か、両親が共に会社経営者なんだっけ。
車体の長い黒い車……リムジンのドア前では、スーツのおじいちゃんがヒロに向かって頭を下げていた。
「クロセ、運転よろしく。場所は……新宿『ゲート』まで」
「かしこまりました、ヒロ坊ちゃま」
「「坊ちゃま……」」
俺とミウは口を揃えて、先走るヒロの後ろ姿を見ていた。
リムジンに乗り……って、人生でも初めてだし二度目はないと思うが。
新宿『ゲート』は、東京エリアでもログイン人数が多いことで知られている。
特に学生だ。学校終わりに新宿『ゲート』に寄り、数時間ログインして帰宅する。そんな生活だろう。
そして十数分後……。
「すっっっっっっげぇーーーーー!」
『ゲート』は全世界共通の構造、外観をしている。大きさは大したことはなく、こじんまりとしているが、当時の俺には大きく見えた。
中は意外と狭く、受付の人が数人とガイドさんがいるだけで、あとは『
「じゃあクロセ、多分二時間……ゲーム時間で六時間を遊ぶつもりだから」
「かしこまりました、坊ちゃま」
「「坊ちゃま……」」
漢字だと、黒瀬さんと書くであろう執事?のおじいちゃんは、『
「――ようこそ、新宿『ゲート』へ。あら?もしかして……今年からの新人さんかしら?」
『ゲート』に入ると、青い制服を着たガイドのお姉さんが声を掛けてくれた。
どうやら俺たちを新人……今年ログインするプレイヤーだと察してくれたらしい。
「はいっ!よろしくおねがいしますっ!」
「うふふ、元気ね……じゃあ、三名様ね。こちらへどうぞ」
「よろしくおねがいします……」
「お願いします!」
俺は意気揚々に、ミウは緊張気味に、ヒロは急かされたように。
受付のお姉さんに、ガイドのお姉さんはバトンタッチ。
「それでは、こちらに記入をお願いします」
「はい、じゃあハヤト、ミウも書いて!」
「わかってるって……急かすなっ」
「もぅ……」
一番大人しそうなメガネ君が、実は一番アクティブだったりするんだよなぁ。
そんなこんなで、俺たちは記入に名前と『ODC』のIDを書き込み、小部屋へ向かうのだった……。
――キャラ紹介・主人公たち――
・ハヤト 仲良し五人組の一人、身長が低く少しぽっちゃり体型の少年。
・ミウ 仲良し五人組の一人、大人しそうな黒髪の少女。
・ヒロ 仲良し五人組の一人、メガネを掛けた真面目そうな少年。
・ヒビキ 仲良し五人組の一人、明るい性格の元気な少女。
・サクタ 仲良し五人組の一人、高身長でスポーツマンの少年。
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