第6話

「結局このバックって一体誰のなんだ?」


 麻袋には金目の物が入っていたが、見慣れない女物のハンドバックまで渡されたのは困っていた。


 オレは確認の為にそのバック開くと、財布とスマホが入っている。

 小物もいくつか入っているので、ひっくり返してみると、化粧品や生理用品が出てきた。


 良い事じゃないけど、念のため財布を開いてみる。

 札は一枚も入っていないが、大量の小銭とレシートに様々なカードが入っている、そして、免許証が入っていた。


「高坂 茜さんね?」


 100%あの場に居なかった人の免許証で、免許証をよく見ると、22歳でオレと同じ年だった。

 少し思い出してみる。

 光に包まれた時も、その後も、周囲の人はオレと高校生グループしか居なかった。


 さらによく観察すると、バックは蹴とばされたような汚れた跡があり、肩ひもは片方が千切れていた。

 もしかすると、ひったくられて捨てられたのかもしれない。


 他に情報がないか探してみるが、特に目ぼしい物は見当たらない。

 レシートがたくさん入っていて、ポイントカードもたくさんあった。

 とにかく小銭はたくさん入っていて、1円ばっかりでなく100円や500円玉も多い。

 この様子でお札が全く入っていないのはちょっとおかしい。


 整理しながら財布を空にすると、キャッシュカードの裏から4桁の数字が書かれたメモが出てきた。

 嫌な予感はするが1608と書かれていた。


「まさか暗証番号じゃないよな」


 次はスマホだ。手帳型タイプのカバーが付いていて、カバーを開くと誰かのブロマイドと定期が印刷されているMELONが入っていた。

 スマホは電源が入っていて、ロックの掛かった生体認証モードだったが、代替えのロックは4桁の数字っぽい。


 試しに1608を入力するとロックは無事に解除された。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 電波は圏外だ、充電は93%だった。

 あんまりプライバシーを覗くのは良くないので、とりあえず電源を切ってしまう。


 ハンドバックはおそらく札が抜かれた盗難品だと思う。

 だが、地球とは違う世界に来てしまったので、永久に返還されることがないのは残念だが、不正使用もないので安心して欲しい。

 充電はオレのスマホと同じタイプだったので、予備のスマホとして使わせてもらうことになるかもしれない。

 とりあえず、財布の中身をしまってハンドバック置いておく。


 今度は自分のスマホを取り出して、動作のチェックをしてみた。

 電波は圏外、通信は不可能、GPSも掴まない、確認で地図アプリを使うが、現在地情報はGPS電波がないと警告された。

 マジで地球外に来てしまった。


 とりあえず、カメラは起動したので、周囲の風景や荷物を撮影しておく。

 記念もあるけど、何かの役に立つかもしれない。


 カメラアプリで黒いプレートを撮影したときに、プレートの内側に何か透けて模様が見えるを発見した。

 だが、実際にプレートを手に取って見てみると、模様は見えない。

 よく調べる為にアプリでピントを合わせてズームすると、模様にカメラのQRコードリーダーが反応して、情報が表示される。


「なんだこれ、QRコード?それに意味不明な文字列」


 文字コードが地球のとは異なるのだろうが、模様は確かにQRコードリーダーに反応している。

 少なくても、QRコードの形状に一致していると言う事なのか。

 しばらく考えて解読してみたが、この文字列の法則性はすぐに分からない。

 とりあえずメモに文字列を書き写しておく、スマホがないと見られないのでは、スマホの充電が無くなった時に不安だ。


 とりあえず次の背負い袋を調べようと思って、机にスマホとカードを重ねておいたら、スマホの無線充電が反応した。

 試しにスマホから充電を開始すると、黒いプレートに青白い光が浮かび上がって、横に三つに分かれた上下に+とーのマークが付いている数字と枠が表示される。


「546,546,546?」


 とりあえずメモに取るが、意味は分からない。

 左の枠の+のマークに触れると、同じ枠にある数字が増えて「585」で止まった。

 プレートに特に変化はない。


 今度は―のマークに触れると、数字が減って「0」で止まった。

 プレートは少しくすんでいるが鮮やかな真っ赤になった。


 他の枠も触ってみるが、数字を増やしたり減らすと緑と青の色が変化してRGBの順番で並んでいると気づく。


「なんかよくわかんないけど、地球の技術っぽいプレートだな」


 残念ながら、プレートについてはそれ以上の情報は得られなかった。


 とりあえず、掘り込みと黒っぽい色の設定が嫌な感じがしたので、初期値っぽい0に全部設定すると、プレートは透明に近くなった。

 すると、プレートが透明になったせいか掘り込みはとても読み辛くなって、カモフラージュが出来そうな感じがする。


 オレはいっそのこと偽装してやるかと思って、なぜか拾ってしまった「茜さん」の化粧品の中に、マニキュアのトップコートがないか探す。


 すると、あまり使っていない透明のトップコートと除光液があったので、プレートを手持ちのスマホ磨きクロスで拭いてから、トップコートを表面に塗ってみる。

 しっかり乾かすといい感じで、彫った文字が消えてトップコートを塗った跡が分かる程度になった。

 流石に何かを塗った面は目立つので、除光液を手持ちのティッシュにしみこませて、平らになるように軽く拭いてみる。


 すると、素人な仕上がりではあるが、プレートの表面は綺麗になり、彫った文字はほとんど見えなくなった。

 明るい場所にかざすと、光の加減でかすかに跡が見えるが、文字としてはほとんど分からない。


「よし、偽装完了!」


 素人の出来栄えだが、なんかうまくいきそうな感じがして、嬉しくなった。

 ついでに、不幸にあったのは間違いないが、結果的に助けてもらった「茜さん」に女神級の感謝をした。


 マジ感謝、テラ感謝。


 使った化粧品を片づけた後、最後は窓口の女にもらった背負い袋を開けてみる。


 パックパックには革製で黒い金属がカップになってる胸当て、ポーチと鞘当てが付いた腰ベルト、ブーツみたいな紐の革靴、少し灰色っぽい服と3セットのクリーム色の肌着とスパッツと長めの靴下。


 貰ったプレートの内容からすると、悪意のある物も含まれているかもしれない。

 そう思ってスマホをかざしたりライトで照らしたり、隅々まで良く調べてみたが、残念ながら怪しげな刻印や隙間に何かが入っているような様子は無かった。


 ポーチには長細いガラスみたいな容器にコルク栓みたいなのが付いた、黄色と青の液体が3本ずつ入っていたが、なにかはわからない。


「これってポーションかな」


 教会みたいなとこだったし、薬をくれてもおかしくない。

 だが、これを飲むことはないだろう。


 オレはコルク栓を全部開けると、橋の下に液体を全部ぶちまける。

 容器のポイ捨ては良くないし、貴重な物かもしれないので、空にして持っておくことにした。


 洋服が入っていたので、着替えるかどうかを考えた。

 出勤前だったので、オレはビジネススーツにネクタイ姿だ。

 教会の中の人しか見ていないし、渡された普段着のレベルから考えても、スタイルが違いすぎて目立つのは間違いないだろう。


 思い至って橋の両側を見渡すと、周囲には人影は見当たらない。

 装備も入っていた事だし、ネクタイスーツ姿を止めて、パーっと着替える。


 だが、下着だとは思うけど、スパッツみたいなのを履くかどうかは最後まで迷う。

 だが、どうするか決めないと着替えが一向に進まない。

 きっと手の込んだボクサーの様な下着はない可能性を考えて、慣れるためにもスパッツを履くことにした。


 素っ裸にスパッツは、きゅっと密着してとても気持ち悪い。


 肌着も服も着てベルトを通すと、剣は鞘当てに通して、ポーチには電源を切ったスマホと地図と空き瓶を入れておく。

 最後にすべての荷物を背負い袋に入れると、縛り紐に盾を巻きつけて背負った。


 プレートはスマホに近いと反応して面倒そうだったので、ズボンのポッケにしまった。

 何枚か金貨もポーチに入れておく。


 とりあえず、これで準備は完了だ。

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