第13話 正直勿体なかった
「五季?藤守さんとなんかあった?というかセットしてねぇーじゃん」
いっぺんに質問攻めしてくるのは隣の席で頬杖を突く卯月。
ぷくーっと頬を膨らませた朝花と、同じように頬杖を突く俺を交互に見やり、俺の答えを聞く前にポンッと手を叩いた。
「もしかしてあれか?藤守さんと朝から修羅場があってそれどころじゃなかったってやつだろ」
「「……っ!」」
俺だけではなく、朝花までもが言葉を詰まらせる。
そして勢いよく卯月に睨みを飛ばし、
「んなもんしてねーから!」
「時間なんていっぱいあったし!」
口を揃えて言った。
そうすればパチクリと瞬きを繰り返す卯月は威圧に押されてか、小ギザミに頷き始めた。
「そ、そうか!なにもしてないならよかった!」
卯月目線はなにがよかったのかは知らないはず。
けどこう言ったのは、とりあえず肯定しとけばいいと思っているからだろう。
実際、深堀りしてくれてないだけマシだし、これで会話が終われば――
「え、朝からエッチでもした?」
「「……っ!」」
おもむろに胸を撫で下ろしていた時だった。
突然の爆弾発言を投下したのは松浦さん。
感情を表情に出すわけでもなく、周りに聞こえるような声量でもないのを見るに、ただの疑問だったのだろう。
だが!その疑問が半分正解なんだよ!!
「いや?俺達はなにもしてないけど?なぁ朝花」
極力目を泳がせないように、ジッと松浦さんを見つめながら朝花にボールをパス。
「そ、そうそう!私はただ体位の話をしただけであって、ちょーっと五季のあそこと私のお尻が当たっただけというかなんというか……」
――パチンッ
そんな音がなったのは俺のおでこから。
自分の手で叩いたというのに、思った以上に強くて痛い。
……けど、今はそれどころじゃない。
「嘘つくの苦手かよ……」
呆れすら抱く嘘の下手さ。
なにが『そうそう』だ。全部赤裸々に話してるじゃねぇか。
指の間からチラッと松浦さんと卯月を見てみれば、どちらもが大きく目を見開いていた。
「……分かった。素直に話すから直接この言葉を受け取らないでくれ……」
ため息混じりに呟いた俺は、ヒューヒューと下手くそな口笛を吹く朝花に睨みを向け、一緒に寝たことは誤魔化しながらあることないことを話した。
……もちろん朝花が口を開こうとする度に口を塞がせながら。
「えーっと……つまり、二度寝させないように持ち上げたら、それが膝立ちバックになった……と?」
「そう。それが事実だ」
「んなことなるかねぇ……?」
いつもの元気さを失った卯月が眉根を潜める。
そんな中、赤くした顔を机に押し付ける朝花に、松浦さんがため息混じりに紡いだ。
「まぁ2人は幼馴染なんだし、ないこともないんじゃない?なんでそうなったのかは私も意味がわからないけど」
「いやもうほんと意味がわからないままでいいよ。俺の失態だから」
実際、なにも考えずに持ち上げたのは俺。
腕のしびれに気を取られてて、お尻に当たってることにも気付かなかったのは俺。
総合的に見れば、朝花とのわだかまりができたのは俺というわけ。
代表するように膝の上で握りこぶしを作った俺は、深々と頭を下げた。
「なので、この件は誰にも言わないでくれると嬉しいです」
「いやまぁ言わないけどさ……。藤守さんの口の軽さにはちょっと驚きだよね」
続くように頷いてくれる松浦さんと一緒に、机に突っ伏す朝花を見やる。
この16年間、朝花と一緒に過ごす事が多かったのは言わずもがな。
そんな16年間を振り返って、思った。
「……多分こいつ、嘘ついたことない……」
「嘘ついたことない!?なんでもかんでも素直に言い続けたってことか!?」
「俺と一緒にいる時は少なくとも……」
自分の親はもちろんのこと、友達にも、俺にも朝花は嘘をついたことがない。
というか俺が”言わせなかった”のかもしれない。
嘘をつこうとする時、毎回のように俺が庇って嘘をつく。
理由なんて1つで、嘘がバレた時に怒られるのは俺だけでいいと思ったから。
それが仇となって嘘が下手になったわけなのだが……これはこれで愛嬌があっていい。
「まぁ朝花ってピュアそうだしね」
「……まぁ、うん。体位の名前は知ってるけど、そういう面ではピュアだな……」
肩を竦めながら言う松浦さんに、苦笑を浮かべて返した俺は朝花を見る。
さすれば、バチッと視線が交差し――
「……私だって体位ぐらい調べるし……」
「おいなに言ってんだこんな所で」
「せっかく私、高を括ったのに」
……つまり、あのままやってもよかったと……?
言葉を返すよりも前に、今朝の光景を思い浮かべ、朝花のあんな姿やこんな姿――
(え?もしかして結構勿体ないことした?)
ふとそう思ってしまう俺は腐っているのだろうか?
「おーい五季〜?遠い目してどしたー?」
「あ、いや、なんでもない」
「めちゃ怪しい」
「うるせうるせ。さっさと授業の準備しろ」
シッシッと手を払った俺は、机の中へと視線を落とす。
正直勿体ないとは思う。けど、朝花の処女は付き合った人に渡した方がいいのではないのだろうか。
いやまぁ『小説のネタにさせて!』とお願いされたらやるけど、頼まれるまではこっちから襲うことはない。
(いやでも……勿体なかったなぁ……)
後悔を頭の中で渦巻かせながら、目元に垂れる前髪をかき上げて教科書を手に取った。
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