第15話「曙ゆらぎ③」
「その日は、どんな魔術の儀式だったんですか?」
ゆらぎは鉄格子を掴み、食い入るように香織へと問いかける。
「あの日はそうね……言うなれば、神の召喚かしら。」
「神……ですか。」
「私達魔導教会も一枚岩ではなくてね。その内の一派が暴走してしまった。多数の生贄に捧げてその派閥の神を召喚しようとしたの。それが5年前の事故に繋がった。」
香織は牢屋前の椅子に腰かけ、惜しむように語りかける。
「捧げた魔力が溢れ出し、儀式場では爆発が起こり、多くの人々が犠牲になってしまったの。」
「そんなことが……」
「悔やんでも悔やみきれないわね。あの日から、駿も帰ってこないまま。」
俯く彼女の瞳は、とても寂しそうに見えた。
「だから、貴女に力を貸して欲しいの。もう二度と、魔術で過ちを犯さないようにするために。」
「でも、私に魔術は……」
ゆらぎは鉄格子を弱々しく掴み、無力さを感じて俯く。
「使えるわよ。」
「……え?」
当然のようにそう言われた。あれほど練習して、コツを習って、イメージしても使えなかった魔術。それを使えると。
「私はね、人の秘めたる力を引き出すことができるの。貴女は少し緊張していただけ。素質は充分過ぎるほどにあるわ。」
「そんなこと……」
ありえない。そう否定することは簡単だが、目の前の女性の言葉は不思議と信じられるように思えた。
「その足の鎖。勝手に繋いじゃってごめんなさいね。貴女の力を試してみたくて。ほら、足を引っ張ってみて?鎖に意識を取られずに、貴女の身体に神経を集中させるの。」
彼女の言葉の通りに、自分の身体に意識を持っていく。
今日はなんだか、溶け込むように目を閉じることができた気がした。
「せー、のっ!」
勢いのある声と共に、バキッと音を立て、ゆらぎの足を戒めていた鎖が引きちぎれた。
「!」
「ようこそ、魔術師の世界へ。あんまりドラマチックな始まり方でなくてごめんなさいね。」
「奴らの言う神、協会では『権能』と呼ばれる力の召喚術式。それが5年前の儀式の正体だ。そしてその触媒として、今回曙は攫われたと協会は睨んでいる。」
「……さっきから何度か出てきましたけど、そもそも、『権能』って何ですか?」
当たり前のように皆の知らない単語を織り交ぜることに、火ノ宮が疑問をぶつける。
「詳しいことは何も分かっていない。神だとか異世界からの祝福だとか言われてはいるが、その力も概要も存在の有無すらも分かっていない。」
「……なら、それとソフィアに何の因果があるんですか?それにゆらぎさんにも。」
疑念は尽きない。1つ説明を受ければまた1つ質問が浮かぶ。もはやいたちごっこだ。
「やっと最初の話題だが、その権能について唯一ともいえる記述があるのが、『ソフィアの手記』だ。彼の魔術書のほんの数ページでのみ、権能について述べられている。」
「はぁ?そんな大雑把なものが信じられてるんですか?」
理解できないとばかりに金剛がくってかかる。
「その指摘ももっともだが、この魔術書に記された魔術は基本全て実行可能な代物らしい。実際、教会はこれを一つの教典と認め、厳重に保管されている。そしてその中でも最重要項目として、権能の存在、召喚について触れられているとのことだ。流石にそこまでのものを無視はできん。
………俺も実際に見たことはないがな。」
「……それはまぁ、そういうものかと受け入れるしかなんでしょうけど……それがどうしてゆらぎ先輩に繋がるんですか?意味がわかりませんよ!」
先程からの話にはゆらぎの話は一切出てきていない。無理やり攫って生贄にでもする方がまだ信じられる。
だが、そうでは無いことは薄々感じていた。先日からのゆらぎを狙った刺客に、以前巫が口にしていた『特別な力』とやら。ゆらぎ自体が狙いなことは確かなのだろう。
なら、その理由は?
「曙ゆらぎは、ソフィアの子孫だと聞いている。」
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