第28話 新たな仲間

 指揮を執っていた正規兵は慌てて

「いけません、エリザベス様。あなたはローレンシア教の巫女です。賞金首となっている者たちと同行するなど、もっての他です」

「トーマス、私が海斗たちと戦ったのは、アンナベルお姉様の一件もあるのですが、元々は海斗がこの世界に災いをもたらす魔法を行使するという神託を授かったからです。しかし、失礼ながら今の海斗には、それだけの魔力があるとは到底思えない。とは言え、神託に間違いがあったとも思えないのです。私は、神託を授かった巫女として、海斗の行く末を見定める義務があるのです」

「しかしエリザベス様、あなたが海斗たちと同行したと王様やアンナベル隊長が知ったら、さぞかし驚かれると同時に悲しまれるか、もしくは大層お怒りになられると思うのですが……」

 エリザベスはしばらく考えていたが、言葉を選ぶようにゆっくりと考えながら話し始めた。

「確かに。お父上からは勘当されるかもしれません。が、覚悟があります。心が痛いのは、海斗に付いていきたかったアンナベルお姉様の方です。私が同行したと知ったら、どれだけ悲しく、そして恨めしくお思いになることでしょう」

 海斗は勝手に、エリザベスが同行することを前提に話が進んでいることに少し苦笑いをした。そして、会話に割りこんだ。

「俺のチャームのスキルは一週間俺と会わなければ、俺に恋する状態が解けるだけではなく、俺そのものの存在自体を忘れるようになっている。だから、トーマスさん、一週間後に、刺客、いやアンナベルお姉様? にエリザベスが俺たちと同行したことを報告すればいい」

 エリザベスはほっとした様子で

「ところで、あなたたちはこれからどこに向かうのですか?」

と聞いて来た。

「知っての通り俺たちは賞金首になっているが、そうなる覚えがないんだ。これからローレンシア教皇国に行って、教皇様にこのことを弁明するつもりでいる」

 そう喋っていて、海斗はローレンシア教の巫女であるエリザベスがいてくれれば教皇に会う際に仲介をしてくれるのではないか、と期待した。

「ところで、皆、エリザベスを同行させて構わないか?」

「私はダーリンが構わないというなら、それに従う」

「私たちのパーティにはヒーラーがいません。そういう意味では貴重な戦力になると思います」

「仕方ないわね。今回みたいに敵として戦うよりも、監視が目的でも同行してもらう方がまだマシだわ」

 海斗はエリザベスの方に向き直して

「だ、そうだ。これからよろしく頼む」

と歓迎した。

「わかりました。私の方こそよろしくお願いします。ところで、あなたたちは教皇国の首都・サンクト・ルミナスに行くのですね」

と言うと、エリザベスはトーマスの方を向いて、

「では、こうしましょう。トーマス、一週間後のアンナベルお姉様の容体の報告をローレンシア教皇国の町・アルティアの冒険者ギルドに封書で送って下さい。私は封書を見て、海斗が言っていることが本当かどうか判断します」

と指示した。

「アルティアの冒険者ギルドに寄るぐらい構いませんよね、海斗?」

「俺が言ったことに嘘はない。もちろんアルティアの冒険者ギルドにも寄る」

「ありがとう、海斗。それで、トーマス、私のことは海斗との戦闘で行方不明になったと父上には報告しなさい。正直に言うよりも、私がエルシオン王国に復帰できる可能性があります」

「わ、わかりました。そういうことであれば、あまり気乗りませんが、そう報告しておきます」

「海斗の行く末を見定めたら、必ずセレスティア宮殿に戻ります」

 トーマスは汗を拭きながら、

「できるだけ早いご帰還をお願いします」

と懇願するように言った。

「それでは海斗、一緒にローレンシア教皇国に行きましょう。ただし、嘘があったら許しませんからね」

 今までのエリザベスの発言を聞いていたアリシアは

「ふーん」

と意味ありげな態度を見せた。

 アリシアの方を向くエリザベス。アリシアは簡単に自己紹介をした。

「私は冒険者のアリシア・ベルモンド、アリシアと呼んでくれ」

「それでアリシアさん、私の発言に何かおかしなところがありましたか?」

「いやね、何かと同行する理由を『海斗の行く末を見定めるため』とか言っているけど、要は海斗のことが好きだから付いて行きたいだけじゃねえの、って思ってさ」

 その発言を聞いて、エリザベスの顔が見る見るうちに赤くなった。

「わ、私はあくまで海斗の行く末を見定めるために同行するのであって、決して海斗のことが好きだから付いていくわけじゃないんですからね!」

 結衣がぼそっと言った。

「ツンデレ?」

 レイナが不思議そうに言った。

「ツンデレって何ですか」

 結衣は

「ツンデレって、普段冷たいけど、ふたりきりだと甘えてくる人のことよ」

 エリザベスの顔は真っ赤になり

「わ、私は決してツンデレキャラではありません!」

 と言って、海斗の胸を握った両手でポカポカ殴り始めた。

「いや、だから、どうして俺の胸を叩くんだよ」

 アリシアは大笑いをしながら

「いいよ、いいよ。今日のところはそういうことにしておいてやるよ」

と言った。

 その発言を聞いたエリザベスは殴るのを止めて

「こほん、では皆さん、ローレンシア教皇国を目指して、まずはヴァルディス公国へ入国しましょう」

「俺のセリフ、取られた」

 アリシアは笑って、海斗の背を叩きながら

「いいじゃん、いいじゃん。また、ダーリンが号令をかけるときもあるよ。さあ、皆、行こうぜ」

 海斗たちはヴァルディス公国との国境にある関所に向かって歩き始めた。

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