第12話 蔵王権太郎

 あのZ会との廃工場の対決から二週間ほどたったある日のことだった。

「厳つくででかい、かなりヤバそうな男が『喧嘩の強い喜屋武≪きゃん≫って奴を知らないか』と校門を通る生徒に片っ端から声をかけている」というクラスメートの通報があった。

 そんななりの奴はそうはいない。宇宙≪そら≫くんと駆け付けると、果たして、あの、宇宙クンがぶっ飛ばしたZ会の総長、蔵王権太郎が校門のところにいた。


「よう、あの時はすまなかったな」

 意外にも殊勝な態度の蔵王の用件は、しかしやはりというか、喧嘩だった。

「なあ、喜屋武。もう一度、タイマン勝負してくれないか」


「外で喧嘩はだめよ」

 私がぴしゃりと返事をした。結局、私の家の道場で、喧嘩ではなく異種格闘技の手合いという体裁をとることになった。

 

 二人の対決は、あの時の再現映像のように、宇宙くんの勝ちだった。

彼にけり倒され、大の字になって喘いでいた蔵王は、ようやく起き上がると、宇宙くんに向かって頭を下げた。

「やっぱ、つえーなー。なあ、喜屋武。Z会の総長になってくれないか。お前に負けて俺は求心力を失った。もう組織をまとめられないんだ」


 冗談じゃない。宇宙くんを制して、私が返事をした。

「まとまらないならそれでいいじゃない。あんな連中、頭がいなくなれば、仲間割れして自然に解散になるわよ」


「そうかもな。それなら舎弟にしてくれ、喜屋武、いや喜屋武さん」と蔵王は宇宙に向かって頭を下げた。

意 外な展開にしばし逡巡した彼がようやく口を開いた。

「舎弟は断る。でも友達ならいい」



 後日、Z会から抜けてきた蔵王と、宇宙クンのマンションで、アリッサ、弥生交えて四人で会った。

 蔵王は、まず、アリッサに土下座をした。

「ひどい目に合わせちまった。許してもらえるとは思ってないが、とにかくmぉ牛分けなかった」

 蔵王が言うやいなや、アリッサが思いっきり蔵王の頬を張った。

「これで許してあげる」とウインクする、何とも男前のアリッサだった。


「そもそもなんであんなことをしたのよ」

 私たちは、あの乱闘に至った拉致事件について、彼を尋問した。


「お前らの高校の奴から連絡があって、嫌な転校生がいるのでぶっ飛ばしてほしい、そしたら飛び切りいい女を提供するって…」

「うちの誰がそんなことを?」

「それが良くわからないというか、思い出せないというか。とにかく河川敷の五本松のところにその女がいるから、そいつをさらって久我という女に連絡しろって、番号を教えられた」


「アリッサもなんでみすみすそんなところに行ったのよ」と姫乃。

「下駄箱にラブレターが入っていて、まあ、絶対あやしいと思ったけど『虎穴に入らざれば虎子を得ず』ってやつ? 結局『飛んで火にいる夏の虫』になっなっちゃったたけどね。あはは」と何とも緊張感のないアリッサである。


「その女を使って喜屋武さんを誘き寄せせて、その女も転校生でろくな奴じゃないから、喜屋武さんをぶちのめした後で思いっきりひどい目にあわせてしまえと」


「一体、うちの高校のだれがそんなひどいことを…」


「俺の知っている奴だった。でも、どうしても名前が思い出せない」


「そもそも蔵王、うちの高校に知っている奴なんているの」と尋ねると、意外な返事があった。

「俺、昔、風華学園高等部にいたんだよ。柔道部で学校の名前を背負って全国目指したこともあって、でも、三年前、カツアゲされた同級生を助けに行って、相手を病院送りにして、それで部が出場停止処分を受けないよう、俺は退部、退学したんだ」

「俺にも愛校心みたいなのが残ってて、そんなひどい転校生ならでやってやろうじゃないかって…」


 私たち四人は顔を見合わせた。

「やはり、校内に対応勢力が浸透しているみたいね」

「うん、奴らは、僕たちのそばにいる」


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