第8話 不良グループと乱闘

 落合恵、神楽坂弥生に続き、なんと今度はアリッサ・セントメリーが拉致されてしまった。

 

 私のスマホに「喜屋武、お前のところの金髪女を輪姦≪まわ≫す。助けたかったら来い」と「多摩川Z会」と名乗ったメッセージが届いた。学習塾みたいな名前だが、「多摩川Z会」といえば、この辺りではちょっと名の知れた不良グループだ。


 指定してきた場所は、いつもZ会が集会の拠点としているらしい、神奈川県側の多摩川べりの工場跡地だ。

 宇宙くんは危ないから自分一人で行くと言い張ったが、私と弥生は強く同行を主張し、宇宙くんもとうとう折れて、私たちは三人で敵の本拠地に出向くこととなった。


 その一角は、どの鉄道の駅からも離れた、古い準工業地帯と思しき廃ビルやシャッターの降りたビルが目立つ地域で、壁やシャッターには卑猥なスプレー書きがやたらと描かれ。街の雰囲気をさらにすさんだものにしていた。

 不思議なくらいに人通りも、車の行き来もない。まるでゴーストタウンに迷いこんでしまったかのようだ。

 

 住所を頼りにようやく指定の場所にたどりつき、少しだけ空いていたシャッターをくぐって中に入った。

 そこは、バレーボールのコートほどの広さの廃工場だった

 

 閑散とした街の雰囲気とは対照的に、その空間には濃密な人の気配があり、煙草や酒の臭いや、男たちの下卑た笑い声に満ちていた。

 我々三人の姿を認めると一斉に怒号が上がった。

 そこには三十人くらいの男と、数人の女性がひしめいていた。首や腕にタトゥーをびっしりとした男や、どぎつい色に髪を染めた男女に交じって、河川敷で宇宙くんや弥生に叩きのめされた奴らもいた。


「ねえ。こういうところ、趣味じゃないんだけど」と私が言うと、緊張した面持ちの弥生が無言で頷く。


 そして、その集団の向こうに、ピンクや紫に髪を染めた女数人に囲まれて、なんと全裸で十字架にはりつけにされたアリッサが、そのパイパ…ハイジニーナ処理をされた豊満な裸体を曝していた。


 なんてことを! この腐れ外道どもが!

 私の中に激しい怒りが沸き上がった。


 珍しく、宇宙くんが、怒気を露わにした声で叫んだ。


「この中で一番強い奴、出てこい。一対一≪タイマン≫で勝負を付けよう」

 

 相手側から一斉に怒号があがる。

「なんだ、コラァ、調子こいてんじゃねーぞ!」

 

 動じずに宇宙くんが言い返す。

「それとも、雑魚どもに俺を襲わせて、疲れさせてからじゃないと自信がないってか。それならそれでもいいぜ、無駄な怪我人を出すだけだと思うがな」

 

 半ぐれ集団の中から、身長185センチ、体重はゆうに100キロ以上ありそうな大男がのっそりと姿を現した。

「いいぜ、相手になってやるよ」


「うぉーっ」

 一段と大きな歓があがる。

「総長、やっちゃってください」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

 どうやら自分たちのボスが負けるとは微塵も思っていない様子だ。


「多摩川Z会の総長、蔵王権太郎だ」


「俺が勝ったら、直ちに部下どもを解散させ、アリッサをこちらに返してもらう、いいな」と宇宙くん。


「お前をぶちのめした後、パイパンの金髪だけじゃなくて、そっちの女二人も俺らでかわいがってやるよ。やりまくって動画をネットに上げる。ああ、顔はモザイクかけてやるから安心しな」


こいつ、どこまで下種≪げす≫なんだ。

もしこいつが宇宙と同じヒューマノイドで、もし宇宙が負けたら、と思うと全身に鳥肌が立った。せっかく宇宙が一人で行くと言ってくれたのに、のこのことついてきて…と今更思ったところで後の祭りだ。


「お願い、宇宙くん、頑張って」

私たちは祈るような気持ちで二人のタイマンの行方を見守った。

 


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