第11話 最近はスマホでも書けるらしい
「やっと来たね!」
朝花の部屋に入れば、ドカドカとベッドの上であぐらをかく髪を団子にした幼馴染が目に入る。
太ももの間に手を置いているからか、前かがみになった体からは紺色のパジャマがよれて谷間が……って違う!
慌てて首を横に振った俺は平常心を保ちながらシワを寄せる。
「これでも急いだほうなんだぞ」
ワックスとかで手間がかかったとはいえ、好きな人と寝られることが楽しみでそれなりに急いだ。
朝花自身も髪が長いから、遅くとも同じタイミングになるだろうと踏んでいたのだが……髪も完璧に乾かし終えていた朝花は、気にする様子もなくトントンっとベッドを叩いた。
「まぁまぁそんなことは置いといて、早くおいで?」
「……んじゃお言葉に甘えて……」
そうして扉の前から移動した俺は、真っ白のシーツに腰を下ろした。
瞬間にふわっと漂う女性特有の香り。これといった柔軟剤も使っていないし、香水ももってのほか。
なのにも関わらず漂うこの香りの正体は一体何なのだろう。
思考を働かせていれば、不意に朝花の顔が覗き込まれる。
「女性特有の匂いについて考えてる?」
「……心読めるのか?」
「幼馴染だからなんとなく分かるの〜」
ふふんっ!と、もとより大きかった胸を張り上げる朝花。
そんな朝花に苦笑を浮かべながらも、ひとつ疑問に思っていたことを口にした。
「今日は小説書かなくていいのか?」
朝はもちろんのこと、夕方も夜も朝花は小説を書いていない。
本来ならこの時間帯は小説に没頭しているはずなのだが……
「書いたよ?」
「え、いつ?」
突然の告白に反射的に首を傾げてしまった。
言わずもがな、朝花と俺は1日中ともに行動した。
その際に朝花がキーボードを取り出した姿も見ていないし、やっていたとしてもスマホにメモを……
「あー……スマホで書いてたのか……」
「そゆこと。どうせ今日は家で書かないだろうなぁって思って学校で書いてたの」
「偉いな」
「でしょでしょ」
またしても胸を張り上げる朝花。
まだまだ残り続ける理性で顔を逸らすのだが、当の本人は俺の理性に気づいたらしく、ニマーっと笑みを浮かべた。
「五季も男の子なんだね?」
「……当たり前だろ」
「でも見ないようにしてくれてるってことは紳士なんだね?」
「……まぁ、そうなるな……」
「自分で言ったからげんてーん!」
「今のは仕方ないだろ!?」
見開いた目で朝花を見下ろせば、口元を隠した朝花がクスクス笑う姿が視界に入る。
一体なにが面白いのかは分からん。
だがまぁ、朝花が楽しんでくれているのならそれに越したことはない。
「それじゃあ早いけど、早速寝ちゃいましょうか!」
そうしてベッドに直接頭を倒した朝花は、たった1つしかない枕をトントンっと叩いた。
「枕使わないのか?」
「五季の腕があるからね」
「……確かに」
一緒に寝れることで舞い上がっていたが、本来の目的は朝花の小説のネタ提供。
主人公の腕で寝るヒロインの描写を書きたいのだと思うのだが……自分の腕でもできるくないか?
そんな俺の疑問なんて他所に、強引に腕を引っ張った朝花は俺の体を倒した。
「じゃあ腕伸ばして?」
「……キャラ付けとかしなくていいのか?」
「今回は大丈夫かなぁ。経験がほしいだけだからね」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなの〜」
そんな朝花の言葉を耳に入れ、右腕を伸ばした。
続くように朝花も頭を上げ、おもむろに後頭部を二頭筋に落とした。
「あ、これ結構いいね」
「んならよかった」
そう言葉を返した俺は、左手を伸ばして電気のリモコンを手に取る。
「消すけど大丈夫か?」
「大丈夫」
正直メモでも取るのかと思ったのだが、天井だけを見続ける朝花にそんな素振りはない。
明日の朝に回すのだろうか?なんていう疑問を頭に乗せながらも、ピッという音とともに光を消した。
「それじゃあおやすみ」
「おやすみ……って言いたいところだけど、さっきから通知がうるさい……」
「あぁ……」
朝花との距離の近さに完全に頭からすっぽ抜けていたが、言われてみればずっとバイブ音が鳴っている。
マナーモードにしててもこの騒がしさなのだから、スタンプ連打でもしているのだろうか。
暗闇の中、スマホに光を灯してMINEを開いてやれば……
【お風呂行ったの?】
【そろそろ帰った?】
【あ、今度遊ばない?】
【別に藤守さんも来ても大丈夫だよ】
【あ、けど越菜だけは無理】
【連絡遅くない?】
【お風呂長い人なのかな?】
この他にもすっごい言葉たちが並んでいるのだが……正直、返すのがめんどくさい。
小さく息を吸った俺は、同じようにスマホの画面を見る朝花を目尻に収め、そして指を動かした。
【ごめん、今日はもう寝るわ。また明日話そ】
その言葉だけを残して、光を消した。
もちろんスリープモードにして通知がならないようにして。
「ドライだね」
「まぁ……今結構眠いからな……」
「そっか。じゃあ改めておやすみ」
「おやすみ」
そんな言葉を最後に、腕に重みを感じながら目を閉じた。
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