第15話 ライカンスロープ

――闘技場


「ブジュル……ル」

「あのぉ……どなたでしょう」


 ……はい、もちろん、目の前にいて大変、荒ぶっているスライムのことも気になるのですが……、


 それ以上に私を驚かせたのは……、


 ビジュアル系バンドの様な姿の若者。もしくはホストでしょうか?


 その彼が、少し傾きながら、私とスライムの間に立っていたことでして……。


「ん?僕かい?フフ、どうやら君、この僕に興味がある様だね……無理も無いね……ハハッ」

「キャーー!!」


 いえいえ、全く興味はありませんが……と、いうかこの闘技場、お客さんが入っていますよ!しかも、興奮して叫んでいますよ。


 もう、私、驚きが大渋滞なんですが!トラフィックジャム!


「僕はッ!この闘技場のプレゼンタァー……アビス・ダーク・オブ・ダーク、略して……」

「アダダ?」

「違うよッ!」

「ダクダク?」

「違うよッ!略してアビスだよ!」

「えっ?それは略していないのでは?」

「そうだけど!別にいいだろ!アビスって名前、気に入っているんだからッ!」


 ちなみにさっきからこの方、やたらと声が大きい!もしかしたら……ここは闘技場、マイクの代わりに魔法で拡声をしているのでしょうか……?


「……ところで?アダダさん、あなたは何者?プレゼンターとは?」


「フフ……君にはあえて詳細を話さないでここに来てもらった、どうだい、この闘技場の雰囲気は、驚いただろう!」


「驚いたというか困惑しています」


「僕はこの闘技場でバトルを盛り上げる仕事をしている、エンターティナーなのさッ!」

「キャーー!」


 しゃべり終える度、いちいち、アンニュイな顔を作って、観客にアピールしていますね……うん、プロですね。


 しかも、銀のネックレスを3本も付けていらして、動く度、じゃらじゃらしていますが、それをものともしない!……重くないのでしょうか?私には、とても真似できません。


 と、ここで私、質問を……、

「アダダさん、さっきからスライムを放置されていますが……、危ないのでは?」


「……危ない?そんなことは、無いんだよッ!」

「キャーー!素敵ーー!!」


「ハハハ!君は気付いていない様だね。スライムは僕の魔法によって、ずっと動きを抑制されているのさ!まだ試合前だからね!フフフ、何を隠そう、この僕はライカンスロープ!今は人間の姿だが、それでも膨大な魔力を持っているのさッ!」


 おぉライカンスロープって、たしか……狼男ですね!


「まさか、ライカンスロープだとは気が付きませんでした。フローラルな匂いが漂っていますし、アイドルか何かかと思いましたよ」


「ふぅん、アイドル……か……、あぁ、異世界の人気者のことだな、うん。その認識で間違いないよッ!ちなみに僕は常に香水を付けて生活をしている!フフッ良い匂いだろ!だろ!」


「香水を常に……あっ、でも大丈夫ですか?ライカンスロープは狼や犬と同じく鼻がとても優れているのでは?香水の匂いは強くて、辛くありませんか?」



「……我慢してる」

「え?」

「すごく辛いけど、我慢してる」

「プロだ!」

「キャーー!!素敵ーー!!」


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