第20話 鼓動

「ん・・・・・・」

「うん・・・」

たくさんの呼吸を重ねたところで、互いの息遣いを感じながら、美夜と視線を合わせて、どちらからともなく、唇を離す。


「はあ、はあ・・・・・・」

乱れた呼吸が落ち着くまで、すぐ傍で見つめ合えば、少しの名残惜しさと共に、幸せの余韻を感じられて、自然と笑顔になった。


「そろそろ、お布団に入ろうか?」

「うん・・・あっ、真奈。」

血を飲んでもらった時から、はだけたままだった私の服を、美夜が直してくれる。


「ありがとう・・・美夜が望むなら、このままでも、いいんだけどね。」

「い、今は大丈夫・・・風邪ひいちゃうよ?」

そうして、少し落ち着いてきたところで、私達は眠る準備を整えた。



「このまま、眠れそうかな?」

「う、うん、多分・・・」


「美夜、不安そうだね? 血が足りなかったかな。」

「ううん・・・そっちは、大丈夫だと思うけど・・・真奈。もう一回、触って?」

美夜が私の手を取り、さっき部屋に来た時と同じように、自分の胸元に触れさせる。


「闇の気配・・・小さくはなってるけど、残っている感じはあるね。」

「うん・・・真奈の血をもらう前ほどじゃないけど、どくどくして、止まらない感じ・・・」


「これは、志愛しあさんが言ってた、霊脈の活性化の影響を、受けてるってことなのかな。」

「そうかも・・・昨日寝る前には、こんなことは無かったから。」


「そうなると、美夜はこれから、あまり眠れないってことになるんじゃ・・・」

「えっと、真奈は、ちゃんと寝てね? 私は、こうしてるだけでも、少し落ち着くから・・・」

言いかけた美夜が、『あっ・・・』と口にするような表情を見せて、少し顔を赤くした。



「うん? 美夜、何かしたいことがあるなら、私は大丈夫だよ。」

「あ、ありがとう・・・その、直接触ってもらったら、もっと良いかも。えいっ・・・!」

「えっ・・・」

自分の服を持ち上げた美夜が、私の手をその隙間に入れて、心臓近くに触れさせる。


「その・・・私もさっき、しちゃったから・・・おあいこ、だよね?」

「う、うん・・・」

顔を真っ赤にしながら、絞り出すように言う美夜に、自分の身体も熱くなるのが分かった。


「真奈が直接、触れてくれると、もっと落ち着く気がするの・・・これは、本当だから・・・」

「うん・・・美夜の言うことを、疑うわけないからね。」

答えながら、私も一つの考えが浮かんで、言葉を続けた。


「それじゃあ、こうしたらどうかな・・・? 布団の中だから、きっと大丈夫。」

「ええっ・・・!」

美夜の柔らかな場所に触れながら、私はもう片方の手で、上の服のボタンを外してゆく。


「ま、真奈・・・それって、まさか・・・」

「うん。触れ合う場所をもっと多くしたら、良いかと思って。それに、おあいこでしょ?」

「わ、分かったよ・・・」

美夜も自分の服をたくし上げ、私達は同じような格好で、正面から抱き締め合う。


「それじゃあ、おやすみ・・・」

「うん、おやすみ・・・」

顔を寄せ合い、眠る前の挨拶を交わして、互いの鼓動と肌を直接感じながら、瞳を閉じた。



「おはよう、美夜。」

「ん・・・おはよう、真奈・・・」

そして、夜明けが近付いてきた頃、朝の挨拶と共に唇を重ねて、自分達がどのような状況にいるのか、私達は改めて気付く。


「よく考えたら、すごい格好だよね・・・」

「う、うん・・・でも、眠れちゃった・・・」

美夜の頬は、目覚めてすぐに真っ赤だけど、爽やかな表情にも感じられた。


「美夜の『呪い』や霊脈の対策、応急処置みたいだけど、できちゃったね・・・でも、冬が来る前には、根本的に解決したいかな。」

「夏もだよ? 冷房をつけたまま、こんな風にすると、風邪をひいちゃいそうだし・・・つけないでいると、ちょっと・・・」

美夜が、その頃になれば肌に浮かぶだろう、雫を気にするように、胸元へと手を当てる。


「あはは、そうだね。私は、大切な人同士なら、そういうところまでしっかりと、肌で感じるのも、良いと思うけど。」

「ええっ・・・!? ま、真奈が言うなら・・・でも、恥ずかしいから、考えさせて・・・」

「うん。もちろん、美夜が嫌なら、止めておくよ。」

慌てる美夜が可愛くて、私の傍で揺れるその髪を、優しく撫でる。


「もう少ししたら、美夜が部屋に帰る時間かな。」

「そ、そうだね・・えっと・・・」

「うん。もうしばらく、こうしていようか。」

朝日にはまだ少し早いけど、新鮮で、どこか爽やかな気持ちを感じながら、私達はもう一度、肌をぴたりと合わせた。

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