第9話
装備を部屋に置いて鍵をしてから、一階の食堂に降りて食事をすることにした。
食事ついでに話が出来る人が居たら、いろいろと聞いてみようと思う。
「あんちゃん、メインの肉は羊か豚か、付け合わせは豆か芋から選んでくれ」
「あー選べるんですね。豚に芋にしようかな?」
「あいよ」
キッチンの奥からガタイの良いおっさんが通りの良い声で返事をしてくれた。
時間は20:00を回ったところで、食堂はそれなりに混んでいる。
あんまりじろじろ見ていると怒られそうだけど、帯剣してたり鎧を着てたりする人が大半で、普段着で街の人っぽい姿の人はほどんどいない。
「おやじ!酒!」
「おい、注文はウエイトレスに言えよ。覚えらんねぇよ」
「なんだよ、注文取り!酒!」
「うるさいね!他がすんだら順番で回るから、おとなしく席で待っててくんな!」
「ちきしょう、早く酒が飲みてえんだよ」
身長が140cmぐらいの小柄なだが、節々が太くて屈強なひげ面のおやじが、食堂の隅で大声を上げている。
オレはそれを見て確信する、アレはドワーフだ。
ドワーフが居ると言う事は尖がった耳のエルフも間違いなく居るはずだ。
そう思って周りの席の人の姿をよく観察していると、明らかにしっぽが生えてる人を発見する。
耳はふさふさで頭頂部から生えていて、しっぽは腰あたりから生えており、しっぽの先が黒い、頭髪は白髪と言うか銀髪のような髪の色をしている。
ヤバい、オオカミ系の獣人だ。
腕とか顔は毛むくじゃらじゃなかったので、人に見た目は近いのかな?
きょろきょろしてたら、おばちゃんがテーブルにでっかい芋を蒸かしたのと分厚いステーキみたいなお肉、香ばしい香りのするスープが運んできてくれた。
ナイフとフォークがあるので、オレはそれを使って食べる。
いろんな席を見回していると、おばちゃんがやってきた。
「ちょっとにいちゃん、混んできたから相席頼むよ」
オレは頷くとウエイトレスのおばちゃんが手招きして、耳が尖がった金髪の白い肌のスレンダーな長身の男が座る。
うっは、ヤッバ、生エルフだ。
「何か悪かったかな?」
「あ、すみません。エルフを初めてみたんで、つい」
「どんな田舎からやって来たんだい?王国では珍しいものでもあるまい」
「気分を悪くしたらごめんなさい。あ、オレはレンジって言います」
ちょっと熱い視線を送り過ぎてしまったかもしれない。
「なるほど、相席を失礼するよ。私はウィルトだ」
お互いに軽く会釈をすると、ウィルトはオレをじっと見つめてくる。
なんかすごい顔が美形だから、じっと見られるとなんかドキドキする。
「レンジ君、もしかして王国は初めてかい?」
「あ、そうですね」
「なるほどね、亜人が珍しいって事は帝国から来たのかい?」
「帝国?いえいえ、隣のエルデリンテから来ました」
「へぇ、聖国からねぇ」
「ええ。あっちじゃフードかぶってる人が多いんで、亜人ですか?が居るのは気付かなかったんですよね」
「ほう、確かに」
「それにしても、エルフの方ってやっぱり美形の人が多いんですね」
「エルフが美形だって?それはどういう意味だい?」
「あ、目鼻立ちが整って、スタイルが良いって意味です」
「はは、レンジ君はなかなか面白い事を言うね」
なんだろう、受け答えしてくれる人に初めて会った気がする。
「あ、でも、初見の人に言うのは失礼でしたか?」
「いや、そんな事は無いよ。美形だって言われて悪い気はしないからね」
「なんか、調子に乗ってすみません」
「いや、いいんだよ。貧弱だなんて言われるよりは、ずっと良いからね」
「え?そんな事言う人居るんですか?」
「ああ、レンジ君も細身だから、そういう事を言われる事があるんじゃないかい?」
「あ。確かに言われたかも」
「そうだろう?モンスターを倒すのは力だけじゃないけど、力の方が見た目で分かりやすいからね」
ウィルトは、テーブルに立てかけてある弓を指でなぞっている。
「あ、弓なら腕の力よりも目の力ですかね?」
「レンジ君はなかなか面白い事を言うね」
ウィルトが笑いながら言う。
話の合間にウィルトの食事が運ばれてきた。
芋は一緒だったけど、肉は形が違うから羊なのかな?
「変に思われるかもしれないですけど、やっぱりエルフの人もお肉食べるんですね」
「え?なんだい?」
「あ、いや、エルフの人ってお肉は食べないって聞いた事があったので」
「エルデリンテでは、エルフはずいぶんと偏見を持たれているようだね」
「お気を悪くされたらすみません。なんか、エルフの人って、森の民だから木の実とか果物とか主食って感じだったので」
「あはは、それなら獣人族は、生肉を食べるとか言われていそうだね」
「そうですよね、ほんとに勘違いでした」
「まぁ、森の集落は肉食よりもそれ以外の食事が多いかもしれないけど、エルフは森以外も街があるし、海も砂漠も部落はあるからね」
「そうなんですね、やっぱり明日、図書館に行って常識を学ばないとヤバそうです」
「ああ、本で学ぶなら図書館は良い選択だね」
オレはウィルトの言葉を聞いて、図書館に行く事を決めた。
しばらく談笑していると、おばちゃんにお酒を勧められたので、メニューを見て銅貨4枚って書いてあるビールを頼んでみた。
銀貨で払うと、銅貨を8枚返してもらう。6枚じゃないんだ?
あと、ウィルトは明日も早朝から外に出るので、今日はお酒を飲まないらしい。
「朝から出かけるというと、やっぱり弓で狩りですか?」
「そうだね、探索者みたいにダンジョンに入るのも良いんだけど、私は森で荒ぶる魔物の退治をする方が性にあっているんだよ」
「探索者にダンジョン?」
「なるほど、レンジ君は探索者協会も知らなそうだね」
「ええ、そう言う協会があるというのは、この街の案内図で知ったぐらいです」
「なるほど」
ウィルトは頷いて、胸の内側から金属性のプレートを取り出すと、オレに見せてくれた。
「これはね探索者カードって言うんだけど、探索者として協会に登録されると貰える証明書みたいな物なんだ」
「おー、なんかカッコいいデザインのカードですね」
「あはは、そうだね。レンジ君も一度協会に行って、このカードを貰うために初心者講習を受けた方が良いかもしれないね」
「初心者講習ですか?」
「そうだね、レンジ君が探索者や土地の魔物を狩る必要はないけれど、初心者講習では座学で世間のイロハも教えてくれるし、このカードがあれば自分の証明書にもなるから、今後も役に立つんじゃないかな?」
「おー、マジですか」
「そうだね、私も300年ぐらい前に集落から旅に出たんだけど、その時は協会にずんぶんと世話になったよ」
ウィルトからの視線が優しくなった気がする。
さらっと300年って言ってるけど、エルフってやっぱり長生きなんだな。
「それに図書館は身元が分からない旅行者には読ませない本もあるから、エルデリンテから来たなら王国の市民証もないだろうし、あって損は無いと思うよ」
「まじか、やっぱり証明書はあった方が良いですね」
「まぁ、本だっていろいろあるけど、有用な本ほど総じて高価だから、盗難対策はしているよね」
「確かに、情報を得たいし図書館が先かなって思ってましたけど、探索者協会に先に行ってみることにします」
「私のアドバイスが、レンジ君の旅の助けになれば幸いだよ」
オレはウィルトにお礼を言って、食事を終えた。
ビールを飲んだし、今日はいっぱい歩いたので、部屋に戻ると一気に眠気が来た。
戸締りをして、服を緩めてベットに寝転ぶと、すぐに寝落ちした。
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